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拝啓、岸本千佳さま。
今日は岸本千佳さんの誕生日です!誕生日のメッセージを送信しよう!
12月9日の朝、Facebookが教えてくれた。
でも、彼女はもう、この世界にはいない。
私は家を出て、青く澄みわたった空を見上げた。
岸本千佳さんは、京都を拠点に不動産プランナーとして活躍されていた。
不動産プランナーとは、不動産の企画から仲介、管理までを手がける役割の仕事だ。岸本さんは不動産業界でも知る人ぞ知る異彩を放っていた人物だ。古い物件をオシャレに生まれ変わらせる、といったそんな単純なものではない。
不動産をまち全体の点と捉えて、その点にどんな役割を与えて、どんなひとが集まり、どんなふうに利用すれば、より魅力的な拠点になるのかを、あらゆる方向から分析して企画提案することにあった。
あるひとが、岸本さんのことをこうおっしゃっていた。
彼女の企画は誰も真似できない。アートなんですよ
先進的な発想をする岸本さんに取材が多く舞いこんだ。関西テレビでかつて放送されていた人気番組『7RULES(セブンルール)』にも登場したほどだ。
次回5/16(火)オンエアの #7RULES は京都で活躍する古い建物を魅力的な物件に蘇らせる不動産プランナーの #岸本千佳。建築士をあきらめ、別の方法でも建築に関わりたいと模索した岸本の「#セブンルール 」とは?#あなたにルールはありますか #7ルール #火曜よる11時 pic.twitter.com/YuPDBBvj2O
— 7RULES (セブンルール)【「THE RULES」9月22日、9月23日放送!(関西地区)】 (@7rules_ktv) May 11, 2017
私は、岸本さんに出会うまで、恥ずかしながらそのご活躍を知らなかった。
岸本さんと私を繋いたきっかけは、稀人ハンター川内イオさんが主宰する「稀人ハンタースクール」の第2期だった。2024年4月開講の本スクールに、岸本さんはスクール生、私は1期生サポートメンバーとして、月曜日クラスにオンラインで受講していた。
画面越しにお会いする岸本さんは、知的な空気をまとわせながら真剣に聞き入っておられた。「深掘り」についての講義中に特に質問をされていたのが印象的だった。また、取材をたくさん受けてこられた立場からの意見も、惜しみなく話してくださった。
岸本さんが「書くこと」をライフワークとされていたのは、受講後に知った。
この2冊は、ライターに頼らず、すべて岸本さんの手で執筆されたものだというから驚きを隠せない。多忙な本業のかたわら、執筆のための時間をとり、自分の言葉を紡いでいく。
芯のある凛とした言葉で紡がれる文章からは、岸本さんの知性とセンスがにじみ出ていて、雲の上の人のように感じられた。
6月29日、岸本さんからDMをいただいた。冒頭を読んだだけで、びっくりして面食らってしまった。
ご相談というのは、今私は、地方女性の働き方をテーマにした新書を書いているのですが、野内さんをその本のインタビュイーとして取材させていただけないでしょうか。
等身大の地方女性8人のインタビューを中心に、私の見解を書こうと思っています。地方女性テーマだと読んでいてしんどくなる暗い話が多いので、地方の嫌な部分も交わしながら前向きに生きていこう!という裏テーマです。
ライターって、地域の広報のような仕事なのかなと思い、それはすごく未来があるなと思ったんです。稀人ハンターとしての歩みも、地方住みだからこその可能性を感じ、これはぜひ野内さんにお話が聞きたい!と思いました。
3冊目のご著書を執筆中で、テーマに沿う、地域で生きる女性のロールモデルとして紹介したいから、ライターとして活動する私を取材したいと。
自分になにが起こったのかわからず、震える指で返信した。
いつもなら「私はそんな器ではありません」とお断りするご依頼。でも、今回ばかりはお受けしたいと思った。私の経験が岸本さんのフォルター越しに文章をしたため、誰かの背中を押すのだとしたら。こんなにうれしいことはない。岸本さんにすべてお話しようと決めた。
8月7日水曜日に会うことになった。しかも岸本さんは私が住む場所を体感したいという。公共交通機関を使うととても不便な場所なのに。姫路駅まで迎えに行きますよと伝えるも、岸本さんは高速バスで向かうとおっしゃった。
