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連作ミステリ長編☆第1話「フェイドアウトのそのあとに」Vol.1

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〜2月24日 15:00

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
連作ミステリ長編☆「MUSEが微笑む時」
第1話「フェイドアウトのそのあとに」

○ ーーーーーーーー あらすじ ーーーーーーーーーーーーーーーー ○
  私立探偵小嶋雅哉は法律事務所書記担当を退職し、京都に戻り元裁判所所長の叔父政之との共同経営が軌道に乗り始めた頃、検察官中原麻衣子と出逢った。仲が定着し始めた晩秋、退所前の元恋人から極秘の依頼を受けた。
 組織的な音楽LIVEチケットの転売に、警察庁のトップが絡む疑惑を調べて欲しいとの依頼。他方で、巷の個人ネット販売による転売送検で停滞なく、麻衣子も忙殺されていた。警視庁と警察庁の相殺監視で、犯罪を未遂に留める動向の互いのトップに犯罪疑惑が被せられている。
 音楽を創る側、消費する側、違法を取り締まる側。各々の生活も絡み、最後に音楽の女神MUSEが微笑んだのは、誰の為なのか。。。


Vol.1‐①

 先程から、小嶋政也は桜の木の枝を見上げている。風に揺れる落葉した小枝には花びらなど無く、ただただずっと眺めている。
 上賀茂にかかる西賀茂橋の高架下では、白鷺が寒そうに羽をたたみ、おしどり夫婦の鴨がペア4組で優雅に泳いでいる。

 この夏は、子供連れの若い家族や学生カップルが、その橋の下で水遊びや日光浴や魚捕りを、思い思いに楽しんでいた。
 その前の春は、例年と同じく千年桜の吹雪が舞っていた。
 さくらんぼさえ、見届けられなかった。

 そして、もうすぐ冬が来る。

 トレンチ・コートに中打ち帽なんて、今時イングランド紳士でも身にまとわない。
 小嶋は、フィリップ・マーロウよろしく気取っていて、そんなに寒くもない内からトレンチ・コートを羽織る。そして、去って行った恋人でも想い出しているのか、せつなそうな表情はボギーのような渋味はまだ少なく、どこか甘いマスクなのを際立たせている。

「なぁにを、せつない哀愁漂わせてはるん⁉」
 
1メートル近いすぐ側で、今の恋人である中原麻衣子が、見上げて立っていることさえ気づかなかった。

 何も文句はない。よく働き、よく食べ、よく笑う、年下の恋人。だけど、検察官の貌は、小嶋さえ見たくはないような凄味が加わったのだそうだ。
 何かあったわけでもない。ただ、思い出しただけだ。昔の恋人のこと。

 その恋人と繋がるために、妻と別れた。だけど、両方を失った。娘二人の監護権と仕事だけが残っていた。親権は確保できなかった。料理ぐらいは出来るのだけど、思春期の女の子二人育てるのには、荷が勝ちすぎている。

 今も独り暮らし。また誰かと暮らすより、この気楽さと好き勝手に彼女を作れる自由を、選んだ。そして、麻衣子と出逢った。

 何が悲しいのか分からない。ただ、ものかなしい。けど温かい気持ち。
 そして、その元恋人とは、永遠の別れなどでは、ない。少なくとも、あの料亭に行けば、女将として生きている。

  どうしようもないオチ無し噺のように冴えない俺は、その昔の恋人からの連絡を受けた。そのうえ、仕事の依頼を受けてしまったのだ。
 相変わらず、カッコ悪い俺。でも、今眼の前に居る麻衣子の大笑いの笑顔が在れば、俺は生きて行けるのだ。

 と、小嶋雅哉はふと、ほくそ笑んだ。
 小嶋は、目尻を下げたしわくちゃな笑顔で、今の彼女麻衣子に向けて声をかける。
「麻衣子。パスタ食べに行こうよ」
「はぁ~い。あたし、ニョッキがいい!」
「ニョッキ❓❓」
「あのこんな、シェルのクリンとして丸いけど、平たいヤツ。ちいさなパスタ」
「マカロニみたいなヤツ❓」
「そうそう。マカロニみたいにチクワやなくってぇ、、、スパゲティみたいにクルクル巻き巻きするのとも、ちゃうヤツね!!」
「クルクル巻き巻き❓❓」
「あっ!ニョッキって、、、にょっき⁉」
 
ゼスチャーで、芽を出して伸びて行く竹の子のマネ。
「それ、想像したろ❓」
「Por que❓」
「行く que❓」 
「行こ que!」
「おいしいぞぉ」

 いつもの二人の言葉遊び。麻衣子はウンウン頷きながら手をつないで、川べりの散歩道を二人で歩く。彼女は、腕を組むより手をつないで居たがる。    腰に手をまわすよりも俺達らしいが、はてさて誰だったかも同じだったかな、、、誰だったか❓

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