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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.6‐④
~雪降る前のスキーヤー@Halloween過ぎた神戸~
Vol.6‐④
ベッドから身体を起こし、ナカサンは私の横に並んで座る。首を数回廻してから、尋ねる。
「ジョージさんのライヴが無いと、寂しいんでしょ❓」
「ん、、、でも歌が好きなだけやから。。。」
努めて陽気に答えた。ナカサンはじっと私を見つめて繰り返し、訊く。
「ホントは寂しいんでしょ❓」
「、、、寂しい、かも」
素直な気持ち。誰にだって伝えた事ない言葉。
言ってしまってから、おそるおそるナカサンを視た。スタンドの灯りの方を焦点合わない眼差しで見ながら、彼は首をコキッと言わせ、肩に手を置き自分でほぐしている。
変なヒト。
私はイタズラを思いついた子供のようにはしゃいで、云う。
「肩を、マッサージしてあげよっか❓」
一瞬手を止めてから、ナカサンは頷き笑顔を見せた。
ベッドに上がり彼の背中に向かうと、私はさっそく両手でリズミカルにほぐし始めた。
ツボを押さえるのは得意だ。肩をもんであげる事が唯一の父親とのスキンシップだったから。
「うわっ、こってるこってる。オジサァン、相当こってるよ」
「そんなに⁉職業病かなぁ❓」
「そうなの❓」
「おう。肩はこるし、腕は張るし、指引きじゃ爪も割れる。
ステージ前にミイラみたいに腕にテーピングするんだよ」
「ホント❓腱鞘炎(けんしょうえん)なの❓ひきつったカオで弦が切れた時は分かったけどね。そっか、腕が張ってしまうからなんや」
「おう。カッコ悪いけど」
「それでいつも長袖着てたのかぁ。。。」
「だって見せるもんじゃないよ、テーピングは」
「そっねっ!私も部活ん時のテーピングは恥ずかしかったもん」
「スキー部❓」
「ちがう。チビ子のバスケ。ちょこまかちょこまか黒子に徹していつの間にかシュート決めてる奴」
「ハハッ、黒子のバスケか♪」
両肩の次は背中の指圧。首筋もマッサージ。他人に自分から何かをすすんでしてあげるのは、久しぶり。ましてや、喜んでもらえて嬉しく成るのは珍しいのだ。
「上手いねぇ。気持ち好いよ」
「そう❓ありがと。私父親にしかしてあげた事ないよ、こんな事」
「、、、光栄だね」
そう。父親にしか肩のマッサージなんてしてあげた事はない。なんでこんな事、喜んでしているのだろう。。。すんなりと自然に。
「こんなに気持ち好いんなら、ジョージさんとこ居た時もしてもらうんだったのに」
「ホントね」
「あっそこそこ」
「、、、うちの父親って、ホントに家に居なかったけど、たまに居たらいつもこうやって、マッサージさせられてた」
「なるほど」
「、、、ホントに全然家に居ない人やったなぁ」
ナカサンは少し顔を上げてから、応える。
「まるで、ミュージシャンみたいやね。。。」
一瞬、両手が止まった。
「ホンマやねぇ!ミュージシャンみたい」
私は笑いながらまた、両手を動かし始めた。が、動揺を抑えられなかった。ナカサンはいちいち、重い言霊を投げかける。淡々として。
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