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麻薬に解ける数式〜鏡地獄の灯路〜。

-日暮れも夕暮れもなかった。歩き始めたのが昨日であったか、何十年の昔であったか、それも曖昧な感じであった-

『火星の運河』 江戸川乱歩



私たちは数式の美しさと、そこに潜む危険性をしばしば見逃してしまう。

数学は純粋な理論であり、現実世界から隔絶された抽象的な世界であると考える人もいる。

しかし、その数式が現実に投影されるとき、そこには深淵が待っている。

数式には魔力がある。

それは、混沌とした現実を整然とした秩序へと変換する力だ。

たとえば、微分方程式が現実の物理現象を予測し、確率論が未来の不確実性を制御する。

だが、この力は同時に、現実を麻薬のように解体し、虚無へと誘う。

ここで、ある単純な二次方程式を考えてみよう。

ax^2 + bx + c = 0


この方程式は、我々に解の公式を示す。

x = b^2-4ac


一見すると、この解の公式は、数学の教科書に載っている平凡なものだ。

だが、この公式が導き出す解が、負の値を持つとき、我々は実数の世界を超えて虚数の領域へと踏み込むことになる。

この虚数の世界は、まるで鏡地獄のように私たちを映し出す。

そこには、現実ではあり得ないが、数式の中では厳然と存在する何かが待っている。



虚数の導入は、数学の世界に新たな次元を切り開いた。しかし、それは同時に、現実からの逃避の可能性をも示唆する。

数式の中に没入することで、私たちは現実の厳しさから逃れることができるが、それは麻薬のように中毒性を持つ。

この麻薬は、現実を一瞬で忘れさせるが、同時にその依存は深い傷を残す。

私たちは、鏡地獄に迷い込むように、数式の世界に溺れていく。

そして、その先にあるのは、解けない謎、解明されない真理、そして、自己が消え去る瞬間かもしれない。



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