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創作覚書 オブジェクト

物との関わりについて考える。
物は、thingsとかmaterialとかfigure、もしくはobject。
ここではobject。主体と客体の客体。
なにしろそれについて考えることが、いま最も大切なことだと思っていて、私の表現はたぶんそこに帰結していく。この先ゆっくりと。
このことについて専門的に扱っているのがオブジェクトシアター(人形劇界のひとつの潮流)であって、しかし普通の演劇をやる場合においても物との関係を考えたほうがいいと思っている。このことは私の演出にも深く影響していると思う。

そもそも元々人形劇に興味があった。
だから劇団を立ち上げた時も当初は"人形劇団"と名乗っており、作品の中に人形を多く登場させてきた。
ただ、人形劇をやるにあたって、それを操る人間の存在を後退させるいわゆる黒子的な役割にしてしまうことを嫌っていたし、それだと本来やりたい人間が持つダイナミズムを禁欲的にしてしまう。人形の特有の表現力を信じてはいるけれどもそれと同等に人間も扱いたい。
だから人形劇団を名乗っていた当初も人形を扱いつつ、それを扱う人間の役割についてかなり頭を悩ませながら創作していた。
黒子的に人形を扱ってみたのは1回だけで、それ以外では、”いるけどいない存在”として手を替え品を替え模索していた。
結果的に、その工程に行き詰まりというか、これで人形劇団を名乗っていていいのだろうか?とか、やっぱり自分がやりたいのは人間の芝居なのではないだろうか?という壁にぶち当たってしまい、劇団の名前から人形劇団の看板を下ろした。
その後は比較的柔軟に、人形を扱ったり扱わなかったりしている。

その頃はオブジェクトシアターの文脈を知らなかった。
それを知ったのが今年(2024年)の下北沢国際人形劇祭(sipf)でのことだった。
この人形劇祭では主にヨーロッパを拠点に展開する人形劇カンパニーの作品の数々が招聘され、その複数を観ることができた。
そこで洗礼を受けた。

オブジェクトシアターは何も近年盛んになっている潮流ではない。
50年代以降に(!?)当時の人形劇界の中から派生して生まれたジャンルで、当たり前に扱われていた人形から人形以外のもの、日用品などを含めた物を使って作品が創作されていった。
ただ、オブジェクトシアターの肝は"物を扱う"からオブジェクトシアターなのではない。扱うのは物でも人形でも構わない。ただ、その人形/物を扱う"人"の役割に視点を置いた人形劇である、ということ。
オブジェクトシアターの舞台では大抵の場合、人間にも役柄があるしもちろんセリフがある、そしてその人間と人形/物との関係で舞台を構築していく。
まさしく私がもともとやりたいと思っていた(やっていた)ことと重なる文脈だった。
オブジェクトシアターに関して以下のインタビューで要約されていてわかりやすい。
体験的オブジェクトシアター論 ― 沢則行氏インタビュー ―

オブジェクトシアターの文脈は日本の舞台芸術、および人形劇の文脈には皆無と言っていいと思う。おそらく。
形式としてそういった体裁をとった作品はあるにはあるので、掻い摘めば見つけることはできるだろうし、そういった作品を嗜好して観ている人もいるとは思う。
でも、体系的にそんな作品を創作し続けているカンパニーはないように思えるし、言葉としてもオブジェクトシアターを名乗っている方に出会ったことはない。
つまり表現の傾向としてかなり空白地帯であると感じさせる。

2024年2月の下北沢国際人形劇祭(sipf)がやったのは、その空白の数十年間を埋める作業だったと思うし、私と同様多くの人がその洗礼をビシビシ受けたと思う。アツかった。
そんなsipfについてはまたまとめるとして、どうしてそんなオブジェクトシアターが重要なのか。

オブジェクトシアターは物と人との関係を描く表現形態である。
それは、人と人の関係を描く本来の演劇とは違う。
舞台で扱う物の選定から、その扱い方、手触りや仕草がその表現になる。
そしてその"物"とは、人間を含む生物、数々の生命を宿した生物が残した、その屍のことである。と、そう言い換えることができなくはない。そう考えると、私たちは数々の屍に囲まれて(支えられて)生きている。
その生命の亡骸を扱うのがオブジェクトシアターなのではないだろうか。
生きている人間だけで表現を完結させようというのはもう傲慢すぎる。

やや話が飛躍した。
でもここで言いたいのは、物も、他人も、人形も、言葉も、声も、音も、光も、空間も、その全てを含めて舞台の登場人物なのであって、その関係を描くのがオブジェクトシアターであるということ。
そのことに起点を置きたい。
そう思って、内側の時間の公演ではテント=空間やそれ以外の物質も、オブジェクト(客体)として扱ってみた。
まだまだ途中段階。
様々試作したい。

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