蜜蜂と琥珀 #1分マガジン
ダンスが下手な蜜蜂でした。その子が躍れば仲間は迷子になり蜜源へ辿り着けません。今日も仲間にバカにされ女王に叱られました。滲む視界を白い綿毛が横切ります。ふわふわ自由気ままに飛んでいきます。蜜蜂は綿毛を追いかけました。
甘い香りのする部屋でした。香水瓶が並んだ鏡台の上で羽を休めます。
「砂漠の花を知ってるかい?」
しわがれ声がしました。琥珀の指輪です。よく見ると石の中に蟻が一匹閉じ込められています。
「鯨に食われたことは?」
面白そうな話に胸が高鳴ります。
「そのお話もっと聞かせて!」
蜜蜂が蟻に顔を近づけると、琥珀がさらに濃い蜜色に染まりました。まるで照れているようです。
三千万年分の物語は一夜では語り尽くせません。蜜蜂にも話したい事が山ほどあります。とうとう、一緒に旅に出ることにしました。お互い生まれて初めての友達でした。
翌朝、指輪は粉々に砕けました。蜜蜂には重すぎたのです。無数の欠片の中に蟻の姿はありません。しわがれ声がします。
「どうして泣いているんだい。私はずっとここにいるだろう。小さめを選ぶといい。旅は身軽が一番だ」
夜明け色の小さな欠片をひとつ抱きしめて。
蜜蜂は喜びのダンスを初めて踊りました。
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500字。
小牧さんの企画を知って、どうしても書いてみたくなりました。一週間ほど唸ってようやく書き上げた「初のショートショート」です。当初、800字ほどありました。500字まで削るのがとても大変!毎晩、お話を生み出す小牧さんの頭のなかってどうなってるのでしょうか? 普段からお話を書いてる方々もすごいですね。書いてみて大変でしたが、とっても楽しかったです。素敵な企画を有難うございました。さあ、みなさんの1分マガジンを読みにいこう!
小牧幸助さんの企画はこちらです。
|余談です|
タイトルの蜜蜂の絵:私はパステルアートの講師です。この蜜蜂は図案を考えていたときにコピー用紙の端っこで生まれました。指輪は私のお気に入りで「虫入りの琥珀」です。琥珀は鉱物ではなく樹脂が化石化したものです。作中、わかりやすくしたかったので石と表現しました。
宮沢賢治も琥珀が好きだったようです。
作品のなかに、琥珀(コハク)の表現が多く出てきます。
【春と修羅より】
正午の管楽くわんがくよりもしげく
琥珀のかけらがそそぐとき
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