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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第20話(完結)

〇国王軍警察・牢獄(暗く、汚い、鉄格子)(朝)

   朝だというのに、全く日差しは入らず薄暗い。

ミザリー「何であんたがここにいるの!?エレナ!!!」

エレナ「騒がないで。話をしにきただけだから」

ミザリー「話すことなんか何もないけど」

エレナ「私にはあるから来たの。でも、こんな薄暗いところでは……場所を変えて話しましょう」

   エレナ、国王軍警察の係員を呼びに行く。
   係員が4名到着し、ミザリーが逃げないよう前後左右をガードし、別室へ移動した。

〇面会室(朝)

   牢獄に比べると、窓から日差しが入り明るい雰囲気がある。
   重たい扉の外では警備員が待機している。

   ミザリー、乱暴に椅子を引いて、

ミザリー「で?」

   エレナ、真っすぐミザリーを見る。

エレナ「前に言ってたこと。『あんたが大嫌いだった。ずーーーっと聖騎士団から追い出す日を夢に見ていたの』って。いつから?いつから私のことが嫌いだったの?」

ミザリー「チッ」(舌打ち)

ミザリー「そんなことを聞きたくてわざわざ来たわけ?暇でいいわね」

   エレナは何も返答しない。ただ、答えを聞くのを待つという姿勢。

   1時間が経った。
   窓の外からは、木に小さな鳥が5羽留まっているのが確認できる。

ミザリー「……ずっとよ」

エレナ「え?」

ミザリー「聖騎士団に入団した時からずっと嫌いだった」
    「だってそうでしょ?大きな家に生まれて、高い教育を受けて、志が高くておまけに正義感も強い!あんたにだけ使える強化魔法でいっっっつも仲間を強化して、自分だけ傷ついて……。何ソレ。聖女様にでもなったつもり!?」
    「貴族だけ助ければいいのに、貧民なんか助けて、解雇されて……。馬鹿なの!?」
    「あんたには分からない。生まれながらに全てを持ってるあんたなんかには!」

   ミザリー、早口でまくし立てたので、息遣いが荒い。

ミザリー「ハァハァ」

エレナ「……ミザリー……」

ミザリー「うんざりなのよ!あの太陽のように眩しいあんたが近くにいると、こっちの影が余計際立つ!どうせ私は太陽になんかなれないわよ!」

   ミザリーは幼子のように声を上げて泣きじゃくっている。

   面会室の扉が開いた。

警備員「何を騒いでいる!?」

エレナ「大丈夫です。何もされていません。大丈夫ですから、このまま話をさせてください」

警備員「……それならいいが。あまり騒がしくしないように」

   警備員、面会室から出ていく。

   ミザリー、下を向きながら、

ミザリー「(小声で)……たのよ」

エレナ「え?」

ミザリー「……なりたかったのよ。エレナに」

   ミザリー、涙を拭う。
   泣きじゃくった後であるため、ヒックヒックとしゃっくりをしている。

ミザリー「貧民街に生まれて」
    「ヒック、ヒック」(しゃっくり)
    「必死で学んで、ようやく聖騎士団に入ったのに……」
    「いつも、いつも思い知らされる」

エレナ「……」

ミザリー「エレナがいると思い知ってしまう。努力だけではどうにも埋まらない」
    「生まれた環境の差、才能」

   ミザリー、顔を上げる。

ミザリー「きっとエレナは永遠に分からない」

ミザリーM「貧民街でエレナが助けた貧民が、昔の私のようだった」

回想シーン
×    ×    ×
〇貧民街

   ボロボロの服を着て、食べ物を探しているミザリー。
   パン屋裏のゴミ捨て場を漁っている。

×    ×    ×

ミザリー「エレナが助けた貧民は、助けてもらって喜んでいるのかな」

エレナ「え……」

ミザリー「生きてる限り、どうしても貴族様と比べてしまうじゃない。惨めになるだけじゃない。だったらいっそ、あの場で……」

   ミザリーは焦点を失ったような虚ろな眼差しで天井を見ている。

ミザリー「本当に人間は平等だと思う?」

   エレナはミザリーの問いに対して返答することができない。

ミザリー「平等のはずがない。生まれながらに強者と弱者が決まっているもの」
    「エレナの両親は金持ちなんだから、少しくらい騙されたっていいじゃない」
    「偽物の首飾りとは知らず、『遅くなったけど、娘の団長就任祝いに』って」
    「笑っちゃう」

