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新人魚姫


王子様を助けた人魚姫。

海の魔女に頼み込んで
美しい声と引き換えに人間の体をもらいました。

魔女は言いました。
「3日間の間に王子のハートを射止めキスできなければ、お前は海の泡になって消えてしまうよ」

姫は静かに頷きながら
『三日で攻略て。短くない?どんだけハイペースな乙女ゲーだよ』
と思っていました。

さて、陸にやってきた人魚姫。
友達の魚やカモメが心配しています。

「可哀想な人魚姫」
「声が無くてどうするつもりだい?」

『仲間達よ…聴こえますか…聴こえますか…直接脳に語りかけています…とにかく…私を…助けろください…』

「「うわっ、気持ち悪っ!!」」

『気持ち悪っ…って…ひどい…ひどいけど…正しい…その言葉ぼうげん待ってた…』

「テレパシー使って言うことそれなの?」
「気持ち悪っ…」

人魚姫はテレパシーの使い手でした。
魔女は知らなかったのです。

えっへん!
と胸を張る人魚姫。

『これで…いっちょ…王子のハート…射止めたるで!!…』
「「不安だなぁ…」」

人魚姫はただの喋れない女の子のフリをして
まんまとお城に潜入しました。

王子は大変優しくしてくれましたが
なかなかキスには持ち込めません。

『そら、そうやろ。乙女ゲーだって1ヶ月いっぱい時間使って好感度ゲージためて、イベント発生させてやっとこさ手繋ぎスチルの世界やぞ!一国を担うハイスペ男が三日で落ちてたまるかよっ!!』

いくら私が絶世の美女だからって無理ゲーってもんでしょ。しかも初見だし。 
人魚姫は一人やさぐれるのでした。

「どうするの人魚姫!!」
「もう時間がないよ!!」

『仲間達よ…聴こえますか?…聴こえますね…うるせー…外野は黙ってろ!!…これからいっちょ夜這いといくぜ…!!』

「品がない」
「下品にもほどがある」

月明かりの下で
茶番を繰り広げていた人魚姫に

『人魚姫…聴こえますか…聴こえますか…私達は姉様ですよ…』

テレパシーが届きました。
人魚姫を心配したお姉さん達でした。

『うわっ気持ち悪っ…』

『巫山戯ている場合ではありません…このままでは…あなたは…泡になってしまう…せっかくの…顔面偏差値トップクラスが…ホント無駄に…なってしまうのです』

『相変わらず…面食いな…姉様方…』

『魔女と交渉して…私達のファビュラスな髪の毛を…王子を殺して…呪いを解く…ための剣に…換えてもらいました…』

『RPGと…似た…やり取りの…魔女…』

『この…剣で…王子を殺して…海に戻って来なさい…あなたの…顔は…国宝…』

『結局…顔かーいっ!!…』

ずしりと重い銀色の短剣を受け取った人魚姫は
少し困った顔をして
しかし先に宣言した通り
王子の寝室へ夜這いにいくのでした。


『ムカつくほど整った顔して寝てるわ』
人魚姫は小さく寝息をたてる王子を見つめました。
たった2日間。
それでも不思議と楽しかった。
人魚姫は王子に恋をしたから陸にあがったわけではありませんでした。

ただ
一度助けた人間が
陸でどんな風に生活しているかしりたかったのでした。
それをそばで見てみたいと思ったのでした。

『王子…聴こえますか…聴こえますか…』

だからこそ
この時までずっとテレパシーを使わなかったのです。
けれど最後くらいお喋りがしたかったので
脳に直接語りかける事にしました。

『うーん…なんて?…え?誰?…』

人魚姫は驚きました。
どれくらい驚いたかというと乙女ゲーでこれはトゥルーエンドでしょっと思ってたらバチバチのバットエンドだった時くらい驚きました。

なんと王子もテレパシーが使えたのでした。

人魚姫は勇気を持ちました。

『王子…聴こえますか…聴こえますか…あなたの脳に直接語りかけています…よいですか…あなたの目の前にいる…絶世の美女と…キスをするのです…とにかくはやくキスをするのです…そうすれば円満解決…家内繁盛…ご利益もりもり…今ならなんとプライスレス!…』

優しく優しく語りかけます。 

色気も何もないということを見守っていたカモメはツッコみたかったと
後に魚は聞きました。
王子はむにゃむにゃと寝返りを打ちます。

『えぇ…そんなこと言って…維持費が…御高いんでしょう?…』

『それがなんと!…こちらの絶世の美女…魚獲りが得意…自分で獲物を狩ってこれます…』

『へぇぇ!…むにゃ…それは…凄い!…』

『さらにさらに…料理もできるんです!…王子のお好きなムニエルだって…毎日…食べられちゃいます…』

『凄い!…それは…高性能っ…!!

