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砂鯨を追う 七砂目

長編オリジナルの続きです
一砂目六砂目
ほかはマガジンからどうぞ


「で、なんの話があるの?」

僕達はリリベットについて坂を下ったところにある武器屋にきている。
地球出身である僕は、武器屋といえばRPGに出てくるような銃や、いかにもな剣などをおいてある雰囲気の暗い怪しい店を思い描きがちだが、連れて来られた場所はまるで宝石店だった。
キラキラとした石で出来た細工がケースに収まっている。
いや、それでも、宝石店はないか。と僕は小さく笑う。
キラキラとした石で出来た繊細そうな細工が飾られたケースの横にはいったい何に使うのかわからない大きな槍や、古めかしい弓、そして剣らしい剣も置かれている。
確かに、ここは武器屋のようだ。

僕達は武器屋に何故か置かれる純白の椅子に腰掛け、まるで喫茶店のマスターのような出で立ちの男性が同じく純白のテーブルに出してくれた謎の飲み物を前にしている。

リリベットの問にダギンが

「俺達も砂の海の漁に参加したいんだよ…」

と答えた。
黄色い髪の男、星賊団団長のプルイエルは店につく辺りで目を覚していた。ドロップキックをくらった割には元気そうで、肩に乗せた謎の生き物をなでたり、目の前の赤と青とピンクが混じった謎の飲み物をゴクゴクと飲んだり、席を立って店を眺めたりと自由に過ごしている。

どんな味なんだろう…。
僕は目の前に置かれたピンクと黄色と赤の混じった飲み物を見つめる。
それはまるで見えない何かが絶えずかき混ぜているように渦をまき、しかし色は不思議と混ざらずそのままだ。

「それは私に言われても困るよ…」

リリベットはダギンの答えに首をふった。

「どうしてさ、リリベット。君は砂の海の漁に毎度出てる幸運の御守だろ?それに女神様だ!」

カップの中身を飲みきったプルイエルが、美しい顔に飲み物の泡をつけながら口を挟む。

「その言い方、やめてくれる?」

リリベットとの相性は抜群に悪いなと僕は思う。
ダギンもやれやれといった様子で二人を見たあとに話し始めた。

「なぁ、リリベット。コイツはこういうやつだ。トッキポッキが歩いてると思って許してやってくれ。そして、舟の船長に合わせてくれればいい。後はオレが話をつけるから」

「レーヴェに…。あなた達を?」

「あーやっぱり、船長はレーヴェか。そんな気はしてたんだが…」

「知ってるの?」

「まぁ昔…ちょっとな……」

ダギンはレーヴェを知っているようだ。表情から察するにあまりいい思い出でがあるわけではないようだけれど。
それよりトッキポッキとはなんだろう?
ウィーウィーのような生物だろうか。
プルイエルみたいな生物がいるのか。「大変そうだなぁ」と僕は小さく苦笑いする。
そんな僕に同意するようにウィーウィーが僕の膝の上で小さくキィーと鳴いた。

「まぁ……そっちの黄色いのは何言っても漁に行く気なんでしょ?それなら…レーヴェに会わせないわけにいかない…。私への用事はとりあえず、わかったわ。で、せんせいにはなんの用なの?」

リリベットは目の前に置かれた青と黄色と赤の混じった飲み物を飲んだ。
僕はそれをじっと見つめる。
どうして全員の飲み物の色が違うんだろう?
あのマスターみたいな人は武器屋の店主なんだろうか?
あのケースに飾られている宝石のような石はいったいいくら位なんだろう?
そういえばウィーウィーは何か食べるのかな?
というか僕は食べ物見つけられるのかな?
砂の海ってどんなかんじだろうか?
思考がうずを巻き始める。
そしてさらに思考の奥深くへ潜ろうとした時だった。

「せんせいとやらは、何処から来たんだ?」

ダギンの声にハッとする。

「えっと……」

「チキウだって、せんせいは言ってたよ?」

リリベットは飲み物をさらに飲む。
何故か沈黙が流れる。
プルイエルがじっとコチラを見てきた。
薄紫の瞳はアメジストのようだと思った。

「あの、えっと、地球ですが…」

僕は何故かしどろもどろに出身の星の名前を言う。リリベットは地球を知らなかった。プルイエル達がどの星の人かはわからないが、きっと伝わらないだろうと思った。

しかし、プルイエルから出た言葉は意外なものだった。

「なんだ、あんなヘンピでチンケな星から来たのか。ワープホールよく繋げたね」

「へ?」

「だから、チキ、んんっ。地球。地球人なんでしょ?先生はさ」

「え、えぇ、そうです。」

地球のことをへんぴだのチンケだの言われているのが少し気になるが今はそれどころではない。
こんな銀河の果で、まさか故郷の星を知るものと出会えるとは思ってもいなかった。
片道切符と思っていたが、もしかしたら、それは地球の技術の問題で、遠い星になら戻る術もあるのかもしれない。

