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娘の本音、親には言えない? 30代女性が抱える、家族への葛藤と秘密

「最近どう?」

 母から届いた短いLINEに、いつものように「元気だよ!」と返そうとしたけれど、その日は指が止まった。本当に元気なのか、自分でもわからなくなっていたから。仕事は忙しいし、部屋は散らかり放題。コンビニ弁当の空き容器がテーブルに積まれているのを見て、少しだけ自己嫌悪。たまの休日はベッドに倒れ込んで、一日中スマホを眺めるだけ。こんな生活、母に正直に話したら、きっと「ちゃんとしなさい」と叱られるだろうなと思う。

 親に言えないことが増えたのは、いつからだろう。昔は学校で起きたことも友達関係の悩みも、何でも話していた気がする。でも、大人になるにつれて「話してもわかってもらえないかも」という不安が先に立つようになった。言えないことが増えるたびに、親と自分の間に少しずつ溝が広がっている気がして、それが少しだけ寂しい。

 例えば、去年アメリカで短期のダンス留学をしたときのこと。「貯金で行った」と母には伝えたけど、本当はカードローンを組んで費用を捻出した。ダンススタジオの先生に「本場で学んでみて」と背中を押されて、どうしても挑戦したかった。けれど、「借金してまで行くなんて」と母に言われるのが怖くて、本当のことを隠してしまった。私の夢や情熱を否定されたら、きっと立ち直れなかったと思う。

 でも、それ以上に絶対に母に言えないことがある。つい最近、飲み会で出会った男性との一夜の出来事だ。

 あの日、仕事で大きなミスをして、心が折れそうになっていた。同僚の女の子に誘われて行った飲み会で出会った彼。話しているうちに、不思議と気持ちが楽になった。いつの間にか、私は彼に心を許していた。

 気づけば終電も過ぎ、彼に「少し話そう」と誘われるままにタクシーに乗り込んでいた。彼の部屋はシンプルで居心地がよく、コーヒーを飲みながら他愛もない話をしていると、自然と距離が縮まっていった。そしてその夜、私は彼と一線を越えてしまった。

 翌朝、彼の寝顔を見ながら「軽率だったかな」と少し後悔した。でも、それ以上に「昨日の私は確かに救われていた」と思った。けれど、この出来事を母に話すことは絶対にできない。娘には、そういう一面はないと思っていてほしいから。

 母に「最近どう?」と聞かれるたび、「忙しいけど、充実してるよ」と半分嘘をつく。それが本当の私を隠すための精一杯の答えだ。

 親に隠し事が増えるたびに、本当の自分を誰も知らない気がして、少しだけ寂しくなる。けれど、言えないことも含めて、今の私を作っている大切な経験なのかもしれない。いつか母に「こんなこともあった」と笑い話にできる日が来るのだろうか。その日を夢見ながら、私は今日も「元気だよ」と返信を送るのだ。

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みさき なな
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