「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第16話
いよいよ裁判が始まる。
ルドルフの罪を暴く裁判が。
大法廷の重い扉が開く。
〇大法廷
国王、裁判長1名、裁判官3名、検察1名、弁護士1名、ルドルフが座っている。
大法廷は多くの傍聴人で溢れかえっている。
裁判官「被告 ルドルフ・ポラストロン」
「あなたは、次期議員に推薦してもらうことを目的として元老院の議員たちに賄賂を贈りました。そして、叙勲対象者になれず、議員になることが遠のくと分かるや否や元老院の長であるセナ―トゥスを殺害するという恐ろしい計画を立てました」
「実際に魔獣使いを組んで、この恐ろしい計画を実行しようとしましたね?」
ルドルフ「はい。賄賂を贈ったことは認めます」
裁判官「セナ―トゥスを殺害しようと計画しましたか」
ルドルフ「いえ、していません」
「ミザリーと魔獣使いが組んで実行したことです」
検察「何を言う!自分の部下に罪をなすりつけるおつもりか!?」
ルドルフは何も答えない。
裁判官「証人は証人台へ」
コツコツコツと足音が響く。
足→腰→旨→肩→顔 の順に証人の姿が明らかになる。
ミザリーが証人台に立っている。
検察「ミザリーさん、あなたは魔獣使いと組んでセナ―トゥスを殺害しようと企てましたか?」
ミザリー「いいえ」
ルドルフ、驚きで眼を見開く。
ミザリー「私は、ルドルフ・ポラストロンに脅されていました。『従わなければ聖騎士団長を降ろすぞ』と。協力せざるを得なかったのです」
検察「あなたは聖騎士団という大衆の正義の味方です。そのような計画に加担することに良心は痛まなかったのですか?」
ミザリー、さめざめと泣く。
ミザリー「もちろん痛みました。ええ、痛みましたとも。でも、恐ろしかったのです。ルドルフに逆らうことが」
傍聴人席は、「ミザリーが不憫」という空気で充満している。
傍聴人席にいるフェデリックは表情を変えず、ずっと正面を見て座っている。
大法廷の重たい扉が少し開き、
謎の声「ミザリー!」
大法廷にいる全員、扉の方を見る。
謎の声「この期に及んでまだ嘘をつくの?」
足→腰→旨→肩→顔 の順に声の主が明らかになる。
エレナが直立不動の姿勢で立っている。
エレナ「これ以上の嘘は許さない」
エレナ、中央の通路を真っすぐ歩き、裁判長の前で止まる。
エレナ「裁判長」
裁判長「何だね」
エレナ、グっと拳を握る。
エレナ「私に証言させてください」
傍聴人たち、ざわつく。
検察「なっ、きみは一体誰なんだ!?どこの馬の骨とも知れない人に証言させられるわけないだろう」
ミザリー、エレナを見下した表情。
また扉の向こうから声が
男の声「その子のことは私が保証しよう」
検察「あなたは……」
セナ―トゥスが立っている。
検察「セナ―トゥス……様!?」
セナ―トゥス、中央の通路を歩きながら
セナ―トゥス「その子は前聖騎士団の団長・エレナである。決して嘘などつかない実直な人物で、大衆にとって正義のヒロインだった。今からエレナが証言する内容の一切をこの私が保証する」
セナ―トゥス、裁判長と向かい合っている。
お互い一言も発さない。
長い沈黙
国王、裁判長をじっと見る。
裁判長、根負けした様子で、
裁判長「……エレナは証言台へ。証人として認める」
エレナ「(驚きつつ嬉しそうに)裁判長!」
ミザリー、うつむきながら証人台の後ろの席へ。表情は見えない。
エレナが証人台に立つ。
エレナ「今しがたミザリーが証言したことは全て嘘です。ミザリーとルドルフは協力関係にありました」
ルドルフ、悔しそうな表情。
エレナ「団長の私を解雇したルドルフは、ミザリーを団長に格上げしました。しかし、」
回想シーン
× × ×
街が魔獣に襲われても出動しないミザリー。
魔獣退治をリリー、ソフィアナ、アンナにおしつけていた。
× × ×
エレナ「他の団員に魔獣退治を押し付け、ミザリーは団長としての務めを果たしませんでした」
エレナ、怒りでわなわなと震えている。
エレナ「それだけではありません。ミザリーは、こいつは……私のお父様とお母様まで奪った!偽の首飾りを押し付けて!!!」
ミザリー、余裕の表情。
ミザリーが突然立ち上がり、
ミザリー「(聖母のように優しく)エレナ、辛かったのね」
エレナ「!?」
ミザリー、傍聴人たちに向かって
ミザリー「ああ、どうか皆さん、私の親友が嘘の証言をしたことをお許しください」
エレナ「親友!?」
傍聴人席のフェデリック、額から汗を流す。
ミザリー「重大な失態によって聖騎士団を去らざるを得なかったエレナですが、それと同時にご両親も行方不明になってしまいました」
ミザリー、わざとらしくエレナを憐れむフリをして涙を流す。
ミザリー「ご両親が行方不明になったことを誰かのせいにしたい気持ちは分かります。気持ちをぶつける場は誰にだって必要ですから。それがエレナの場合、私なのでしょう」
エレナ「なっ」
ミザリー「それに私が魔獣退治をサボっていただなんて……。そんなことありませんし、仮にそうだとしても聖騎士団を去ったエレナにどうしてそんなことが分かるのでしょう」
傍聴人は完全にミザリーの言うことを信じている。
裁判官、裁判長も傍聴人の空気にのまれかけている。
エレナ「嘘言わないでよ!」
ミザリー、裁判官と裁判長の方を向いて、
ミザリー「職を奪われ、精神が安定しない状態の人物が証言台に立つというのは……。裁判長、いかがなものでしょう」
裁判長、考え込む。
裁判長「セナ―トゥス、本当にエレナの証言した内容を保証できるのですか」
セナ―トゥス「もちろんだ」
裁判長「エレナが嘘の証言をしていると認定された場合、あなたも職を失いますぞ」
セナ―トゥスと裁判長の間に沈黙が流れる。
傍聴人席のフェデリック、ハラハラして様子を見ている。
エレナは反論できず悔しそうにしている。
謎の声「さすがミザリー」
大法廷の重たい扉が全開になる。
謎の声「悲劇のヒロイン傍聴人たちも、裁判長や国王すら騙そうというのね」
リリー、ソフィアナ、アンナ、直立不動の姿勢で立っている。
リリー、ソフィアナ、アンナ「(声を合わせて)お待たせエレナ!」
(続く)
第17話↓
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