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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第15話

〇アンナの家

   エレナがひとりでアンナに会いに来た。
   アンナはエレナが待っていることに気づいている。
   しかし、待てど暮らせどアンナは出てこない。

   エレナ、空を見上げる。
   日が沈んできた。

エレナ「(ため息)ふーっ」

   もう6時間も経過した。
   エレナはまだ待ち続けている。

アンナ「(震えながら)何で、何で」

   アンナ、エレナが待ち続けているので、外へ出られない。
   アンナは毛布を被りながらベッドの上から動くことができない。
   辺りはもう真っ暗。

   エレナ、振り向いてアンナの部屋の方を見る。
   アンナは出てこない。

   エレナ、ようやく諦めて去っていった。

   静まり返るアンナの部屋。

アンナ「もう許して、もう許して……」

   エレナが去ったことを知らないアンナは震えて泣いている。

回想シーン
×    ×    ×
〇寄宿舎

   いじめっこに立ち向かうアンナ。
   アンナはいじめっこにやり返され、酷い報復を受けていた。
   誰もアンナを助けてくれない。
   アンナはひとり絶望する。
×    ×    ×

アンナN「その昔、私は正義の味方だった。寄宿舎ではいじめっこに立ち向かい、どんどん悪を成敗していた。でもある日、高貴な貴族の娘に立ち向かったところ、先生から冷遇されるようになり、味方は誰もいなくなった」

アンナM「あんな経験をするくらいならば、もう正義の味方なんかじゃなくていい。正義のヒロインなんて、こっちから願い下げ。心を殺していじめに耐えればいい。最後までミザリーに従えばいい。エレナを裏切っても構わない。ミザリーから報復されるよりはマシだから」

〇フェデリックの邸宅・中庭(夜)

   今夜は雲一つなく星がきれいに見える。

フェデリック「残念だったね」

   フェデリックはそう言いながら、優しくテーブルの上に紅茶を置いた。

エレナ「……」

   エレナは放心している。

フェデリック「アンナは結局、僕らの味方じゃなかったってことだ」

   エレナは何も答えない。
   フェデリックはそれ以上何も言わず、紅茶を飲みはじめた。

〇アンナの家(朝)

   アンナは何日も外出せず、ベッドの上で過ごしている。
   窓を開けると、ふっと風が吹いた。
   その瞬間、アンナの表情が少し明るくなった。

アンナ「(決意して)……よし」

〇軍警察、取り調べ室

   アンナが取り調べを受けている。

アンナ「はい。その通りです」

国王軍警察①「分かりました。これで以上です。ご協力ありがとうございました」

   アンナが取り調べ室から出る。

国王軍警察②「ずいぶんと素直だったな」
国王軍警察③「おかげで今日は早く帰れそうだ」

N「アンナは贈賄事件及び元老院議会襲撃事件の参考人として取り調べを受けたが、どちらの事件についても罪に問われることはなかった」

   アンナは軍警察を出て、そのままどこかへ歩き出した。

〇小さな教会

   街の子どもが教会で勉強を教わっている。

アンナ「ごめんください」
神父「はい。どちら様でしょう」
アンナ「あの、こちらにコメニウス先生がいらっしゃると……それで……」
神父「コメニウス先生ならば、子どもたちに勉強を教えているあの方です」

   子どもたちに勉強を教えている温和な中年男性の姿。

アンナ「コメニウス先生」

   コメニウス、子どもたち、一斉にアンナを見る。

コメニウス「???」
アンナ「はじめまして。アンナと申します。あの、その、私を……」
   「弟子にしてください」

   コメニウス、驚く。

コメニウス「弟子に?」
アンナ「はい」

   コメニウス、うーんと考えこむ。

アンナ「あの、私はずっと卑怯者でした。寄宿舎で先生に裏切られてからずっと力の強い者について、自分を殺していました。でも、」
   「でも、変わりたいんです。先生に裏切られた日に戻って、やり直したい。今度は自分が先生になりたい。決して子どもを裏切らない、権力に媚売らない先生に」

   熱弁するアンナの額からは汗が流れている。

子どもたち「新しい先生?」
     「わーい、何を教わろうかな」
     「先生、魔法は使えるの?」

   子どもたちはアンナを歓迎している。
   コメニウス、子どもたちの様子を見て、

コメニウス「分かりました。ここは、あらゆる人にあらゆることを教える教育の場です。アンナさんといいましたね。私は厳しいですよ」

   アンナ、笑顔で、

アンナ「ありがとうございます。本当にありがとうございます!」

〇フェデリックの邸宅・客間(朝)

フェデリック「さて、ルドルフとミザリーの取り調べも終わったことだし、いよいよ裁判だ」
エレナ「ミザリーは?取り調べで自白したの?」

   フェデリック、暗い表情になる。

フェデリック「いや、ミザリーはずっと黙秘しているようだ。どんな屈辱を受けようともずっと沈黙を貫いているらしい」

回想シーン
×    ×    ×
〇軍警察、取り調べ室

軍警察①「いつまで黙ってるつもりだ!?」

   ミザリー、眉一つ動かさず何も答えない。

軍警察②「もういい、壁を向いて立ってろ」

   ミザリー、黙って壁を向き何時間も立ち続ける。
×    ×    ×

フェデリックM「まったく……すごい精神力だ」

エレナ「裁判では私も証人として立つわ」

   エレナ、怒りでわなわなと震える。

エレナ「……で、裁判で、あいつらの悪事を何もかも暴かなきゃ」

(続く)


第16話↓


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