「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第5話
〇舞踏会(夜)
見つめ合うフェデリックとリリー。
2人で踊っている。
リリー、うっとりした表情。
フェデリック、心ここにあらずといった表情。
〇部屋(夜)
リリー「ああ、楽しい!素晴らしい踊りでした」
フェデリック「ああ」
リリー、ワインを飲み干す。
リリー「ふぅ」
リリー、ベッドに腰掛ける。
リリー「それで?私をこの部屋に呼んだのはどういうつもりですか?」
フェデリック「……」
リリー「(からかう目つきで)何かしたいの?」
沈黙。
フェデリック「いや。きみに聞きたいことがあるんだ」
リリー「何?」
フェデリック「ルドルフ司令官と……ミザリーのこと」
リリー、深いため息をつく。
リリー「はぁ。そういうこと」
リリー、ワインを自分で注ぎ、飲み干す。
リリー「エレナと協力して、ルドルフとミザリーのことを探ってるのですか?」
リリー、立ち上がる。
リリー「悪いけど、巻き込まないでくださいます?エレナには言ったけど、面倒なことしたくないの。聖騎士団にいるのだって、お給金がいいからってだけで」
ズン……ズン……という地鳴り。
遠くで悲鳴が聞こえる。
リリー「え、何!?」
フェデリック、部屋から飛び出す。走りながら、
フェデリックM「エレナ、エレナ」
〇舞踏会(夜)
血だらけの貴族たちが倒れている。
人々は我先に逃げようとしている。
魔獣が人々を襲っている。
フェデリック「エレナ―!」
エレナ「(静かに)ここよ」
フェデリック「よかった!無事だったんだね」
フェデリック、暴れる魔獣を見て、
フェデリック「一体どうしてここに……。会場周辺では結界師が結界を張っているはずなのに」
エレナ「……」
エレナ、ミザリーの顔を思い浮かべる。
エレナ「まさかね」
男性貴族①「助けて、助けてくれー」
男性貴族②「あ、あの方は」
男性貴族②、部屋から出てきたリリーを見て叫ぶ。
男性貴族②「聖騎士団様!お助けを!」
周り、どよめきたつ。
周り「聖騎士団様!」
「あいつを早くやっつけてください」
「聖騎士団様がいるなんて!助かった」
リリー、たじろぐ。
リリー「え、私!?」
周り、リリーに拍手を送る。
リリー、退くに退けない。
リリー、周りをキョロキョロ見渡す。
リリー「いた!」
リリー、エレナに近づく。
リリー「(小声で)お願い!強化して」
エレナ「え?」
リリー「強化よ、強化。エレナは強化魔法が使えるでしょ。」
エレナ「……」
周り、リリーに声援を送り続ける。
リリー「見なさいよ、この状況。戦うしかないし。でも、私1人じゃ無理。強化……というか一緒に戦ってくれてもいいわよ。そしたら、あなたも聖騎士団に戻れるんじゃない!?」
リリー、エレナの肩をつかむ。
エレナ「悪いけど」
エレナ、リリーの手を払いのける。
エレナ「もう正義のヒロインなんて願い下げなの」
リリー「なっ」
エレナ「あなたを強化しても何の得もないし、面倒だわ」
リリー、凍り付く。
フェデリック、無言でエレナを見ている。
リリー「分かったわ」
リリー、呪文を唱えて剣を出す。
周り、期待の眼差しでリリーを見ている。
リリー、剣をかまえ、
リリー「やっぱり無理」
リリー、逃げ出す。
周り「!?」
「逃げた?」
「作戦か?」
「戻ってこない……」
魔獣、暴れ続けている。
フェデリック「どうやら聖騎士団様は逃げたようだね」
エレナ、ため息をつく。
エレナ「あなた、剣術は?」
フェデリック「剣?得意だよ。ちなみに弓も僕の得意分野だ」
エレナ、フェデリックに耳打ちする。
フェデリック「分かった」
男性貴族①「(弱弱しく)ああ、もう駄目だ。神よ、今参ります」
魔獣、力を込めて男性貴族①を握っている。
矢がとんでくる。
矢が魔獣の目に刺さる。
魔獣「ウグ……ウグググ」
魔獣、怒ってフェデリックに襲いかかる。
男性貴族①、放り出される。
エレナ、男性貴族①に駆け寄る。
男性貴族①、虫の息。
エレナ「もう大丈夫。今、あなたの体力を強化します」