『ふふっ…それに…いまなら…新作新品…!子宝に恵まれる事必須!!…』

『それは…一国の王子としては…外せませんねっ!…』

『そうでしょう?!…こちらの絶世の美女…夜明け前までの限定商品です…早めのキスをお願いします!…』

なぜ通販番組風なのかと
とにかくツッコミたかったカモメは
窓のヘリで足をジタバタさせましたが
なんとか黙って二人を見守りました。

『キスしてもらえるか、もらえないか。そこが重要だ。もし反応がなかったら2回目の放送に突入せねばならんのか?そんなに売れないのか?私は…』

人魚姫は王子の枕元で緊張の面持ちで待ちました。
王子はすやすや。美しい寝顔のまま。

『くっそ…寝落ち…夢でした…ルート…かよっ…』

人魚姫はあまりのことに自分の気持ちまでテレパシーに乗せました。

『こんな…鈍感男…こっちから願い下げよ…これなら…泡になって…消えたほうが…マシ…』

なんだか情けない気持ちから涙がこぼれます。
外は薄っすら白み始め
もうすぐ日が昇ってしまう時間。

あぁ
我が人生ここまでか

人魚姫が思った時

『ふっ…おもしれー女』

きこえたテレパシーと共に人魚姫はベットに倒れ込みました。
王子が人魚姫を引っ張りこんだのです。
ビックリしたままの人魚姫に王子はキスをするのでした。

「んっ…はぁぁっ?!何だこのタイミングはっ!!王子近くで見ると更に顔いいなっおいっ!!なんかムカつくわ!!ちょームカつくわっ!!笑ってんじゃねーっ!」

鈴を転がすような美しい声の第一声がそれかよとツッコミたかったとカモメは半分気絶しながら思いました。

しかし
王子はとても楽しそうで
これがお似合いってやつかもしれないとカモメは思い気絶しました。

後に魚はカモメが「なんか尊い予感がするから見守り続けるわ」というのを聞きました。


こうして人魚姫はめでたく人間になり
王子とあーじゃないこーじゃないルート回収した後に
見事トゥルーエンドへと辿り着くのでした。
あーじゃないこーじゃないはまた別のお話。


おしまい



ねぇ。
なんでこんなの書いたの?
誰か教えて?

最初はEveのBubble feat.Uta
聴いて
映画「バブル」は人魚姫モチーフだったなぁ。
そんな記事も書いたなぁ。
映画は賛否わかれてたけど、私はなんか好きだったなぁとか考えていた。

泡になって消える。
儚くていいじゃん。

綺麗すぎるけど
そんだけ純粋無垢ってことじゃん?
とか思って

過去に結末どうする?みたいな記事にコメントしたわよねって。
(勝手に貼り付けたので駄目なら言って下さーい。取り消します。)

うっそ。もう二年前じゃん。

私は王子暗殺派だけど。
頭の中で作り上げたお姫様はどうするのかな?って思ったら癖強になってしまった。

泡にするつもりで書いていた。
楽しくテレパシーで王子と話せて
よかったよかった。
気がついたら朝だ。
みたいな。
楽しくてキスなんて忘れちゃって
もっと話していたいと思ったら
もう朝で
夢のように溶けてく人魚姫を書きたかったのに。

何故か王子がやる気出した。
おい、キャラクター!!そこ監督指示だしてないし、脚本にないんですけどぉぉ?!


というわけで
皆様には茶番にお付き合いいただきました。
ここまで読んでくださったかたがいましたら
有り難うございます。


泡になる手前
その時に
伝えたいことが伝わりますように。

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koedananafusi
サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。