パフェレポ ロイトシロ『sugar』2024年5月
新玉ねぎの甘さに驚き。
甘さの少ない前菜のような層と濃厚な甘さのスイーツの層で織りなされ、認識を大きく揺さぶられるパフェ。
まずトップは、器のような形になったパリパリのチュイルの中に新玉ねぎクリームとしょうゆクリームが納められている。新玉ねぎクリームは確かに玉ねぎの味なのだが、玉ねぎ特有のつんとする辛みに近いクセがなく、甘みと優しい風味が口にひろがる。生の新玉ねぎスライスからクセを取り除いたような、角が無くみずみずしさを感じる味わい。玉ねぎなのにそのクセの無さと想像以上の甘さに驚く。続くしょうゆクリームは適度なあまじょっぱさが新玉ねぎクリームと調和している。
グラスの中へ。甘い生クリームの後は甘さの少ない前菜ゾーンに。グラスから、白くつややかで丸みを帯びたものがパフェグラスの中から覗かせている。もしや、と思いそれをつつき割ってみると、こぼれ出てくるのは橙色に輝く玉子の黄身。パフェの中から玉子の黄身が出てくる体験は初めてで驚く。そして取り合わせもすごい。1個まるまるパフェグラスに閉じ込められた半熟玉子、そこに合わせられるのは、まろやかさと酸味を感じるオランデーズソースと強烈な玉ねぎの匂いを感じるフライドオニオン。オランデーズソースといえば、エッグベネディクトに使われるくらいですし玉子との取り合わせが良いのは言うまでもないことはわかるけれど……それをパフェの中でやる?? 斬新すぎて、もはやわたしは何を食べているのか分からなくなる。フライドオニオンの香りは本来ならサラダとかで感じるやつ。
誤解される方もいらっしゃるかもしれないですが、これらはすべてほめ言葉です。過度におもしろいパフェは、時に『わたしはスイーツを食べているのか、そうではないものを食べているのか、わからない……』と考えれば考えるほどに混迷を期すような、いきなり外へ放り出されたかのように呆然とさせられることがある。しかし、わたしはワクワクを求めてパフェを食べている節があるので、ここまで強い衝撃を与えられる経験ができること自体むしろ感謝すべきと思っている。
続いて新玉ねぎアイス、こちらもクセが無く甘い。もはや新玉ねぎの使われたパーツが甘い部類に入ってしまう構成が面白い。しかし甘さは優しいので、いきなりスイーツに転化してしまうのではなく今までの流れから大きく転換されることなく優しい甘さを感じさせる使われ方がされている。 そして今回唯一登場するフレッシュフルーツである、グレープフルーツ。みずみずしくほろ苦い味わいが先ほどまでのこっくりした味わいのアクセントになっていて、目が覚めるような気持ちにさせられる。 その下のサワークリームムース、甘さはあまり無く読んで字の如くの味なのだが、クラッカーにディップしたらとっても美味しいのではないかと思うほど、おつまみのような程良いしょっぱさと酸味がある。 その下の茶色いジュレはオニオングラタンジュレ。甘さは少ないが、まさに飴色玉ねぎとコンソメの味がする。こういうジュレが魚介の上とかに乗せられた前菜ってありそうだなと思わされるような、そんな上品な味。オニオングラタンの解像度の高さに思わず笑ってしまう。 ここからはスイーツゾーン。はちみつ生姜ブランマンジェ、今まで甘さの少ないパーツが続いたので、はちみつの濃厚な甘さにびっくりする。急な場面転換。遠くに生姜の風味がいる。その下はこれまた濃厚なキャラメルソース。ザ・キャラメルといったような、べったりとした濃厚さを感じる。パフェの底、しょっぱいチーズクッキーがキャラメルソースに埋もれており、あまじょっぱさがくせになりそうなお味でした。
今回はパフェグラスの中の構成、半熟玉子からオニオングラタンジュレまでの半分近くがほぼ甘さの少ない前菜のような構成をしている。甘さが少ない層であるからこそ、その構成の中の新玉ねぎのアイスの優しい甘さが引き立っていて、今回のパフェの題名の通り、新玉ねぎの甘さが強く印象付けられる構成だった。
甘さの少ないパーツが多かったが、最後のはちみつ生姜ブランマンジェとキャラメルソースが濃厚な甘さで、食べ終わりの余韻は甘いものを食べたという感覚に浸れるのがしてやられた、となった。終わりよければ全て良し、最後が甘ければこれはスイーツのパフェなのだという印象になるという認識を自覚させられたのが面白かった。
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