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奥様はチーズ

モデルの仕事をしていた頃、しょっちゅうお世話になったカメラマンさんがいた。
仮に名前を小山さんとしよう。
小山さんはカメラの技術も素晴らしく、まさに芸術家といったタイプであった。そして何より素晴らしいのは、愛妻家ということだ。

カメラマンの中には、モデルにちょっかいを出そうとする人もいるが、小山さんは全く無い。

「小山さんは、浮気しようと思ったことは無いのですか?」
「無いよ。だって、そういうことをしませんと誓って結婚したんだから、当然でしょ。」

ナント!素晴らしい。
世の中にはこんな男性もいるのか!
スケベ心丸出しの男性ばかり見てきた私は、感動した。

実際のところ、小山さんは口だけでなく本当に愛妻家で、常に奥様と一緒だった。女性に関する噂を聞いたことは一度も無かったし、セクハラのようなことも一切ない。
まさに一穴主義なのだ。
そして『クソ』が付くほどマジメな小山さんは、当然のことながら下ネタも言わない。
子供のように無邪気な心を持つ小山さんは、教育番組のような会話で、いつも明るく楽しい現場作りをしていた。

その日も私は、小山さんのスタジオで撮影だった。カット数が多く、バタバタと忙しい現場だったが、ようやくランチタイム。
みんなで食事をしながら、楽しい会話が弾む。話題は、チーズで盛り上がった。

「ブルーチーズとか食べられる?」
「大好きーっ!」
「あぁー私ダメ!クサイ!」

女性陣が盛り上がる中、小山さんも参戦。

「発酵が進んだチーズって、すごい匂いのがあるよね!」
「ありますねーっ!」
「カンカンカンカンカーン!って、匂いを嗅いだ瞬間、脳天に来るよね!」

小山さんは、「カンカンカンカンカーン!」のときに、右手で身振り手振りを入れた。
それはまるで、豪速球で投げられたボールが壁のアチコチにぶつかりながら、最後は自分の脳天に戻ってきて突き刺さる、というジェスチャーだった。

「きます!きますーっ!」
そのジェスチャーが、あまりにも『臭い』ということを上手に表現していたため、女性たちは大笑いをした。

気を良くした小山さんは、無邪気に続けた。

「あのチーズの匂いって、おまたの匂いやね!女の人のおまたも、カンカンカンカンカーン!って脳天に来るよね!」

「・・・・・・。」

女性が全員、言葉を失った。
コイツは、何を言ってるんだ?
そう言いたげな顔をして、目配せを始めた。

小山さんの名誉のために言っておくが、これは下ネタでもセクハラでもない。
小山さんは純粋に、
『チーズって、おまたの匂いと一緒だよね』
と、話しているだけなのだ。

しかし女性たちは明らかにイヤそうな顔をし始めている。
いかんいかん。空気を変えなきゃ!

「小山さんってば、そんなわけないでしょう〜!アハハハハ!」

笑い飛ばしたつもりったのだが、

「いやいや、同じだよ。脳天に突き刺さるほどクサイもん!」

え・・・。
やっぱりチーズなのか?

小山さん、あの、よろしいでしょうか。
えっと、おそらく大半の女性のおまたは、チーズではないと思われます。
そして一穴主義の小山さんの発言により、そこにいた全員の脳裏に、同じ言葉が浮かんでしまいました。

『奥様は、チーズなのか、、、。』

いやはや。
マジメな人ほど、どこで爆弾を落とすかわからんものだ。
この場に奥様がいなかったことだけが救いであった。



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