   ミザリー、クックックッと静かに笑いだす。

エレナ「……平等よ」

ミザリー「はい?」

エレナ「貴族だろうと、貧民だろうと、親が子を思う気持ちは平等よ」
   「私が嫌いでも構わないけどね、両親を騙したこと、決して許さない」

   ミザリー、窓の外を見る。
   木に留まっていた小さな5羽の鳥が1羽、また1羽と飛び去ってしまった。
   3羽が飛び去り、とうとう2羽だけになってしまった。

エレナ「……でもね、」

ミザリー「……」

エレナ「でも、ミザリーといて楽しかったことも事実。戦闘の後、よく2人で話したのが、苦しい時の心の支えだった」

   エレナ、椅子から立ち上がる。

エレナ「バイバイ、ミザリー。元気でね」

   面会室の重い扉が開き、すぐに閉まった。
   扉が閉まると同時に2羽の鳥が共に飛び去った。

ミザリー「……バイバイ」

エレナM「心の通じる友だと思っていたミザリーとは結局、心が通じていなかった。でも、心が通じていないと思っていたリリーやソフィアナ、アンナとは友になれた。本当、人生は計り知れない」

〇国王軍警察・正門

   早足で立ち去るエレナ。
   目からは大粒の涙が流れている。
   目線の先には親子がいる。

女の子「ママぁ、見て。小鳥さん」

   女の子は大きな木の傍で怪我をした小鳥を見つけた。

母「あら、怪我をしているわね」

女の子「かわいそう」

母「そうねぇ。でも、どうしようも……」

エレナ「大丈夫。私に任せて」

母「あなたは?」

   エレナ、強化魔法で小鳥を元気にした。
   小鳥、元気になる。

小鳥「ピチチチチ」

女の子「あ!治ったぁ!」

   小鳥は女の子の手から元気よく飛び去った。
   エレナも去る。

女の子「おねえちゃーーーん!ありがとぉー!」

   エレナ、振り返らず手だけ振る。

〇フェデリックの邸宅(夜)

フェデリック「(優しく)おかえり」

   エレナ、ホッとする。
   フェデリックはエレナに何も尋ねない。

〇フェデリックの部屋(夜)

   ベッドに並んで座るエレナとフェデリック。

エレナ「……約束だものね」
   「結婚しましょうか」

フェデリック「ちょっと、それ!僕の台詞だよ」

   エレナ、プッと吹き出す。

エレナ「そうだよね。ごめん」 

フェデリック「でもさ、エレナ」

エレナ「何?」

フェデリック「大切な人から結婚の許可を貰わないと」

エレナ「……大切な人?」

フェデリック「そんなの決まってるよ。エレナのご両親」

エレナ「(悲しみを堪えながら)そうね。本来ならば。でも、両親がどこにいるのか……生きてるのかさえ……」

フェデリック「北部の」

エレナ「?」

フェデリック「北部の港町にね、エレナによく似た男性がいたんだよ。何でも、借金して偽物の首飾りを買っちゃったから、その返済のために、漁船に乗ってるんだって。ホラ、漁船は割のいい仕事だからね」

エレナ「(涙声で)港町?首飾り?」
   「そ、その男性は、ど……のくらい私に似てるの?」

フェデリック「うーーーん」

   フェデリック、扉を開けて、

フェデリック「このくらいかな?」

   初老の男女が立っている。

   エレナ、言葉が出てこない。

エレナ「おと……、おか……」

エレナの父・母「エレナ」

   エレナの父・母、エレナと抱き合う。
   その様子を嬉しそうに眺めるフェデリック。

   数週間が経った。

〇エレナの家(朝)

