要約:「シンギュラリティ・ビジネス AI時代に勝ち残る企業と人の条件 」齋藤和紀
全体要約
私たちの社会は現在、大きな革命の前夜にある。あらゆる病気は根絶され、あらゆるモノは3Dプリンターによって作られ、あらゆる判断をAIが行えるようになる、そんな革命だ。
この革命で社会の構造は大きく変わっていくは間違いない。スマートフォンの登場によりカメラは衰退し、Uberの登場によりタクシーは消失寸前である。この革命は革新的なモノを社会にもたらすが、同時に既存のモノやサービスを消失させるという側面も持っている。そんな中で、この嵐が来る前のように生きていこうとするのは適切ではない。
あらゆる物事が指数関数的(エクスポネンシャル)に成長しようとしている。減少しているバスの運転手を募集している一方で、自動運転車が着々と実現に近づいている。後者が実現した時、前者がどうなるかは想像に難くない。
私たちは来るべき変化を見据え、どうすれば変化した後の社会で生き残ることができるかを思考しながら、生きていかなければならない。
各章要約
①シンギュラリティとは何か
シンギュラリティは、もともと「特異点」を意味する言葉であり、数学や物理学の世界で使われていた概念だった。孫正義氏が「見てみたい」と述べたシンギュラリティとは本来概念における「特異点」ではなく、正式には「技術的特異点(テクノロジカル・シンギュラリティ)」という。
この狭義のシンギュラリティという概念が定着したのは未来学者レイ・カーツワイルが2005年に発表した論文が発端。彼の予言は、2045年には”技術進歩の速度が無限大になる”というもの。カーツワイルはそれを、「人間の能力が根底から覆り変容する」レベルの現象になると述べた。
②爆発的進化で起きる、六つのD
カーツワイルは人間の生活を劇的に変えるものとして、「ジェネティクス革命」「ナノテクノロジー革命」「ロボティクス革命」の三つを挙げた。
A ジェネティクス革命
:次の10年でほとんどの病気が治療可能になり、老化は速度を落とせるか逆行させられるようになる。
B ナノテクノロジー革命
:今後5年間で全ての製造業が3Dプリンターに置き換わるだろう。
C ロボティクス革命
:進化したナノテクノロジー技術を装備した超知能はあらゆる問題を解決する。
Xプライズ(イノベーションを目的とした賞金コンテスト)の主催者であるディアマンデスは、物事がエクスポネンシャル(指数関数的)に成長するときその多くのケースが「6D」にしたがって起こると提唱する。
①デジタル化(Digitalization):アナログな物事をデータとして扱える
②潜行(Deception):期待はずれ。この段階では大きなインパクトはない
③破壊(Disruption):人々の成長予想を突破する。期待を超える
④非収益化(Demonetization):既存の産業が非収益化される
⑤非物質化(Dematerialization):既存のモノやサービスが消失する
⑥大衆化(Democratization):全ての人に行き渡る
③人間が死なない、働かなくてもいい社会
テクノロジーによる大革命が起きれば私たちの社会は根本から変容せずにはいられない。エネルギーが無料になり水や食料がいくらでも生産できるようになれば、もう人間は働かなくて良い社会となる。したがって、テクノロジーによる急進的な革命を信じるシンギュラリタリアンの間ではしばしばベーシックインカムという制度が議論される。
労働から解放された先輩に「馬」がいる。かつての社会では膨大の数の馬が働いていた。しかし今は牧場でのんびり草を食んでいる。
④第四次産業革命が始まっている
ドイツでは工場の情報をデジタル化し産業そのものをネットワーク化することを目標とした「インダストリー4.0」というプロジェクトが2013年に行われた。これは過去の産業革命に匹敵する大変革と捉えられ、「第四次産業革命」とも呼ばれる。
ドイツだけではない。例えば民間車をタクシーとして利用することを可能とする Uber というサービスの登場。民泊サービスを提供する Airbnb 。サービスの外では、プラットフォームを掌握したアップル。スーパーコンピュータのコンテストで八連覇を成し遂げた中国。
⑤エクスポネンシャル思考でなければ生き残れない
第四次産業革命はパラダイムシフトと言って良いだろう。その社会では、あらゆる分野において従来の分野境界が溶けていく。ANAはUberと戦い、観光業界はVRと戦うかもしれない。
