【ワンドロ】まるで昨日の出来事のようだよ
2024/11/04 17:52
部屋の机の配置を変え終えて、一休みしている時だった。
スマホの左上に表示されていたインスタのマークが目についてアプリを開いてみると、右上に①と表示されていた。
あなたのストーリーズに返信しました
読んでも相手には既読がつかない設定にしているので躊躇なくタップしてみると、そこには絵文字ではなく文章が送られていた。
「え! 〇〇さんって今日がお誕生日なんですか!」
1時間ほど前に受信していた。
会ったこともない、一方的にフォローされているどこの馬の骨かも分からないアカウントからの送信に思わず溜息を吐いた。
〇〇に入るのは私が一時期ハマっていたテーマパークの外国人キャストの名前で、現在は勇退済み。最近は朝起きてすぐしかSNSを見ないようにしているので程よく情報が分かっていないのだが、今は前のキャリアに準じて似たような仕事をして渡り歩いているらしい。
昼頃にそういえばと思って久しぶりにストーリーを投稿したのも、今日がその人の誕生日だったからである。
過去の自分が撮ったテーマパーク時代の彼の写真を1枚、『Cake』と調べて出てきた誕生日っぽい適当なGIFスタンプをちょこんと置いて投稿した。本人に届かないぐらいがちょうどいいと思っているので、メンションはしない。アメリカ人だから祝われたほうが嬉しいのだろうかと一回悩んだが、別に仲の良い友だちでもないし、推しとファンというだけで、向こうがコッチを認識して今も覚えている確信なんて全く無いので、目に止まったらラッキーだねぐらいの気持ちで載せる。
夕方に確認した通知は期待もクソもなかった。そもそも自分が今いる場所と彼が今いる場所には15時間以上の時差があるはずなので、エンカウントしたことがあるフォロワーや友人たちなのかなと思って開いたらコレだった。
誰だお前――辛辣だがそれしか言葉が出てこない。名前知ってるだけで素性を知らないのなら黙っていたら良いのに。
反射的にTwitterに「何も知らないなら黙ってなさいよ」と書き込んだ。そして相手の返信に微かな苛立ちを覚える。まるで返事されるのが当たり前のような「〜なんですか!」。何こいつと思ってインスタのアカウントを覗きに行った。
案の定投稿内容はテーマパーク関連だった。ハロウィンイベント中ということもあって期間限定のショーを記録した投稿が目立つ。スマホで記録したであろうガッサガサの投稿欄。思わず大きな舌打ちをする。遡っても遡っても私の推しを映した写真や動画は出てこず、プロフィールに戻ってみると”SJK”、”23.10~””Kiss X10”と記してあって、衝動的に右上の縦三点から赤文字の『ブロック』を連打した。
雰囲気をぶちこわすなよ。
私のより後継機持ってるくせに腕がないのも許せない。そんなやつからのフォローなんて要らんわ。個性があるならまだしも、意欲があるならまだしも。
今日という日に怒りの感情は沸かせたくなかったのに。
その感情の消化場所としてワンドロ投稿に至る。あと10分。
そもそも、そのストーリーを上げようと思ったのも単なる気まぐれである。毎年上げていたから今年も……というのはまったくなかった。もしそうならばレタッチした写真にGIFスタンプをポンで終わらせない。ちゃんと装飾を乗せたり、「Happy Birthday」という文字や日付を写真の上に乗せて、丁寧に投稿する。たとえ本人に届かなくても。
かろうじて投稿するに到った経緯は多分寂しさからだろう。数時間経って冷静に分析するとそこに至った。去年は誕生日の時期に再会出来たから凝った投稿をした。でも今年の11月に彼は来ないらしい。最初は「だったらいいか」と思って何もしなかったし、日が変わってすぐにしていたことといえばドハマりしているボーイズグループの新曲のフルバージョンを聴くことだった。でも当日の昼前になって「いいのかな」なんて思い始めて。自分にできる祝い方は一つしか無かった。
私の写した彼の彼らしい姿を奥底にしまったフォルダから掘り出すこと。
選んだのは2年前の彼の誕生日の写真だった。
よく映像作品とかで写真を拾って「あの頃に戻れたら……」というシーンがある。登場人物たちの表情は当時の幸せを想うものであったり、その頃の当たり前を懐かしんだり、戻れたらどれほど良いだろうという憂いであったり。
私の場合、選んだ写真に対してかける言葉は一つだった。