短編小説『KoToNo葉』
「ねえ、君にはあれが見える?」
そう言って彼女は、天を指差す。
彼女につられて上を見るが、そこには黒が広がっているだけだ。
無。その言葉が一番しっくり来る。
「ヤミマにはない」
「ヤミマっていうんだね」
彼女は自分のことを「異世界人」と言っている。
「私のいた世界ではこれを「Yoル」と呼んでいるんだよ」
「?今、なんて言った?」
「え?「Yoル」って…」
僕には「ル」の前がよく聞き取れない。「Y」はわかるが、次がわからない。
「君No世界には「O」がないんだね」
彼女は一人で納得している。僕にはわからなかったが、関係のないことのようだった。
「あなた、名前は?」
「私かい?私は…そうだな、「サラ」とでも名NoってoKoうか。」
「サラ」
「Soうだ。君は?」
「スェㇰ。」
「ス…」
サラは首をひねって何度か発音を試みるがうまくいっていない。
「私には言えないみたい。」
彼女にも話せないものがあると知って、僕は少し優越感を感じた。
それからサラは僕の家の近くの宿屋で住み始めた。
「o」
「ウァッ」
「o」
「ウァッ」
「だめだね。どうやら君たちには「o」Wo言う技術が備わっていないYoうだ。」
二ヶ月ほどして、サラはいろいろな人に「o」を発音できるかどうかを聞いていた。
彼女曰く「意To的に「o」Wo使っていない民Zoくは見たKoToがあるけDo、機Noう自体がSoなわっていない人間は初めて見た!」とのこと。
何が面白いのかわからないけど、彼女の楽しそうな笑顔を見ると彼女なりには面白いことが伝わってきてこっちも楽しくなる。
「君、KoれはなんてYoぶ?」
そう言ってサラは白いペンキを見せた。
「ペンキ」
「Soうじゃなくて、KoNoいRoは?」
「いR…って?」
「ああ、Soうか…」
そう言ってサラは帰っていった。
162日目
どうやらこの民族の言語には「色」もないようだ。なにかに例える、ということもしない。この民族は色盲なのだろうか。それとも必要でないからなくなった?色が必要でなくなる状況とはなんだろう。「o」が存在しないところといい、ここでは新しいことの連続だ。
163日目
今日は絶食期間。この民族には神話がある(現地の言葉ではケヲㇱ)。
「1日中暗い日はヤミマが開くから飯を食べてはいけない」とされている。この神話によって明るさは感じ取っている事がわかった。大きな進展。
164日目
人々に帰り方を教わる。ここから2000キロほど離れた場所に「天使の階段」(現地ではそう呼んでいる。天使の存在があるということはここに誰かが来たことがある?)があり、そこを登るのだそう。おとぎ話のようだ。
165日目
藁にもすがるつもりで出発の準備を整える。出発は2日後。
166日目
私には見えている月や星が彼らには見えていない。光が分かるはずでは?
それとも大きな範囲の中にある小さなものは無視している?(確かにそのほうが分かりやすいけれど…)悩みは尽きないまま、出発は明日。
167日目
出発の日。新しいノートをもらったのでこの手記は近所の若者に託す。
彼にはこの町の新たな言語学者になってほしい。
1日目
サラの遺志を受け継ぐ。
聞き取りづらいことをローマ字で表現したらサラがラッパーみたいになった。
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