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【読書感想】「転落」カミュ
「転落」カミュ
前山悠 訳
光文社古典新訳文庫
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久しぶりに本を読みました。
1956年に書かれた作品なのに、「うわあ、こういう人いる…」と感じてしまった。
本作の語り部であるクレマンスは、いままで無敵感の中自信たっぷりに生きてきたが、ある事件をきっかけに自身の矮小さに気づき、罪の意識にとりつかれる。
しかしその贖罪感情はなんとも複雑なねじれをともなっており、自己批判をかえって虚飾として纏って他者を道連れにしようとする姿がなんともいやらしく容赦ない描写でした。
他者を断罪したいという欲求も、自分のもつ罪悪感と他者を同一化させて引き摺り下ろして安心感を得るのも、人は昔でも現代でも同じことをやってるのだなぁ。
しかし解説を読んだところ、この作品を書いた当時カミュは、文壇による政治論争に敗れ人間性を否定されるほどに批判されてスランプに陥ってたそうで…。
クラマンスはそんな自分の姿と、論敵であるサルトルと社会主義者たちをマッシュアップした人物像なのだとあり、文豪とはなんと凄い創作をするものなんだと震えました。
ただ攻撃したり反論したりするのではなく、コテンパンにされた自分自身すら客観的にキャラクターに落とし込むことができるなんて、凄まじい胆力だ…。
古典を読むということは、時代を経ても変わらない人間の普遍性を見出す面白さがあると思っています。
私は読書するとき、同時代の文化風俗言葉遣いなどがときに生々しすぎてしんどくなることがあるのですが、時代や国を隔てることでノイズなく読めたりするんですよね。
決して読みやすいものばかりではないけれど、読んだあとの満足感は格別だと思います。