長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.9-③
~SKIERへのカウントダウン@ A Live in KYOTO Night ~
Vol.9‐③
19曲を歌い終えたTAKUMIは、最後の1曲を演る前に、メンバー紹介を始める。
「いやあ、、、今日は冴えまくってますねえ、バンマス。特に今夜は格別。
うちのバンマス、ギタリストの中田修!」
続いて次々にバンドメンバーの名前を告げて行く。
TAKUMIは一息ついて、最後のMCを始める。
「僕は去年までは、300人クラスのライヴハウスで地道に活動してました。京都だと、ビブレホールかな。50人くらいしか入らなくって、寂しい思いをしたけどね。TVドラマに出演したせいか、今日はこんなにたくさん集まってくださって、ホントに嬉しいです。ありがとう。
最近思ってる事ってのは、【夢を持ち続ける】って大事な事だなって。
夢って必ず叶うんだって。
僕の十代からの夢は、こうしてステージに立って一人でも多くのお客さんに、僕の歌を聴いてもらう事でした。夢を持ち続けるって事は、時には厳しい現実に直面して自分の至らなさを感じたりして、とっても難しいです。
けれど。諦めないで、こうして活動を続けていれば、いつかは他人が認めてくれるんだ。辿り着いた先には、最初に思い描いてたのとは違った世界が在るかもしれない。けど、そのプロセスを大切にして、今現在を真摯に生きていれば気づいたらもう、夢は叶っているんだ。
それを今、ものすっごく実感しています。
僕みたいに諦めの悪い奴こそが、最後には勝つんだって。そう感じているんです。あなたにも夢や憧れがあるのなら、その自分を信じ通してあげてください。最初の志のすぐ近くまで必ず届くから、諦めないで自分を信じてあげてください」
それまで軽快なMCをはさんで来たTAKUMIだったが、今、妙に【マジ】になって一生懸命に力説している。
ドラマの役柄のイメージで、これまで一生懸命に成る事が似合わない『斜に構えたキャラクター』に映っていたが、今夜のTAKUMIは、そのひたむきな真摯さがとても爽やかだ。
アンコールで再びステージに出て来たTAKUMIは、マイクを持って中央から左寄り、つまり私の真ん前辺りを指差した。
「この辺り、すっごくノリが好いよ、今夜。ィヤ嬉しいよ。
逢えて良かった。逢いたかった人にようやく逢えた気がします」
アンコール3曲、Wアンコール1曲と、すべて23曲を歌い終えたTAKUMIは、最後に告げる。
「今夜は好い夜でした。素敵な出逢いをありがとう。
また逢える事を願ってます!」
そして少し俯いて、私の顔を一瞬だけジッと見つめ、VeryGood サインを私に向けて送った。
バンドメンバー達がステージを去る時、ナカサンは右裾へ向かいながら私を振り向いた。その口元が『あ・と・で』と、動いた気がした。
重たくて分厚いホールの扉を押し開けて、私はイチ早くロビーに出て来た。喫煙エリアにゆっくりと向かい、人の排出される流れが落ち着くまで、ブースの中で過ごす。
大晦日のカウントダウンLIVEは、第1ホールも別館も行われていて、中庭の広場はごった返している。
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