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パリでのこわ~い話

20代半ば、友達と二人でパリ旅行をした。
仮に、友達の名前を『るみ子ちゃん』としよう。
るみ子ちゃんは、仕事の現場で知り合った友達である。
毎週、競馬の取材で栗東トレーニングセンターへ行くのだが、
朝が早いために前泊をする。るみ子ちゃんと私は、毎週同じ部屋で
寝起きを共にし、好きな人の話や仕事の相談など、
色んなことを話しながら時を過ごした。
2年ほどで番組は終わったのだが、それからでも定期的に会っては
近況報告をするような仲の良さであった。


そんなるみ子ちゃんが、結婚することになった。
こんなハッピーなことは無い。私も心底嬉しかった。
しかし結婚すると、旦那さんを置いて友達と旅行なんて難しくなるだろう。そこで私たちは、最初で最後の旅行をすることになった。


行き先は、花の都パリ。独身最後の旅行には、最高の場所ではないか。
凱旋門やエッフェル塔、オペラ座を見てシャンゼリゼ通りを歩き、
サロン・ド・テでカフェを楽しむ。
競馬好きの二人だから、シャンティ競馬場にも出かけよう!
それはそれは、楽しいスケジュールを組んだ。


飛行機の中から、二人はハイテンション。
ようやくパリに着き、現地の添乗員にホテルまで案内をしてもらった。
私は自分で地図を広げながら、現地に馴染む旅が好きである。
従って添乗員さんの仕事は、ホテルに案内するだけ。
あとは、自分たちで組んだ楽しいスケジュールが待っている!


迎えに来てくれた添乗員の女性は、パリに住む日本人であった。
年のころは、おそらく50代後半。眼鏡をかけて、ぽっちゃり。
顔で言うなら、ハリセンボンの近藤春奈さんを中年にした感じである。
しかし添乗員の春奈さんは「角野卓造じゃねぇよ!」とは言わない。
「マイケル・ムーアじゃねぇよ!」とも言わない。
「シュレックじゃねぇよ!」とも、、、、、もうええな。
とにかく言葉使いが丁寧で、お上品。
よく気の利く、親しみやすい女性であった。


私たちが宿泊するのは、パリの街中にある若者向けのオシャレなホテル。
しかし一流ホテルでは無いので鍵だけ渡され、部屋への案内は無かった。
そこで優しい春奈さんは、私たちを部屋まで案内してくれることとなった。


広くはないが、清潔で明るいキレイな部屋。
「ここがバスタブですよ。」
「歯ブラシはついていないのですが、大丈夫ですか?」
という具合に、丁寧な春奈さん。
「こちらがテレビですね。これがリモコンで、このボタンを押すと
スイッチが入ります。」
春奈さんがスイッチを押した瞬間、三人が見守るテレビの大画面には、
黒人男性の大事な部分を、金髪女性が思いきり口にくわえている映像が
映し出された。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんじゃ!こりゃ~~~っ!?!


るみ子ちゃんも私も、いきなりのショッキングな映像に、
言葉が見つからなかった。
春奈さんも、呆然と見ている。
三人が三人ともどうして良いかわからず立ち尽くしていると、
いきなり春奈さんが、


「まぁ、怖いわ!」


と、テレビを消した。


え?
『怖い』って、なんだ?


るみ子ちゃんと私は、思わず顔を見合わせた。
そしてお互いに、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
「ほんと、ビックリしましたね。。。」
ヒクヒク笑いを堪えながら、こう返すのが精いっぱいだった。


あかん。もう我慢の限界。
『怖い』ってなんだよ。 怖くはね~だろ。


私たちは、太ももをつねりながら、必死に笑いをこらえた。
あれほど丁寧に部屋を案内してくれた春奈さんだが、
「怖いわ。」と言ったあとは、そそくさと部屋を出て行ってしまった。


春奈さんが出るや否や、るみ子ちゃんと私は、大爆笑。
腹がよじれるほど笑った。
「怖いって、なに?」
「あの時の、春奈さんの顔~!!!」


時差ボケで寝不足の脳ミソに、いきなりのエロビデオ。モザイク無し。
それを初対面の女三人が、パリの一室で一緒に見る羽目になり、
春奈さんはワケのわからない言葉を発して出て行った。
これほど面白いことは、あるだろうか?
私たちは笑いすぎて、涙が止まらなかった。


るみ子ちゃんとのパリ旅行は、行きたいところを全て巡り、
最高に楽しい旅となった。
しかし、「パリの思い出は?」と聞かれると、
あの衝撃的な映像と春奈さんの「怖いわ」しか、
思い出すことができないのである。


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