通勤電車で見つけた「推し」な人たち。 あなたもきっと共感する、人間観察エッセイ
朝の通勤電車は、小さな人生の縮図のようだ。たくさんの人々が集まり、無言の中でドラマが繰り広げられている。ここ最近、私はこの空間にどっぷりとハマってしまった。観察することで、自分の気持ちが少し軽くなることもあり、日々の楽しみになっている。
私がいつも乗る8時前の電車は、混雑具合がちょうどいい。全員が自分のスペースを何とか確保しようとするぎりぎりの緊張感が漂う中、私はドア付近の定位置から乗客たちを眺める。
まず目につくのは、“寝落ち名人”と私が心の中で呼んでいる若い男性だ。彼はスーツ姿で電車に乗ると同時に目を閉じる。どんなに混雑していても、つり革を握った手が滑りそうでも、一切動じない。その様子に毎回「次の駅でちゃんと降りられるのかな?」と心配するが、不思議とタイミングよく目を開け、颯爽と降りていく。その熟練ぶりに密かに感心している。
次に注目しているのは、月曜日によく目にするカップルだ。小声で話しているが、どうやら喧嘩をしているらしい。「だからそれがムカつくんだって!」と彼女が怒れば、彼氏が「今そんな話しなくてもいいだろ」と言い返す。会話の内容までは分からないけれど、朝から重い空気が漂っている。けれど、翌週には仲良さそうに手をつないでいる姿を目にすることがあり、なんとなくほっとする。
そして、一番印象に残るのが、“エクササイズおばさん”だ。50代くらいの女性で、朝のラッシュ時にキャリーケースを引きながら軽やかに乗車してくる。車内で立ち位置を確保すると、さりげなくストレッチを始めるのだ。肩をぐるぐる回したり、軽く屈伸運動をしたりする姿が何とも微笑ましい。たまに目が合うと、にこりと微笑むその様子に、朝の疲れが少し癒される気がする。
そんな中で、一番驚かされたのは“スマホDJ”と呼びたいおじさんだ。ある日、車内の静けさを破る音楽が聞こえてきて、最初はイヤホンの音漏れだと思った。ところが、ふと見ると彼はスマホを手に持ち、堂々と動画を再生していたのだ。周りの視線を気にする様子もなくアニメソングを流す姿に、驚きと同時に「これも一つの個性なのかもしれない」と妙に納得してしまった。
朝の通勤電車は、私にとってちょっとした「劇場」のような存在だ。乗るたびに思わず笑ってしまう場面や、心の中でツッコミを入れたくなる瞬間があふれている。そして、会社に到着する頃には「明日もまた彼らに会えるかな」と少しワクワクしている自分がいる。
電車はただの移動手段ではなく、人間観察の宝庫だと思う。そして、もしかしたら私も誰かの目に留まり、「変わった乗客の一人」として見られているのかもしれない。それを想像すると、少し背筋が伸びる朝の通勤路だ。