「あなた達は…地球に行ったことが?」

僕はドキドキしながら質問をする。
地球にはまだ異星人が来た公式の記録はないのだ。しかし、もしかしたら、映画の世界のように秘密裏に宇宙人がやって来ているのかもしれない。子供の頃に夢見た世界が今、目の前にある事を改めて実感して僕は嬉しくなった。しかし、プルイエルから返ってきた答えは期待したものではなかった。

「あんな面白くもない、金にもならない星行かないよ。先生は面白い冗談を言うね!」

現実は厳しい。地球は青くて美して尊い星だと思っていたが、異星人からするとへんぴでチンケで面白くなくて、金にならないらしい。
そんな、ボロクソ言わなくてもと思う。
しかし、ダギンまで

「だよな。やたら遠いし。あの星。おまけに周りになにもないしな」

なんて言うのだ。
遠い遠い銀河の果で自分の星をボロクソに言われる経験をした地球人第一号は僕だ。
さっきからプルイエルの肩に乗る謎の生き物もクッククと笑っているような鳴き声を出しているのも気になる。コウモリおばけみたいな生き物にも笑われる僕の故郷って…。思わずうなだれる。
そんな僕を見かねてダギンは

「あの辺は特殊だよ。地球くらいしか物質に頼ってないんだ。近隣…っても光年先の奴らは思念体が多いし…まぁ、そういう意味で俺らの取引先に向かないのさ」

とフォローしてくれた。
プルイエルは

「あんなちっぽけな星からここまで旅に来るなんて…先生、あんた犯罪者か何かなのかい?追われてるのかい?」

なんてニヤニヤしながら言ってくる。
僕は言い返そうとしてプルイエルを見つめる。プルイエルは優しい顔をして僕を見つめ返した。
いや、そう、そうなんだ。僕は片道切符を切った国家レベルの犯罪者なんだよな。

「色々…あったんだよ…」

とだけ言う。
なんとなくだけど、僕はまだプルイエルを信用してはいけない気がした。

「そうかい」

とプルイエルはそれ以上何も言わなかった。
自由で破天荒なところもあるけれど、プルイエルはそれだけではないんだと思う。良いか悪いかはこれから知っていくのかもしれない。

話が一段落したかな?と思ったその時、黙ってきいていたリリベットがガンッとカップを置いた。

「ちょっと!!黙って聞いてりゃなんなの?!せんせいは遠い星からのお客様なの!!確かに、せんせいはポンコツみたいだけど、チキウ?はきっといい星なのよ!!だって、せんせいみたいなお人好しが育つ星よ?他の星だったらせんせいなんかあっという間に飲まれちゃってるんだからっ!!チキウはいい星なのよ!!」

凄い勢いで捲し立てられた言葉に、僕も、プルイエルも、ダギンも、時が止まったように固まる。膝の上のウィーウィーなんてびっくりしすぎてホヨンと落ちてしまった。

「星賊団!!いい!!せんせいに失礼なこと言ったらレーヴェには会わせないからね!!舟にも乗せない!!わかった??」

なんだろう。地球の居酒屋で上司に絡まれた時を思い出す。あの飲み物は地球で言うところのアルコールだったのか?と僕はスッカリ空にされたリリベットのカップを見つめる。そうすると、不思議と地球の居酒屋での言葉が頭に流れた。
それは研究発表のあとの打ち上げで上司に言われたい言葉。

『○○レ君さぁ、もっとハッキリしゃべんなきゃつうじないよ?!わかった??』

あれ、名前…思い出し………

「リリベット」

そんな僕の思考に割って入ったのは、プルイエルでも、ダギンでも、あのマスターのような男性でもなかった。
まるで獅子が唸るような声で腹の底から響く、圧力のある声。

店の扉は僕の席からは振り返らないと見えない。しかし僕には振り返る勇気がなかった。
だって見なくてもわかるんだ。
青ざめたリリベットの顔が、誰がそこに立っているかを教えてくれている。

