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「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」国立文楽劇場 2023年7月

夏休み公演、大阪まで行ってまいりました!

4月公演とこの7月の公演を通じて、「通し狂言」という趣向で全編を見ることができました。普段の公演は、「見取り」といって、長いストーリーの中の見せ場だけを切り出して公演するのですが、「通し狂言」というのは、名作を全編通しで見られるのという贅沢な趣向。(3か月空いてしまうのは残念ですが・・)

特に、「妹背山婦女庭訓」は、壮大な古典ファンタジー&スペクタクルという演目ですが、「ラスボス」役の蘇我入鹿が権力を持ち、殺されるまでを通しで見られるのはなかなか珍しいとのこと。

とはいえ、蘇我入鹿のくだりはあくまで「設定」という感じで、そこに、様々な登場人物の人間ドラマがのっかってきます。大河ドラマみたいな感じですね。

前半は、「日本版ロミオとジュリエット」と言われる、若い恋人同士の悲恋を描き、後半では、杉酒屋の「お三輪」という町娘が嫉妬に狂って悲劇的な結末を迎える。これが、二大見せ場となっています。

特に、お三輪は文楽を代表するヒロインと言ってもよいくらい、キャラがたっている。美人の町娘ですが、町内に居候している謎の色白美男子と恋仲になっている。実は、色白美男子は、藤原淡海といって、藤原鎌足の子息の世を忍ぶ仮の姿です。蘇我入鹿を倒すタイミングを伺っているのですね。

お三輪は、身分違いの恋をしていることも知らずに、淡海の元に現れた橘姫と三角関係になり、嫉妬に狂います。そこから思わぬ展開に・・・。

白い苧環を手に、髪が乱れたお三輪の姿

感情にまかせて暴走した挙句、「自分などは相手にとっては取るに足らない存在だった」ということを知らされ、嫉妬と怒りで正気を失う。それが、恋する相手の志を助ける結末に。よくぞこのようなことを思いついたな、と思うような奇想天外なお話です。

お三輪は15歳くらいで、まだ幼さが残る年齢。勘十郎さんの演じるお三輪ちゃんは、お転婆で、思ったことが全部出ちゃう。淡海を訪ね歩く時にモジモジしながら「いい男が来てませんか?(意訳)」とか言っちゃう。

思春期の恋の浅はかさや勢い、そして、シナを作ってあざとくかきくどいたり、甘えたりして男を繋ぎ止めようとする。そんな幼さが残る恋心が、ことごとく踏み躙られていくんですよね…。

恋敵の橘姫は、入鹿の妹という敵方とはいえ、身分は申し分ないし、淡海のために命を捨てる覚悟もあり、そして行動力がずば抜けている…という、パーフェクトハイスペック女子なわけです。そして淡海に「後の世で結婚しよう」とまで言わせちゃう。

そもそもお三輪が勝てる相手じゃないし、すでに敗北確定してるわけです。

とにかく設定も、話の成り行きも、残酷なのです。殺されるのを見るより辛い…

この演目が初演された18世紀、潰れかけていた竹本座を復興させた大当たり演目となったとのこと。登場人物の苛烈な人生で涙を誘い、奇想天外なストーリーで驚かせ、余韻を残す。芝居を観た後のカタルシスを存分に感じられる演目でした。

「道行恋苧環」の段は、人間国宝である清治師が率いる三味線隊が圧巻の演奏。6名での合奏の迫力だけでなく、清治師のソロパートが迫力満点。お一人で数人分の存在感がありました。浄瑠璃と三味線の音響に合わせてつくられている劇場のためか、美しく迫力ある演奏に陶酔できました。

いつもどおりヒロインの人形の展示が
杉酒屋にちなんで

ラストの「入鹿誅伐の段」。これあまり公演で出てこない演目のようですが、突然のファンタジー展開。他のお芝居と違ってラストシーンに盛大な盛り上がりがあるわけでもなく、ただ淡々と終わっていく。感動ポルノ的な終わり方ではない点が文楽らしくて好きです。

名作「妹背山婦女庭訓」を全編コンプリートできたのはとても嬉しく。8月に関東で「金殿の段」の公演が2回あるので、今から楽しみです。

四月公演の投稿↓

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