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1場面物語 『サイドᗷ 』悠一

この話は貼り付けた記事から一応スタートしていますが、わけはわからなくとも1場面を楽しみたい方は、そのまま読んでもOKです。



空き教室に行くと、すでに奏多もゴッドもきていた。

「よぅ」
「お!ゆーいち!おせーぞっ!」

僕に気がついた二人は目を落としていた雑誌から顔をあげて、手を上げた。
毎度のことなんだけれど、僕はそれが嬉しかった。

「ごめんごめーんっ!委員会が長引いた、ちょっとね…」

「なんだ、何かトラブルか?」

ゴッドが心配そうな顔をした。
真面目で、ちょっと無口だけど、いいやつなんだ。優しくて、本当、神様みたい。

「ん?へーき。ちょっと資料足りなかっただけー」

そう言って笑う。

「九十九は心配しすぎ。ゆーいちは日々確認足りなすぎ」

再び雑誌に目を落としていたかっちゃんが言う。
もうっ。もう少し優しくしてくれ。こうやって、毎度小言を言うんだ。奏多は。お母さんみたい。

「はーい、お母様」
「お前を産んだ覚えはありませーん」

お決まりの流れだ。
幾度となく繰り返されているのに、なんで毎度こんなに楽しいのだろう。

「そういや、司は?」

「わからん…なんかメールでは『重大発表』とかきてたな」

奏多はうんざりした顔をつくりメール画面を見せてくる。うんうん。司っぽい。件名だけのメール。本文いれろよな。

「つーちゃんは…そのうち来ると思う」

聞いた当初は、違和感満載過ぎたゴッドのつーちゃん呼びも慣れてきた。幼馴染っていいよな。まぁ、もし、出来るなら女の子の幼馴染がいいけど。

「ま、じゃーそのうち来るか」

「そういや、昨日のTVみてた?」
「みたみた!あのギターかっこいいよなっ」
「ドラム…」
「いいよなーかっこいいよなー」
「僕、あのギタリストの履いてた靴欲しい」
「おいっ、靴なのかよ!注目ポイント!」
「えーだってーかっこいいよ?」
「うん。決まってた」
「あーもー、そうやってすぐ甘やかして」
「お父さん、お母さん喧嘩しないでー」
「お母さんじゃねぇっ!!」
「父違う…」

くだらない会話で盛り上がる。
窓の外はまだ明るくて、このままこうして永遠と、僕らは学校の空き教室で楽しく過ごせるんじゃないかって、そんな馬鹿みたいな事を考える。


しばらく、そんなじゃれ合いをした。
廊下からバタバタとした足音が聞こえた。
3人とも黙って扉を見た。
だって、もう、気配がするんだ。

アイツはいつだって嵐みたいにやってくる。

ガラッと勢い良く開いたドア。
満面の笑み。
僕が女子なら恋に落ちちゃうと思う。なんなわけ?
司は何をしたってドラマチックに見えるから不思議だ。一つ一つの動きが様になってるんだ。

「おぉ!!友よ!!いたかっ!!」

よく通る声で、広くもない教室に向かって叫ぶから、そこそこ煩かった。

「うるせー!ボリューム考えろッ!!いるわっ!1時間も前からいるわっ!お前が呼び出したからっ!!」

奏多がすかさずツッコミをいれる。
惚れ惚れするよ。かっちゃんのツッコミスピード。
司はそれを聞き流して、つかつかと僕らに近づいた。

そして、3人の目の前で手に持っていた紙をバッと広げた。
僕は思った。これは、あれだ、裁判所の外で紙を開くやつに似てる。

その紙にはデカデカと「命名!サイドB!!」と書かれていて下の方にちんまりと司の名前が書いてあった。

「つーちゃん…説明」

さすがのゴッドもツッコミをいれた。
司ってすごいと思う。物静かで動じないゴッドをこんなに困惑させるんだもの。

司は目をキラキラさせて話出す。
「これは、俺らのバンド名っ!!」

「「「はぁ〜っ?!」」」

3人の声がハモる。珍しい。

「いやいやいや、司君よぉ…バンド名って…」
「そんな勝手すぎるよ〜」
「つーちゃん…説明」

三者三様の講義の声に、まぁまぁと手をかざす。

「俺はこれを昨日、トイレの中で思いついた」

「嫌すぎる…」
「臭そう…」
「……」

「俺は中途半端に残ったトイレットペーパーを使いながらおもった」

「おい、この空気で続けるのかよ」
「トイレットペーパー補充しときなよ」
「……」

「この紙…俺らみたいだな…と」

「いやいやいやっ!!それはないっ!!」
「僕らは立派なトイレットペーパーだよ?!」
「悠一、そのツッコミはおかしい」

司はやれやれと表情も身振りも作って僕らを見た。

「君らはわかっとらんなぁっ!!」

いや、わかりたくない。
司がどんなにイケメンだって、僕らわかりたくないよ!!
と僕は心でツッコミをいれる。

「わかってたまるか!そんなもんっ!!」

かっちゃんは本当凄いよ。気持ちいいよ。僕、付き合うなら、かっちゃん派だよ。


司は、なんだよーと言いながら笑っている。
いつも楽しそうな顔をしている。

「いいか。よく聞けよ。俺らは残り少ないトイレットペーパーみたいに心もとない存在だ。脇役で、しかもAに一歩足りないBなんだ。だから、そのままさらけ出していこうぜ!!『サイドB』!!」

「だっせー」
「でもいいかも?」
「うん」
「まじかよっ?!」

トイレットペーパーのくだりは嫌だけど、何でかそのダサい名前が、やたらカッコよく感じたことを僕は大人になっても覚えていると思う。司のキラキラとした瞳が、『サイドB』を見つめていることを。

かっちゃんはブーブー言っていたけど、司がギターを持って聴かせてくれた、これまた勝手に作ってきたバンド用の歌には何も言わなかった。結局みんな、司にはかなわないんだ。なんでか、許しちゃうんだ。


✻足りなくていい。足りないくらいでいい。
使うのが勿体無いくらい、大切な日々に息をして、散って、心に残れ。✻

いい歌詞だと思う。曲名が「トイレットペーパー」じゃなければ…。
トイレットペーパーは足りなくていいことなんてないよ、司。



金曜の夜の居酒屋は混み合っていた。
半個室の居酒屋にしといてよかった。

「九十九ついてるってよ」 
「わぁ!待たせちゃったね」
「ま、あいつなら静かに一杯やって待ってられるだろう」
「…そうだね。ゴッドなら安心だよ。店に迷惑かけないもん、絶対」

僕達はお互いバンドのメンバーを頭に思い浮かべている。
名前なんて言わなくても、誰が誰のこと考えて話しているかなんて、すぐわかる。

狭い通路を進んで、一番店の奥、暖簾をくぐると懐かしい顔がそこにはあった。





《あっぶねぇ、あとがきわすれた》

お喋りをしました。その中でサイドBは私の憧れのワチャワチャしてるのを書いたのかな的なことを話した気がします。

でもこうやって、じゃれ合って過ぎてく季節は尊いから。

この一場面物語は
一場面だけどつながっています。
時系列はばらばら。

私の書きたい場面とか、思いつきだけ。

一応結末は決まっていて、とある歌をきいて浮かんだものを物語化しています。


いつだって自由。

読んでくれて有難う。






サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。