エレナの父「もう荷物は全部馬車に載せたのか?」

エレナ「もちろん!」

エレナの母「(やや呆れて)嘘おっしゃい。これは何です?」

エレナ「あ!忘れてた!ありがとうございます、お母様」

   エレナの母、ハンカチを手渡す。

エレナの父「私たちの家を取り戻してくださった大切な方から頂いたものだからね。新しい家で、美しい額に入れて飾りなさい」

エレナ「はい」

N「エレナは舞踏会で助けたミランダ伯を頼り、差し押さえられていた家を取り戻した」

回想シーン
×    ×    ×
〇ミランダ伯の屋敷

   ミランダ伯の大きな屋敷を訪れたエレナとフェデリック。

エレナ「こんにちは。ミランダ伯にお目にかかりたく、参りました」

執事「(疑いの目で)どなたです?」

エレナ「名乗らず失礼いたしました。エレナ・ラモリエールと申します」

執事「ラモリエール?知らない名前ですね。どうぞお引き取りを」

   執事、ドアを閉めようとする。

フェデリック「お待ちください」

   エレナ、以前ミランダ伯から貰ったハンカチを出して、

エレナ「ミランダ伯と以前お会いしたことがございます」

執事M「金の糸で一族の紋章が刺繍されたハンカチ……本物だ」

執事「大変失礼いたしました。どうかご無礼をお許しください。どうぞこちらへ」

   エレナとフェデリックはミランダ伯のいる主の間に通された。

ミランダ伯「おお!あなた方は」

エレナ「お久しぶりでございます」
   「実は本日、お願いがあって伺いました」

×    ×    ×

N「事情を把握したミランダ伯が大蔵省に掛け合い、差し押さえられていたエレナの家を取り戻した」

〇エレナとフェデリックの新しい家、フーシェ地方

   のどかな田園地帯にこぢんまりした可愛らしい家がある。
   今日からエレナとフェデリックは、ここで新婚生活を送る。

   馬車が近づいてくる。
   エレナ、馬車の中から、

エレナ「素敵な家だわ……」

フェデリック「少し小さいけどね」

エレナ「ここから新しい生活が始まるのね」

フェデリック「手伝い人を募ったから、きみは中庭でゆっくりするといい」

   エレナとフェデリックが馬車から降りた。

男性と女性「エレナ様!」

   エレナ、声の方を振り返る。

エレナ「あなた方は……」

男性「覚えていらっしゃいますか?以前に貧民街で助けて頂きました」

エレナ「もちろん、もちろん覚えているわ。元気そ……」

   エレナ、涙がこみ上げて言葉に詰まる。

女性「あの時は本当にありがとうございました。夫と共にここで仕事をしているんです」

男性「割のいい仕事があったから、来てみたら、まさかエレナ様の引っ越しだったとは」

   女性、フェデリックを見て、

女性「ご結婚されたのですね。おめでとうございます」
  「どうぞ末永くお幸せに!」

   男性と女性、他の手伝い人に呼ばれて、荷物を運び始める。

エレナ「(小声で)きっと、きっと幸せになるわ」
   「ほら、やっぱり助けてよかったじゃない、ミザリー。人間がもつ生きる喜びは平等なのよ」

エレナM「どれだけの人を助けても報われない正義のヒロインなんて願い下げ!と思っていたけれど、悪いことばかりじゃ無かったのね」

   エレナ、涙を拭う。

   7年後。
   女の子(5)が野原を走っている。

女の子「おかあさま、はやく!はやく!」

エレナ「今行きますよ、アレクサンドラ」

   アレクサンドラは美しい紫色の瞳をしたエレナとフェデリックの娘。

アレクサンドラ「あらら?」

   アレクサンドラ、地面に落ちてしまった小鳥を見つけ、

アレクサンドラ「けがしてる」

エレナ「まぁ、かわいそうに」

   エレナ、魔法で小鳥のもつ自己治癒能力を内側から強化する。

小鳥「ピピピピピ」

   小鳥は元気に飛び去っていった。

アレクサンドラ「おかあさま、いまの なに?」

エレナ「これは強化魔法といって……」

   エレナ、はっとした表情で、

エレナ「5歳になったことだし、そろそろお前にも強化魔法を教えましょうね」

アレクサンドラ「うん!」

   アレクサンドラ、遠くにいる父(フェデリック)を見つけて駆け出す。

アレクサンドラ「おとーうさまー」

   フェデリックは嬉しそうに両腕を広げて、アレクサンドラを待つ。
   エレナはアレクサンドラを追いかける。
   
   空は澄み渡り、鳥たちが風に合わせて飛んでいる。

(完)


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