20歳、2年半片想いした話。
好きな人なんてできると思わなかった。高校一年生で初めてお付き合いした人はいわゆる蛙化現象を引き起こし片思いの末、付き合ったのになぜか自分から別れを告げた。
それからなんとなくいいなと思う人と付き合ってみるもなぜかうまくいかなかった。寝落ち電話、ラインがあまり得意ではない私にとって現代の恋愛方法がかなり苦痛だった。毎日ラインで“おはよう”“おやすみ”を送るのさえ億劫だった。
そんな恋愛不適合者の私が大人になってから2年半片想いした話。
始まりはバイトだった
A君は私よりも先に入っていた同い年のバイト。私は後に同期になる4人のうちの3番目。同い年というだけの共通点しかなかったし、私以外全員男だったせいか、誰かに彼女ができると自然と同期と飲みに行ったりすることは無くなるのだった。
居酒屋のバイトは思ったよりも楽しくて、男女比率が7:3だったしバイトの末っ子だったおかげでかなり甘やかされていた事実が正直美味しかった。
専門学校だったせいでサークルもなく、所謂学部飲みみたいなのも経験したことのない私にとってバイト先がサークルのようだった。
バイトを始めて2年目。他の人よりもかなり学校が忙しかったせいでそれまでは一度も参加したことがなかった飲み会に初めて行くことになる
「ナナちゃんと同い年の女の子がついに入ったで。」
試験の一週間前だったのでバイトも休んで休日も学校終わりも全部勉強に当てていたがその日はなんとなく飲み会に参加したかった。
「終電で帰るよ私。」
営業後の飲み会だからか、終電ギリギリで始まった。次の日はおやすみだったけど、やっぱり罪悪感は少し残っていたから。結局乾杯で帰ろうとしたのにもう少しだけ、後少しだけ。そう思っているうちに当たりは明るくなり始める。
乾杯しては隣にいたA君が全部飲んでくれていた。彼だってそこまでお酒が強いわけではないのに。
「いいよ別に。ナナちゃんが再試になってバイトに来ない方が困るからね。」
側から聞くときっと同期としての、バイト仲間としての言葉だろう。それでもその言葉で完全に私はA君に堕ちてしまったのだった。
好きになっていた
何度かいいなと思うことはあった。
バイトを代わってあげるとその日の混雑状況を聞いてきて、ごめんねありがとうと共にスタバのチケットが送られてきたり、二日酔いで出勤してきた彼の代わりにオープン準備を済ませるとこっそりデザートを賄いで出してくれたり。
彼はどちらかというと不器用で恋愛よりも友情のようなそんな人だった。
そんな不器用さの中にこっそりと感じる優しさが次第に彼への好きを加速させた。
12月。忘年会という名の大飲み会があるようだった。
「俺はいかないけど同期たちは行くらしいよ。ナナちゃんも行きなよ。」
いや、私は君がいなきゃ意味ないんだって。もうすでに好きになっていた私は君しか見えていなかった。
「A君がいかないなら私もいかないよ。」
「じゃあ、二人でどっかいく?」
私のこと好きじゃん絶対。忘年会行かないのに二人では遊んでくれるんでしょ。もう私のことが好きじゃない。
完全に思い上がった。二人で遊びに行くなんて夢にも思っていなかったから。
お互いのバイトが休みの日を探して予定を立てた。最初は呑めればなんでもいいという彼だったが、絶対に一日どうにかしても遊びたかった私は12月の大定番イルミネーションを見に行くことに成功する。
「24と30どっちでもいいよ。」
確か予定を決め始めたのは20日ごろだった気がする。一か八かでクリスマスイブを提案したけどうまく行く保証なんてどこにもなかった。
「じゃあ、24いただきます🍻」
なんでビールの絵文字かは全くわからなかったけどクリスマスイブを選んだ君のことがもう堪らなく好きになっていた。
「俺運転でいいでしょ。」
「私免許ないからね。運転分何か返しますよ。」
「じゃあクリスマスプレゼントが欲しいかも。」
そういえばいつもスリーコインズで買ったただのピアスだったなぁと思い出しピアスをあげることにした。
“その日は二人とも最高のビジュで行こうね”
