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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第18話
〇大法廷
リリーに続いてソフィアナが証言台に立つ。
N「ソフィアナは、ミザリーが戦闘に赴かなかったこと、それぞれの望むもの、ソフィアナの場合は高価な薬草で釣られ、3人(リリー、ソフィアナ、アンナ)で戦うことが多々あったことを淡々と証言した。そして——」
ソフィアナ「魔獣に襲われたセナ―トゥス様は深手を負い、私が偶然にも研究生として滞在していた医学修道院で処置いたしました」
回想シーン
× × ×
〇医学修道院
苦しそうなセナ―トゥス。
セナ―トゥスを処置する医師、看護師。
薬草の調合をするソフィアナ。
× × ×
ソフィアナ「お年を召されたセナ―トゥス様にあのような深手を負わせるとは……強い殺意があったと考えられます」
検事「ルドルフとミザリーの関係については何かご存じですか?」
ソフィアナ、考え込んで、
ソフィアナ「いいえ」
「私はルドルフとミザリーが男女の関係にあったという事実を知りません。ただの司令官と団長だとばかり……。あ、でも」
検事「でも?」
ソフィアナ「以前、ミザリーが戦闘に出ない代わりに高価な薬草をくれると言っていました。高貴な貴族でも買えないような値段なので、どうして一介の戦闘員に過ぎない、まぁ団長ですけど、ミザリーが自信満々に手に入るようなことを言ったのか……。確か、ルドルフから国王に進言してもらうと言っていました。一戦闘員の願いをほいほいルドルフがきいてくれるってことは、そういう関係だったのかもしれませんね。だってあの薬草は中くらいの屋敷が買えるほど値が張りますから」
「でも、薬草で戦闘員を釣って、ご自分は戦いに出ないような団長がいる騎士団なんて、こちらから願い下げです」
ミザリー、下唇を噛み続けている。
ミザリーM「ソフィアナ……。優等生の振りして恐ろしい女ね」
ソフィアナ「私が証言できるのはこの程度です」
ソフィアナが席につく。
続いて、アンナが証言台に立った。
アンナM「見ていてください。コメニウス先生、子どもたち」
アンナは真っすぐエレナとフェデリックを見つめた後、それぞれに一礼した。
アンナ「私はルドルフとミザリーの命令によって、議会襲撃のことをエレナ及び彼女の協力者であるフェデリックに伝えました。ただし、」
検事「ただし?」
アンナ「金曜日に予定されていた襲撃を前日の木曜日であると伝えたのです」
検事「それは何故ですか?」
アンナ「ミザリーにそうするよう命令されたからです」
検事「ミザリーにですか?ルドルフは?」
アンナ「ミザリーにです」
検事「一体どうして、ミザリーは違う襲撃の日をわざわざあなたに教えさせたのでしょう?」
アンナ「はい。それについては、私もずっと考えていました。襲撃の日なんて教えず、襲ってしまえばいいのに、何故そうしなかったのだろうと」
「でも、ようやく理解できました」
「ミザリーが抱くエレナに対する強烈な劣等感、コンプレックスのためです」
回想シーン
× × ×
〇お城
楽しそうに会話するエレナとミザリー。
2人だけの世界で、誰も入り込むことはできない。
〇市街地
魔獣に襲われる市民。
息を合わせて戦うエレナとミザリー。
× × ×
アンナ「(独り言のように)あの頃、エレナとミザリーは本当に仲が良かった。いつも2人だけで楽しそうにしていました。戦う時も息ピッタリだった」
「エレナは本当にいい人です。優しくて、正義感も強い」
「でも、」
アンナ、ミザリーの方を見る。
アンナ「エレナは眩し過ぎます」
