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着信あり

草木も眠る、丑三つ時。
私は翌日の仕事に備え、実家のベッドでスヤスヤと眠っていた。
すると突然、携帯電話が鳴り響いた。

「なんだ!?」
私はビックリして飛び起きた。着信を見ると、彼からの電話だ。
仮に、彼の名前を『アキラ』としよう。
アキラとは、付き合ってまだひと月足らず。お互い30代後半で、
常識あるオトナの筈だ。こんな時間に電話をかけてくるなんて、
非常事態かもしれない。私は急いで電話に出た。

「もしもし?」
「ガチャン!」

いきなり切れた。どうしたのだろう?不審に思って、かけ直した。

「もしもし・・・。」
「・・・・・・・。ガチャン」

今度は無言の後、電話が切れた。

「心臓発作?!」
アキラは体重が100キロ近くあり、かなりのメタボ体型だった。
しかも毎日飲み歩いて深酒。それどころかお酒に呑まれて酩酊状態に
なることも多かった。年齢的に考えても、倒れて何らおかしくない。
もし誰もいないトイレで倒れていたら、死んでしまう!
私は慌ててかけ直した。

プルルルル、、、。
「あ、もしもし?」
「・・・・・・・・・・。ガチャン。」

プルルルル、、、。
「もしもし!」
「ガチャン。」

電話の向こうは、無言になったり、いきなり切れたりと、不可解だ。
これは、心臓発作で倒れているのではない。
明らかに誰かが操作をしている。

女だ!
私は確信し、相手が出るまでかけることにした。すると遂に!

「もしもし?」
「・・・・・・・。」
「もしもし?聞こえてる?」

すると、甘えたような女の声で、

「ん~。寝れないってば~アキラ~!」

そして、ガチャンと切れた。

「!!!!!!!!!!!!!」

なに!?! 今の!!!!!
あまりのショッキングな出来事に、心臓がバクバクと音を立て、
破裂しそうだ。落ち着け!どういう状況か考えよう。
私はアキラの携帯電話にかけたよね?そしたら女が出たよね?  
つまり深夜、寝ているアキラの隣に女がいる。

「ふざけんな!!!」
私は、ブチ切れた。すぐさま電話をかけ直したが、もう出ない。
卑怯者め!

絶対に出るまでかけてやる!
私は再び電話をかけた。が、やはり出ない。
呼び出し音から留守電に切り替わった。
留守電に切り替わるや否や電話を切り、間髪入れずリダイヤルを押す。
切ってはかけ、切ってはかけ、切ってはかけ、切ってはかけ、、。
気づけば1000回くらい、かけてやった。

「え?1000回も? 」
と、ここで大抵の男性はアキラに同情をする。
自分に置き換えて想像したとき、着信履歴にズラッと彼女の名前が
出ていたらゾッとするらしい。1000回も電話をかけてくる女なんて、
もはやホラーだそうだ。

「あぁ~!東京のマンションにいたら、すぐさまタクシーに乗って、
ヤツの家まで行ってやるのに!」よりによって、京都の実家だ。
アキラの携帯は、私が電話をかけ過ぎたせいで、
バッテリーが落ちてしまった。もう、どうしようもない。
私は一睡もできないまま、朝を迎えた。

連絡が着いたのは、13時過ぎ。
電話に出たアキラは、 「どうしたの?」と、いつもと変わらない様子。
トボケやがって。

結局、アキラとは別れることになった。
言っておくが、浮気が理由では無い。アル中だったからだ。
お酒の上でのトラブルは、これが初めてでは無かった。

そういえば初めて二人で食事に行ったとき、手がプルプルと震えていた
しかしポジティブな私は、
「あらあら。初デートでキンチョーしているのかしら。」
と微笑ましく見ていたのだ。

なぜに、そこで見抜けなかったか?
おぉ、私の男を見る目の無さよ。。。

こうして『アル中男』と『ホラー女』の恋愛は、
わずか30日ほどで終わってしまった。
何ごとも、過ぎたるは猶及ばざるが如し。
お酒の飲み過ぎと、電話のかけ過ぎには、気を付けたいものである。

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