シェア
伊藤なむあひ
2015年10月12日 15:41
夜の闇に穴が空くんだ。みんなには見えないけど、わたしには見えるの。マンホールの蓋くらいの大きさのやつが。穴に入ってみよっかなって思うんだけど、いっつもつまさきだけ入れてみて引き返すんだ。その代わりに耽美を入れるの。そしたら穴は、満足したみたいに消える。わたしだけには見える #耽美
2015年10月12日 15:40
三丁目の空き地に僕の幽霊が出たらしい。昼休みに学校を抜け出して行ってみると確かに僕の幽霊だ。「やあ僕、3DSってやつ?やってみたいからたまに入れ替わってよ」そうして僕は土日だけ三丁目の空き地に立つことになった。お礼に、と幽霊がくれた耽美は砂糖水と唇の端を混ぜたような味 #耽美
海で背骨を拾った。なんの生き物の背骨かは分からなかったがわたしはそれを机のひきだしに隠しておいた。背骨。わたしはときおりそれを舐める、嗅ぐ、口に含むなどして楽しむ。けれどある日それは唐突に無くなってしまった。残ったのはひきだしの中の磯の香りと、代わりに置いてあった耽美。 #耽美
2015年10月12日 15:38
帰り道。誰もいなくなった中学校のグラウンドのすぐ横に、街灯が等間隔に並んでいた。はて、いつも歩いている道なのに普段は目に入っていないものなのだなと思っていたら光はチカチカ点滅し僕に話しかけてきた。カチカチ。カチカチ。『街灯だと思ったでしょ?』カチカチ。カチカチ。耽美だった。 #耽美
耽美を拾ってしまった。マンションの前で、震えながら僕を見上げる耽美は放っておけば今晩のうちにでも死んでしまいそうだったのでつい家にあげてしまったのだ。あたたかいミルクをあげながら耽美のしっぽを撫でると、思ったより低い声で「あ、そういうのじゃないんで」とそっけなく言われた。 #耽美