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恋の香り、それは

寒くなればなるほど凛として、暑くなればなるほど涼やかに甘い。
もっともっと欲しくなる香り、それはネロリ。

私はあらゆる物事に対して起こる「恋」という現象が大好きだ。

心の内側でポッと「なにか」が発生する感じ、その空気感、雰囲気。
恋は薔薇色と言ったりもするから、対象あってのシチュエーションにはローズの香り、というのは自然なこと。
でも私は、ネロリほど「恋」に似合う香りはないと思っている。

対象が何であっても、恋には期待とかワクワク感みたいな「自分が内側から拡大していく感じ」がついてくるし、それは時として驚くほどのパワーで自らを行動に駆り立てる。
それは居ても立っても居られない感情なはずなのに、どういうわけかその発生は静かだ。
岡本太郎の有名な言葉「藝術は爆発だ」の「爆発」とは、心のうちで静かにおきる爆発、そして表出なのだという。

恋と藝術はなんだか似ている。
そしてネロリの香りは騒がしくない。
静謐なのがいい。
静かに「恋」が発生するその瞬間、そのものに思えてならない。

私が2020年一番恋に落ちたネロリは、ゲランのネロリ・ウートルノワ。
トップノートからしっかりと香るネロリとオレンジブロッサムが、肌に食い込んでくる。食い込まれたところから、徐々に広がるのはスモークティ。
香りの切れ間に存在感を示すミルラとベンゾインは、漆黒の香り立ちともいえる、心にずんと響いてくる、燻る祈りの香り。

曇天に雲は早く流れてゆく情景、明らかなる短調の音楽。まるで不安を孕んだ恋の焦燥感のような。
モーツァルト「アダージョとフーガ」、サン=サーンス「オルガン付き」、ブルックナーの2番…数ある短調の中でもネロリ・ウートルノワにはハ短調を、そして転調して変ホ長調の儚いきらめきが感じられる。

私のネロリの旅はここに行き着いたかな、という実感があって、とにかく一度は試香してみていただきたい、それはそれは美しい香りが、このネロリ・ウートルノワなのである。

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