このとき、私は岸本さんの普段の仕事で見せる姿勢にふれた気がした。不動産(=私)の場所(まち)を自分で調べて、可能な限り自力で向かう。移り変わる景色を五感で確認する。調べる手間も、おもむく時間も、自身で体感してこそ、企画や執筆に活かされるのだろう。
8月7日、10時過ぎ頃。高速バスのバス停に岸本さんが降りてきた。私の話を聞くためだけに時間をかけて、来てくださることに感動してしまった。
「わー、すごい。一面が緑ですね」
紺色の帽子をかぶった岸本さんはまるで少女のようだった。流れ落ちる汗をハンカチで押さえながら、自宅付近を見渡してスマホで写真を撮っている。
義両親と同居するために義実家リノベーションをした自宅を、「うちにとても似てますよ」と不動産プランナーの顔になり、興味深そうに我が家を見学され、ご自宅のお話もしてくださった。
場所を変えて、ランチも兼ねて宍粟(しそう)市の「町家カフェ さんしょう」へ。ごはんを食べながらお話した。
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午後は、私が商業ライターとして初めて取材した、たつの市の古民家カフェ「菓子と珈琲 朔(さく)」に移動し、ケーキと珈琲を飲みながら、他愛のないおしゃべりのような、日々の悩み相談のような、オンとオフの境界があいまいな軽やかなインタビュー。
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同じ女性として、母として、仕事をする人間として。
等身大の岸本さんは、雲の上の人では全然なく、コンプレックスを持ちながらも自分のやりたいことを全力でやりながら、家庭のことも大切にし、時にはうまくいかずに悩んで、笑って泣いて過ごす、まっすぐでしなやかな女性だった。
ご主人はどんな方なんですか?と姫路駅に向かう車のなかで聞いてみた。
とっても穏やかで、落ち着くひとなんですよ。私にはもったいないなって思うんですけど。
ああ、素敵なともだちができたな、うれしいな、これからもたくさん岸本さんと話したいなって思った。
姫路駅南口ロータリーに着くと、18時をまわっていた。稀人ハンタースクール仲間と別れる時、私はいつもハグか握手をする。でもこのときは運転席にいたままだったからハグはできず、握手すら忘れてしまった。また次会うときでいっか。「また会いましょう!」と手を振って別れた。
1日の半分を岸本さんと過ごした。まるで宝物のような日になった。この日の出来事を稀人ハンタースクール2期生コミュニティに、岸本さんとの写真とともに投稿した。とてもしあわせで、ふわふわとした心地で眠りについた。
翌朝。起きてすぐに思った。ライターとして活動する原点にもなったミニ冊子を読んでいただきたいな、お忙しいから迷惑になるかな、でも送りたい、と。今日のうちに発送してしまおうと、封筒に入れて送る準備をする。
出かける前にスマホを見た。激しく動揺する。手が震える。涙が勝手にあふれ出てくる。
岸本千佳が逝去しました
岸本さんの最新Facebook投稿に、こう書かれてあった。
突然の知らせに、誰もがこの事実を信じることはできなかったと思う。
なぜ? 昨日たくさん話して、たくさん笑ったのに。
2024年8月8日午前2時、不意の事故で岸本千佳さんは帰らぬひととなった。
その日はずっと上の空で、なにも手につかず、1日中泣いていた。
岸本さんは、地方でライターとして生きることを選んだ私を、全肯定して応援してくれた。
実は4月に、ライター活動をする上で「自分を全否定」されたようなとてもショックな出来事があった。なかなか切り替えもできず、スパッと立ち直ることもできず、もう辞めてもいいかもしれないと思っていた時期に、岸本さんからDMをもらった。
すっかり自信喪失した私を、勇気づけてくれた。
私はいま、プレジデントオンラインで定期的に企画を出し、寄稿している。ある記事の戻し原稿から、担当編集者さんが最上部にこう書いてくださっている。
野内菜々さん:地方ビジネス奮闘記シリーズ
"ライターって、地域の広報のような仕事なのかなと思い、それはすごく未来があるなと思ったんです。"
つながった。パズルのピースがはまるように。
8月7日、岸本さんが私に差し出してくれた時間。
落ち込むとき、悩んだとき、ずっとお守りになってくれるだろう。そのたびに隣で笑ってくれるにちがいない。
「野内さんなら、だいじょうぶですよ」と。
岸本さん、またあなたの笑顔に会いたいな。
お誕生日、おめでとう!
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