男性貴族①、血が止まって顔色が良くなる。
男性貴族①「あ、あ、ありが……」
エレナ、フェデリックと魔獣を見る。
エレナ、手のひらを重ねて魔獣に向ける。
魔獣、エレナの弱体魔法により少し小さくなる。
エレナ「くっ…この魔獣、けっこう手強い」
〇フェデリック戦闘場面(夜)
フェデリック「さぁ、来いよ!」
フェデリック、剣を抜く。
魔獣「グルグルグル……」
魔獣、フェデリックに切りかかる。
魔獣の大きな爪でフェデリックの身体が傷つく。
魔獣、再度切りかかる。
エレナ、後ろから魔獣を斬る。
魔獣、エレナの方を見て
魔獣「グ……ギ……」
魔獣、倒れて灰になる。
フェデリック「やった!」
周り「助かった……」
「ありがとう!」
男「彼女は一体……」
女「ねえ、あれって……エレナ様!?」
男「本当だ。聖騎士団の前団長・エレナ様だ」
男女、驚いて顔を見合わせる。
拍手喝采。
フェデリック「おとり作戦成功だな。でもエレナ、普通は言い出した方がおとりになるものでは」
エレナ、プッと吹き出す。
エレナ「そうよね。ごめんなさい。でもホラ、あなたが戦ってくれている間に魔獣を後ろから弱体化できたから。目を射抜かれて怒り狂ってたおかげで、気づかれずに済んだわ」
エレナ・フェデリック、声を出して笑う。
周りからの拍手が鳴り止まない。
周り「エレナ様ー!」
「ありがとうございます」
「聖騎士団に戻ってきてください」
エレナ、照れくさそうに微笑む。
〇外(夜)
エレナ・フェデリック、家路につこうとしているところ。
男性貴族①「ありがとうございました。この御恩は決して忘れません」
エレナ「そんな、大げさな」
男性貴族①「これを」
エレナに美しいハンカチを手渡す。
エレナ「これは?」
男性貴族①「これは我が一族、ミランダ家の紋章が刺繍されたハンカチです」
エレナ「きれい。金の糸ね」
男性貴族①(ミランダ伯)「もし、エレナ様が何かお困りになられた際、どうぞこのハンカチを使ってください。この紋章がきっとエレナ様のお役に立つことでしょう」
ミランダ伯、エレナの手を握る。
フェデリック、咳払いをする。
フェデリック「ゴホン」
ミランダ伯、エレナの手を離す。
エレナ・フェデリック、ミランダ伯と別れる。
〇フェデリックの邸宅・客間(夜)
エレナ、フェデリックの手当をしている。
フェデリック「嬉しかったか?」
エレナ「何が?」
フェデリック、少し苛立って、
フェデリック「ミランダ伯と手なんか握ったことだよ」
エレナ「ふぅん。嫉妬してるの?」
フェデリック、赤面する。
エレナ「そっちこそどうなのよ。リリーと踊って……その後は2人きりだったじゃない」
フェデリック「きみも……嫉妬してる?」
エレナ「(いたずらっぽく)どうかしらね」
エレナM「……きみ……『も』?」
〇フェデリックの邸宅(朝)
戦闘から数日経った朝。
大きな馬車がフェデリックの邸宅前で止まる。
使者、ラッパを鳴らす。
メイド「何事かしら?」
使者「失礼!こちらに聖騎士団の前団長エレナ殿はおられますかな」
メイド、戸惑う。
フェデリックが現れる。
フェデリック「この家の主、フェデリック・ド・フーシェです。いかがされましたか」
使者「これはこれは。私、国王の使者でございます。こちらに聖騎士団の団長だったエレナ殿がおると耳にしまして。国王の書簡を届けに参りました」
使者、フェデリックに書簡を手渡す。
使者、馬車に乗って去る。
〇フェデリックの邸宅・客間(朝)
エレナ「あら、おはようフェデリック。誰かいらしてたの?」
フェデリック「おはようエレナ。そして、おめでとう」
フェデリック、エレナを抱きしめる。
エレナ「おめでとう???」
フェデリック、エレナの目の前で書簡を広げる。
フェデリック「きみが次の叙勲対象者に選ばれたらしい!」
嬉しそうなフェデリック。
エレナ「……勲章を貰えるってこと?私が?どうして?」
驚きを隠せないエレナ。
(続く)
第6話↓
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