長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.9-②
~SKIERへのカウントダウン@A Live in KYOTO Night~
Vol.9-②
開場と同時に、私は並んだ行列二筋の流れに身を任せ、京都会館第二ホールのロビーへと押し込まれた。
まずホールの関係者入口近くのソファーに腰掛ける。いつもなら、アーティストのマネージャーかイベンター担当者を探し、プレゼントや手紙を確実に手渡してもらうためだった。
イクタ・ジョージからTAKUMIに担当が替わったのだろうか。今夜は既に顔見知りのスーツ姿イベンターを見つけてしまった。
半分ヤバイなと思い、半分は都合が好いかも、とも感じた。
行くか行くまいか迷ってから10日前に予約したチケットを、俯いて見つめる。意外にも、座席は前から3列目だ。キャンセル分なのか、既に人気が出始めているにもかかわらず、チケットの売れ行きが遅いのは〈TAKUMI〉は俳優として、先に名前が知られていたからだろう。
それでも、ロビーで人の群れを眺めていると、このキャパシティーが1000名余りのホールも、ほぼほぼ満席に成りそうだった。
ナカサンのチェックインされているホテルは判ってはいたが、直接会うよりもまず、ワン・クッション置いてからにしようと、決めていた。
10月の神戸の夜明けを過ごした後の、ナカサンの反応が気に成っていたし、でも恐いもの見たさのような気持ちも相まって、来てしまった。
どんな結果に落ち着こうとも、それに従う覚悟は出来ていた。
つまり、見向きもされない程振られる事も想定していたが、自分の気持ちをもう一度確かめたかったのだ。
好きとか嫌いになったとか、そんな男女の情を抜きにしても、繋がって行きたいのか。それとも好きに成り始めているのか、ただ落とし処をみつけたいのか、自分でも分からない。
行動に移してみないと、自分の心持さえ見えていない。それをクリアにしたいのだ。だから、不安も在るのに来なくっちゃいけない気がしていた。
思い切って、イベンター担当者の立っているデスクの側まで歩み寄った。
短いメッセージとナカサンの愛飲しているマルボロライトを届ける為。
『ナカサンが”おいで”と言ってくれはったLIVEに来ました。終わったらまた、会いましょう。』
と、だけ記した手紙をマルボロライトに添えて、両手でおずおず差し出す。
「あの、花隈さん。。。」
旧知の反応が観られたイベンター花隈さんは、ジッと私を見つめて尋ねる。
「ジョージさんから、今度は〈TAKUMI〉ですか?」
私は答える。
「いえ。ギタリストの中田さんにこれ、渡して欲しいのですけど」
イベンター花隈さんは、差し出した物と私をも一度見比べると、
「判りました」
とだけ、納得したように返事した。
あとは、ナカサンの反応を待つだけ。LIVEを楽しもう。
午後6時半を数分過ぎて、LIVEが始まった。
SEが流れる中、バックバンドのメンバー達が、それぞれの機材の位置に着く。ナカサンは向かって右端のドラムセットの前に立ち、ギタースタンドから『レスポール・サンバースト』を取り外して、ストラップを肩にかけた。
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