君が送ってきた言葉がなんだか24日を楽しみにしているかのような文面でもっと楽しみになっていた。
当日はなんでも楽しかった。多分混むからと途中から電車で向かったはいいもののバスが二時間に一本しかなくて奇跡の40分歩きっぱなし、1番辛い緩やかな坂を畑を見ながらずっと文句言いながらも楽しく歩いたし、頑張って歩いたのにまだイルミが始まる時間になっていなくてぼーっとアイスクリームを食べた。
明かりがついてもまだ当たりはそこまで暗くなくて売店でグミを買ったり、ちょっと寒がったりしてホットのほうじ茶を飲んだり。
だんだん人が多くなるにつれて当たりも暗くなるから、はぐれるわけないのに手なんて繋いだりして。
早く着きすぎたせいで三周くらい回ったけど飽きて早々に帰宅、懐メロメドレーなんて流しながら少し寄り道してスタバじゃんけん。
タバコ吸ってくるから待ってて。と車を降りてコンビニにあった灰皿でタバコを吸い始めた君。まっすぐ帰ってくるかと思ったら、車のトランクに行ってクリーナーを探すなんていうから。
「はい、メリークリスマス。」
そう言って君はナノユニバースと書かれた紙袋を私にくれた。
今日一日俺はプレゼントなんて買ってないと、ずっとシラこい演技をしていたのに。
田舎のコンビニの駐車場で真っ暗で何も見えない中、君は私のことを写真に撮りながら、私は君にマフラーをもらった。
「これで帰るの勿体無い。」
そう言った私にまた時間をかけて海を見せに行ってくれた。
外は雨と雪が混ざったような天気で海なんてこれっぽっちも見えなかったけどどうでもよかった。
26日。出勤が被った時にお互いつけていたマフラーとピアスを見て
「それ似合ってるね、誰からもらったの?」
なんてお互い言いながら笑い合っていた。一緒の上がり時間だったけどタバコ吸ってたから先に帰るねなんて言ったら、俺も帰るってまだ全然吸えそうなタバコの火を消して私の元に足速にくる君のトリコだった。
卒業
ついに私もバイトを卒業することになった。
専門だったせいで2年先にみんなより卒業。
悲しかった、バイトを辞めることよりもバイトを理由に君に会えなくなってしまうことが。
自己紹介記事でも書いた通り実は私病気持ちで3月中旬にから末にかけて高熱を出したため自分の送別会に参加できなかった。
そこから何も話すこともなく、気がつくと私は社会人。君は大学生で会うことはなかった。
それでもただ君が好きだった。いや、君との思い出が好きだった。
そんなこんなで私はここから特に君との思い出を作ることなく2年間君を思い続けるのだ。
悲しいくらい、進まない片想い。
時々飲み会があると、2人になったタイミングで元気?と、聞いてくるその些細な言葉がずっと私の心を離さなかった。
バイト先にいた後輩たちに君の近況を聞いて、君のインスタのストーリーをのぞいて、ただただ君が元気なことだけを祈った。
「ナナちゃんが元気ならそれでいいよ。」
たまに連絡をすると君はいつまでも私のことを少しだけど願ってくれていた。
思い上がりかもしれない。でもただ君の何気ない一言一言が全部好きで仕方なかったよ。
2年半、私の周りは彼氏と別れて新しい人と付き合ったり、同棲を始めてたり。
いろんな恋愛をしているのに、私はずっと立ち止まったままだった。でも後悔は全くしていない。
君のことを好きだったおかげで私はまた前に進めるからね。
この後のこと。
バイトを卒業して2年はだいぶ恋に落ちていた。
違う男の人とデートしたりお話はしてみたけど彼に勝る人がいるはずもなく、私は思い出に一年も恋をしていた。
遊んでみなよ、違う男を片っ端からなどいろんな人から言われたけど2年半、君に片想いしていたせいで遊んでいたら君に恋していた時間が汚れてしまう気がした。
次に付き合う人は、彼よりもいい人でありますように、と願いながらまた眠りにつくのだった。
その後の話は平凡だ。何回かご飯を食べて一緒に時を過ごした君と間反対の性格、日常を過ごす彼と、私は君を脳内に少しだけ残しながらまた明日も会おうとしている。