「レーヴェ…………」

「あんたは、なにやってんだ?買い出しは?」

「ごめ、あの、だって…」

「だってじゃないよ。仕方ない娘だね。まったく」

店に入ってきたレーヴェの髪は恐ろしいほどに逆立っている。
ダギンは面倒くさいことになったと頭を抱えている。

「で?なんでお前もいるんだい?ダギンっ」

「あー…久しいなレーヴェ…」

「ノコノコ面見せやがって。腰抜け。うちの子達に何の用だ?」

レーヴェの言葉は場に重力を生むように重く重くのしかかる。
ケースに飾られた宝石のような石もまるで震えるようにカタカタと鳴る。
店のマスターもカタカタと震える。
店全体がまるで獅子の前の小鼠のようだった。

しかし、そんな空気をものともせず、レーヴェに声をかけるものがいた。
プルイエルだった。

「やぁやぁ!!愛しのレーヴェ!!久しぶりじゃないか!!相変わらず気高く美しいね!!」

絶対に怒ってる相手にする声かけじゃない!!と僕は思った。震えるリリベットも、頭をかかえるダギンも思ったに違いない。
ゴクリと生唾を飲む。

レーヴェは髪を逆立てたまま声の主をみた。
次の瞬間、逆立っていた髪は落ち着き、店を覆っていた圧が和らいだ。震えていた店主も宝石達も大人しくなる。
僕と、リリベットはキョトンとし、ダギンはふぅと胸を撫で下ろした。

「お前は…はんっ。プルイエル。なるほどね、プルイエル。お前が引っ掻き回しにきたのか。煩い言葉はしまいな。私にソレは通用しないんだからね。どうせ、リリベットにも試したろ?」

「やだなぁ!!レーヴェ!!俺は美しいものが好きなだけだよ。まぁ、試したけど、やっぱり駄目。そこの地球人も駄目かもね!」

「お前ねぇ………いいや、銀河を駆ける星賊団団長に何を言っても無駄だね。事情はウィーウィーから大まかに聴いたから、とりあえずあんた達港においで。話はそれからだ」

よく見るとウィーウィーがキィーキィー鳴きながらレーヴェの足元をピョンピョン跳ねている。

「はいはい。あんたは立派なウィーウィーだからあとで鉄屑を食わせてやる。せんせいの所に戻りな」

レーヴェはウィーウィーを優しく撫でた。

ウィーウィー…鉄屑食べるの?僕は膝にほよよんっと飛び乗ってきたウィーウィーに視線を落とす。ウィーウィーは誇らしげな、と言っても表情は動かないのでそういう雰囲気を出して僕を見つめ返した。

レーヴェはリリベットに声をかけた。

「リリ。次からは問題になる前に私に連絡しな」

「…ごめん」 

リリベットは小さくそれだけ言った。
レーヴェはやれやれと溜息をつく。
結局、怒ってたのはきっとリリベットの事が心配だったからだろう。それにしては怖すぎる気もするが…。

「編み籠追加で頼みな」

「わかったわ」

編み籠…何に使うんだろう?物入れとか?何で編まれているんだろうか?そもそも、編み籠は僕の思う編み籠なのか?なんて僕が考えているうちに

「私は1足先に港に向かうよ。悪いけどあんたら編み籠持ってやってくれ」

レーヴェは颯爽と店を出ていった。 
店に静寂が訪れる。

「レーヴェ…おっかねぇな」

ダギンは目の前の飲み物を一気に煽る。
僕もやたら喉が乾いて、えいやっと得体のしれない液体を口にした。

「なにこれ?!美味しい!!」

リリベットはぐったりとテーブルに突っ伏し

「あれ以上怒られたら石になっちゃう!!マスター!!私にもう一杯!!」

とオーダーした。あ、やっぱりマスターなのか?
プルイエルだけは相変わらずで

「やった!早く話しがついてよかった。まぁ、計算通りかな。普通にじゃこうはいかなかった!しかし、レーヴェは本当に美しいよね!!」

などと言いながら、いつの間にか手にした2杯目の飲み物をゴクゴクと飲んでいる。


こうして、僕らは港に戻ることになる。

八砂目へ


《作者のつぶやき》

まだ海でないんかーい!!
プルイエル…自由すぎるよプルイエル。

さて、なんだかよくわからないことが多々小さな店の中でおきたみたいですね。
それについてはおいおい出てくるのでしょうか?
出すか出さないかは私次第。

考えながら書きすすめているので時間がかかる。
基本メモも台詞少しとか、箇条書きがおおいです。

今回なんてノー下書きだし。
思いつきのまま、1場面。大体の流れはあるものの相変わらず行きあたりばったり。

しかし、次回港だから。
これで海に近づいた!!
トッキポッキがきになるって?
そのうち出ます。トッキポッキ。

ウィーウィー便利ですね。地球にも欲しいなぁ。

そういや、今回先生視点だけだったな。


銀河の果から愛を込めて
進み出す物語
遠い星の物語

©2022koedananafusi


サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。