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恋人ごっこで良かったのは私だけだった。
“今年は付き合おうよ”
その通知を見てそっと携帯を閉じた。
あけましておめでとう。と0:30ごろ年が明けてすぐ来ていたラインに返信し、今年も大好きだよ。ときた返信に、今年の目標は小競り合いゼロでという全くキャッチボールのできていない文字を返し、私たちは2025年に来た。
このノンフィクションは恋人ごっこの彼との話。
クリスマスイブに会おうと言われ、なかなかに気が乗らなかった私は体調不良を演じて君と会うことをやめ、そのまま年を越した。
恋人ごっこと言っているがただのセフレだ。
そんなやつから新年にこんな連絡が来ると思わなかった。
恋人ごっこで楽だったのは私だけだったのかもしれないと、なんだか心が締め付けられた。
付き合おうよと言われた言葉に私記念日とか覚えられないし、と雑に返信すると俺はもうすぐ落ち着きたいから、ナナなら一緒にいられる未来が見えると真剣に帰ってくる言葉。
数年後を見据えて生きているこの人と結ばれる運命ではないことがすぐに分かった。
だって私は向こう10年は自由に生きたいと思ってしまっているのだから。好きなことを好きなだけ、好きな時にしたい私はまだ数年後を見据えられない。
私は君に愛を渡せないよ。だからその将来の相手は私じゃない。
そう言えたら楽だった。私はずるい女だ。未読無視をして私は眠りについた。
多分私が振る未来が見えたのか、彼はこの話を無かったことにしてと言った。その彼の選択に私は乗っかった。
いくら恋人ではないといえ彼とはもう5年ほどの仲なので流石に情が湧いてきてしまう。こんな関係になったのはつい最近だけど。
多分情だけではない。疲れたーと送れるのは彼だけだし、どんなにくだらないことでも話したくなってしまうのは彼だから。電話したら3時間くらいは話せちゃう、帰り道の10分なんかじゃ物足りない。彼と電話をしながらの帰路は少しだけ、いや結構遠回りをしながらゆっくりと一歩一歩歩いてしまうものだ。
少しの恋愛感情が私のトラウマに負けた。親が離婚してからやっぱり恋愛がトラウマなのだ。捨てられるとか、嫌われるとか付き合う前に考えてしまうようになった。私の過去から全てを知っている彼は強要をしてこようとはしなかった。
もし付き合って別れたらもう会えないんでしょ。
精一杯の君を離さないための言い訳だった。
そう言ったら、彼はじゃあこのままでいいから隣に居させてよ。だって。
仕方ないよ。ナナの気持ちがまだ追いついていないだけでしょ?
そう言ってくれるのを分かっていたから私はこう言ったのだと思う。
それでも気がついてしまった。多分私はこの人を恋人として接する日は来ないことに。親の離婚の話なんてきっと言い訳の一つだ。
それでも、ごめんねとありがとうが混じりながらも私は彼の気持ちを利用した。
ここでもう会わなくなる選択肢を彼は作らなかった。
そして、もう会わないと私も言わなかった。
彼が私の中で簡単に消えてしまうような男ではなくなっている。
いつも会いたい時に連絡して、話したいことだけ話して、ただの都合のいい関係だと思っていたのは私だけでしかなかった。
ごめんね。卑怯な女で。ずるくてごめん。
そんなごめんを言うことも私はできないのだ。
でもまだ、私はそんな君の気持ちを利用したい。
ナナ