TENET

善悪ってなんだ。
何が善で何が悪なんだ。
そんなものは一瞬で入れ替わるし、見る人や時代によって変わる。
だからこそTENETを持っていないと、揺るいでしまう。誰もが自分のTENETを信じて動いているのだ。

愛を知らずに育ってしまったセクターにとって、きっとああいう方法でしか愛せなかったんだろうことが悲しい。
彼が死ぬときに選んだあの思い出(と言っていいのか)が切ない。
偽りだとは知らなかった、でももしかして欲しかったものが手に入るのでは、と思ったあの思い出の時。
彼にとっては愛する人が他の人と幸せになるなんて、自分以外に彼女の興味が向くなんて許せなかった。これは彼自身の愛。子どものことも、奥さんのことも、彼なりの愛だったんだろう。

そして自分の愛するものを全て奪った元凶であるプルトニウムを作った人類に絶望し、また同じ過ちを起こさないように全て無くそう、それが彼のTENETだったんだと思う。これは彼の失われたものたちに対する愛であったかもしれない。

名もなき主人公の目線でこの映画は進行するが、私にとってはどうしようもなくセクターのTENETが浮かび上がってしまった。

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