境界が無くなるのは会社や業界の外側だけではなく、会社の内側の境界も溶けていく。経理や法務などの仕事はAIに置きかわり、各部署の機能境界は急速に消失すると思われるからだ。
そのような社会では組織のあり方も変わらねばならない。そこでは変化を拒む組織の免疫反応とどう向き合うかが重要だ。
シリコンバレーでは「スカンクワークス」という企業文化がある。新しい製品の開発チームを本体から切り離して設置し少数精鋭チームがそこで作業をする、というものだ。これはエクスポネンシャル的で魅力の多い文化だが、しかしこのような文化は日本企業には難しいのかもしれない。2016年、トヨタ自動車は米国のUberと戦略提携を検討することで同意しUberに出資を決定した。しかしそのとき、日本のタクシー産業から猛反発を受け、トヨタはUberとの協業は行わないと宣言せざるを得なかった。既得権益を守ろうとする動きは常に発生するが、これから起こる革命の中を生き残るにはそれらに拘泥していてはいけない。
⑥これが世界最先端のシンギュラリティ大学だ
2008年、エクスポネンシャルなテクノロジーの教育に特化した「シンギュラリティ大学」が設立された。主なコースは三つ。毎年夏季に十週間かけて行われるGSP。GSPの内容前半を一週間程度で抗議するEP。すでに開業している団体に向けて行われるAP。どれも数百倍の応募倍率を誇る。
シンギュラリティ大学のプログラムは複数あるが、「エクスポネンシャル思考」の枠組みを教育するということで通底している。例えば、「10%アップではなく10倍を目指す」と言った考え方など。
大学が掲げる大テーマとしては、「10億人に良い影響を与える」というもの。その元で人類規模で解決すべき問題として「教育」「エネルギー」「環境」「食料」「健康」「反映」「安全」「水」「宇宙」「防災力」「統治機構」「住居」などのカテゴリを挙げている。
⑦シンギュラリティ後をどう生きるか
シンギュラリティを前提にしない努力や工夫は無駄になる。世界は確実に大きな革命に見舞われるのに、今までと同じスタイルを踏襲して既得権益を維持する努力を続けても仕方がない。
2020年に行われる東京オリンピックは一つの大きな機会になるだろう。スポーツの祭典は、テクノロジーの祭典にもなる。今は外国人観光客向けに通訳ボランティアを募集しているが、AIの能力が向上していればもはやボランティアは不要になっているかもしれない。現在プロジェクトが進行している「みちびき」という衛星が稼働すれば、街の上空をドローンが飛び回るようになっているかもしれない。
メモ
・カーツワイルはヒトゲノムの観測終了時期を的中させた。ヒトゲノム研究は15年で完了させられる予定だったが、7年で1%しか解析が終了していなかった。しかしカーツワイルはそれを受け、「後数年でプロジェクトは完了する」と予言し、結果その通りになった。
・齊藤元章は約一〇年のうちに、六リットル程度の箱の中に地球の人類七〇億人の脳の総量と同じだけの性能を持つコンピュータを収められると予測している。
・直線的な思考しかできない者にとって、六つのDは六人の死に神(Death)にほかならない
・カルダシェフのいう第二、第三段階を実現した知的生命体があるとすれば、彼らは「ダイソン球」と呼ばれる建造物で恒星全体を覆ってしまうだろうと考える学者もいる。逆にいえば、それを宇宙のどこかで発見すれば、地球外知的生命体の存在を裏付ける証拠となる。実際、ダイソン球を探している天文学者は少なからず存在する。
・一九九七年の地球温暖化防止京都会議では、温室効果ガスの「排出権」を取引する制度が定められました。二酸化炭素に関しては、それが「使用権」をめぐる争いに逆転するかもしれない。
・Uberが登場する前のサンフランシスコのタクシー市場は150億円程度だった。しかしUberの売り上げは550億円。Uberの登場により、「普段自家用車に乗っていたがタクシーに切り替えた」という層が現れたのだ。
・グーグルは、「世界中の情報を整理する」という目標を掲げている。
・米国では、二〇〇五年以降に生まれた新しい職種はすべて「非正規雇用」の仕事。
・日本社会はある種の先進性を持っている。たとえば、日本はどの国よりも早く少子高齢化社会に突入した。これは今後あらゆる先進国が直面する問題であり、日本がどう対処していくかが注目されている。
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