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いつか何かにまとまる話し。2

「あなたは乱暴者だよ。」

テキパキとリズミカルに動きながら、ふと私の席のまえでピタッと止まり、
まるで劇中のセリフのようにマスターは言った。

間髪入れずに、こんな事言っても良いかな。聞いてくれるのかな。と、またリズムに戻りカウンター内を片付けながら呟く。

この人柄と一本筋の通った熱い男の、それであってなんとしなやかな生き様だろうかと胸は熱くなる。
運河保存運動に関わり、その後も小樽の街に多大なる影響を及ぼし続ける男が此処に居る。

叫児楼。

私は自分の感情など他所に、揺さぶられるものに身を任せたい、聞かせてくださいと口にした。

あぁ、いいの。そう。良かった。と、叫児楼。

この時以前に、これまた小樽の接着剤と命名されし重鎮とこの場所にいた時間。
そのとき、どうやら私は大変に生意気な口を叩いた。
誤解の無いよう先に謝る、これまでのお二人の人生に大変に感服している事は紛れも無いことである。それと同時に、この街の現状に対して、私なりに思う事はある事を伝えた。

今まだあなた方がご顕在なのは嬉しい。こうして同じよう時間を過ごせる事に感謝したい。

でもそれとこれとは違うんだ。

鎮座する者は功績を振りかざしてはいないか、
エネルギーが溢れ有り余り
若者が、移住者が、居場所を求めている者に、
偏見、ジャッジをしてはいないか。
我が街と幅利かせ、都合の良いように考えては
いないか。
経験と知恵のあるものの真にすべき事は、
共に並走することであり、背中を押すことであり、
土俵を譲ることにあるだろう。
そこがこの街の、いま生まれ変わる為のスタートラインだと、私は言った。

その言葉に触れ、自分の在り方を内省しているんだよと仰った。

叫児楼。

傷は化膿せず、もはや傷ではなく、殻を破るその亀裂となり、こうして人は何度も生まれ変わる事が出来る。

そうでしょう。

個々の人間の大いなる力を信頼出来る瞬間。
真実と真実は共鳴し、人生は豊かで輝かしいものであるという喜び。

私の生意気な言葉は世に言う、下剋上なのではない。
私の真実そのままに、むき出しの言葉。その乱暴を真っ直ぐに受け止めて頂いた事。

どうかこの街を担う未来の為に、その有り余る経験と知恵とを発揮して頂きたい。まだまだ、まだまだ、やっていただかなくてはならないことが存分にあり、どうか一緒に未来を見て欲しいという私の懇願である。

それが伝わった。

叫児楼。

あなたはなんという人かと、感謝仕切れない。

私も生きていた。あなたも生きていた。
小樽はなぜこんなにも、人を狂わせる程に愛しい街であるか、その真実。お会いできて答えが見つかったと思う。

あなた方が、踊り、酔い、遊び、笑い、泣き、
命をかけてきたこの街の、路地に、壁に、道端に、
全てに命が宿る。

未来を憂いて、過去に縛られないで欲しい。
一緒に未来を見据えて欲しい。

あの路地も消えた、あの海岸線も消えた、
あの遊び場も、あの山も、あの秘密の場所も
消えた。

小樽が、かつての小樽では無くなっていく
毎秒毎秒を私たちは見届けている。

諦めなさい。
そうとも言った。

叫児楼。

私はもっと強くなる必要があるだろうね。あなたがたのようには慣れないと思うけど。私は私の戦い方を持っているから。そして等の昔に、諦めているから。
幾分か、冷静で在ると思うよ。

叫児楼。

私はまだ、生意気で乱暴でいようと思う。
かつてのあなたがたのように。
そしていつか追いつくこと無く置いていかれた時にまたその土俵を譲って欲しい。

あなた方が置いていかれ涙したことも、抱いて。
小樽は小樽で在り続けるだろう。

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