「エレナといると、光が強くて、自分の影の部分がどんどん大きくなる」
「エレナはいつも、真っすぐ向かい合おうとしてくるから、それが辛くなるんです」
アンナ、エレナに向かって、
アンナ「(ボソッと)ごめんね、エレナ」
アンナ、再びミザリーの方を見て、
アンナ「ミザリーはエレナが憎かったんだと思います。誤った議会襲撃の日をエレナに教えれば、きっとエレナは何があっても元老院の議員たちを救いに行く。でも結果、木曜日は襲撃なんてないから、議員たちに嘲笑される。嘲笑されれば、エレナの心がズタズタに傷つく……」
「きっと、ミザリーはエレナに心を引き裂きたくて、わざと木曜日に襲撃があると私に伝えさせたのだろうと思います」
アンナ、ミザリーに対して、
アンナ「ミザリー、私は分かるよ。あなたの気持ち。何度やられても立ち上がるエレナは眩しくて、こちらの蓋をしている部分までこじ開けられそうになる。私もそうだった。だから、エレナを裏切ったの」
「でも、本当に憎いのはエレナじゃない。自分で目を逸らしている心の真っ黒い部分だって気づいたの。そしたら——」
回想シーン
× × ×
〇小さな教会
エレナが街の子どもに勉強を教えている。
傍らでコメニウス先生が微笑んでいる。
× × ×
アンナ「——そしたら、本当にやりたいことが分かった。ミザリーもいつか、自分と対話できるといいね」
アンナ、涙を流しながら、
アンナ「エレナ、裏切ってごめんね。それと、ありがとう。あなたのおかげで、私」
アンナは涙が止まらず、上手く話せない。
アンナ「わた……し、今、と……ても幸せ」
エレナも涙を流している。
アンナ「これで証言を終わります」
リリー、ソフィアナ、アンナの証言が終わった。
3人の証言について裁判長及び裁判官が話し合っている。
誰も何も話さず、裁判官たちが戻ってくるのを待っている。
一歩一歩、裁判長が歩く足音が聞こえる。
裁判長、裁判官が席に就いた。
裁判長「判決を言い渡す」
大法廷の誰もが裁判長を見ている。
裁判長「被告 ルドルフ・ポラストロンは、贈賄及び議会襲撃の罪で有罪とし、終身刑を言い渡す」
ルドルフ「なっ……」
裁判長「ミザリー・ラモットは議会襲撃に加担した容疑で取り調べを」
ミザリー「……クソッ」
裁判長「それと、」
「エレナのご両親失踪にかかわる事件もただちに調査を」
検事「はいっ」
裁判長「これにて本法廷を散会する」
国王、裁判長、裁判官、検事、弁護士が順に退廷する。
ルドルフとミザリーは軍警察によって連行された。
傍聴人も少しずつ退廷し始めた。
エレナがリリー、ソフィアナ、アンナに対して、
エレナ「みんな、ありがとう」
リリー「お礼を言うのはこっち」
ソフィアナ「そうね」
アンナ「エレナ、ありがとう。あと、この前、居留守つかってごめんね」
エレナ、プッと吹き出す。
エレナ「やっぱり、部屋に居たのよね!分かってたんだから」
一同、楽しそうに笑う。
アンナ「エレナのおかげで、自分の気持ちに気づいたの。だから」
エレナ「だから?」
アンナ「今度はエレナの番」
エレナ「何が?」
リリー「ずっと支えてくれた人に自分の気持ちを伝えなきゃね」
ソフィアナ「そうそう。ね、フェデリック」
エレナが後ろを向くとフェデリックが立っている。
エレナ「わ!びっくりした。いつから居たの?」
フェデリック「ずっと居たよ」
エレナ「……そっか」
リリー、ソフィアナ、アンナ、ニコニコしながら手を振って去る。
リリー「じゃあ、またね」
エレナとフェデリック以外誰もいない大法廷。
エレナ「帰ろうか」
フェデリックは何も答えない。
フェデリック「……まだ帰れない」
エレナ「どうしたの?」
フェデリック「エレナ、きみに伝えたいことがある」
(続く)
第19話↓