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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.10‐③

~歩き出したスキーヤー@A Brand-new World in the SNOW~


Vol.10‐②

 ひとしきり〈総合滑降〉種目のレイアウトを試行錯誤して、気がつくと、白馬三山が濃いオレンジ色に染まり、グラデーション・グレーの雲が西へと、速く流れ始めていた。

 今晩も、降るかな。そろそろ切り上げるか。。。

 兎平ゲレンデの右端から、リーゼンスラローム・コースで一般客の流れを掻いくぐって流し、一番麓の名木山ゲレンデまで降りて来た。
 そのままスキースクール・センター建物手前まで、最後の調整。

 スキー板を脱いで、ブーツセンター周りの付着した湿雪を払い退け、右肩に担ぐ。ストックをまとめて左手に持ち、そのままスクール建物玄関まで歩く。低地の茶色に変色した雪は重いめだが、ブーツの足取りは、軽い。
 板をラックに立て掛け、ストックをフックに引っ掛けると、ロビーに在る総合受付で、事務の亜紀に声かけようとした。
 〈オギツカ〉のスタッフジャンパーをまとった見慣れない男性が、副校長に挨拶をしているところだった。

 副校長に目礼して、スクールのインストラクター詰所へ入って行く。
 控えている人達は皆、長野県体育協会に所属しているメンバーばかりだ。明日からの指導員研修会に備えて、挨拶がてら集まっているのらしかった。メーカー担当者の姿も、〈YAMAHA〉や〈NISHIZAWA〉など。〈KAZAMA〉は本拠地が新潟県だからか、旧知の担当者は居なかった。
 私は『お疲れ様です』と元気よく声かけて、そのくせ隣の乾燥室へそそくさと逃げ込んだ。

 うっへぇえ~、歴代デモンストレーターだらけ!!

 目を丸くギョロギョロしたままスキーブーツ・ラックまで進むと、別の旅館で居候している先輩インストラクターが、チューンナップをやっている最中だった。スクレーパーから削れ落ちたワックスの塊を注意深く避けながら、自分の出番は諦めて先輩に話しかける。

「お疲れ様でぇす。ウジャウジャ居ますねぇ、あっち」
「ああ。俺も居場所ねえから、こっち来た」
「指導員研修会が終わったらスクールに出勤しますって、伝えに来たんですけど、教育部長に話出来る間も無さそうですね」
「『やざわ』は本部の宿なんだろ?」
「そうです。だから朝食用の買い出しとか、準備につき合わなくっちゃ、なんです」
「俺が橋本部長に伝えといてやるよ。早く宿に戻った方が良い」
「お願いしますっ!じゃ先輩、16日から宜しく」
「おお。」

 乾燥室の別の出入り口から、スクール・センター建物の屋外へ出る。
 空を見上げると、細かな粉雪が疎らに降り始めていた。

 マテリアルを仮置きした場所まで、戻ろうとした。
 ふと、遠目に誰かが私の板を、しげしげと見つめているのが判った。さっきの〈オギツカ〉スタッフのジャケットを着た男性だ。

 なんで〈オギツカ〉のメーカーさんが、私の〈KAZAMA〉の板を観察するんや。。。❓

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