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4.忘れたくないから。

公園へ

2時間のカラオケが終わり、もう別れの時間だった。
彼が家に帰るバスまで40分ほど時間があった。
近くの公園を回り、バス停へ向かって歩く。
僕は相変わらず、彼を見て「かわいいな」と思う。

彼は、時よりスマホを見る。
僕と違って、彼は遊びやご飯に誘ってくれる友達がたくさんいるようで、
その友達と会話しているのだろう。
事後も、食事中も、カラオケ中もスマホをいじっている彼を見て、
僕は少し悲しく、寂しい気持ちになった。
はじめはカラダだけの関係だったのに、今では彼が愛おしくてたまらない。
でも、彼は割り切っているようだった。この温度差がつらかった。

公園で一人ブランコに乗る僕を見て、楽しそうだねとほほ笑む彼。
彼の中では、僕は大人数いる相手の内の一人でしかなかったのだろう。
それならそうと言葉で言ってくれればいいのに、彼は僕が傷つかないように気を使って、本当の顔を見せてくれない。

時折、「喘いで欲してる瞬間が一番かわいかった」などとえっちなことを話しながらバス停へ向かう。
僕は、おじさんみたいなことを連発するから
傍から見たら僕たちは、援交しているおじさんと女の子のようだったろう。

バス停に向かう前に、駅を通り抜けする必要がある。昨日、初めて出会った駅だ。その手前で、サングラスをかけている男性を見て、彼は「かっこいい」という。僕は「だったら、話しかければいいじゃん」と返す。
彼は少しだまり、いつものような会話が始まる。
ここら辺が、彼の男を沼らせる性格だと思ったし、別れたくないと感じた。

彼が駅のトイレへ行っている間に、僕はベンチに腰掛ける。
となりのベンチには、学生がいたが、すぐにどこかへ行った。
駅のベンチからは、夕日に照らされた線路と町が見える。
熱いくらいの日差しに照らされながら、僕はうたた寝する。
(ホテルではほぼ睡眠がとれなかったほど…)
10分ほどして、彼が戻ってきて、僕の席に一個空けて座る。
人目がある中、僕が「こっちに来ないの?」と聞くと彼は「来てほしい?」と笑顔でこっちを見てくる。こいつは、本当に人を沼らせる性格をしているなと思いつつ。「別にいいよ」と返事を返す。

別れの時

ベンチでの団らん後に、駅を出て歩き始めてついに
バス停に到着してしまった。
彼のバスは、14時20分発で、僕は14時25分発のバスで帰る。
14時15分頃で、バス停の前に二人でしゃがんで、彼のバスを待つ。

彼の顔は、いつものようにかわいかった。美しかった。
僕が「かわいい」というと彼は「かわいいって言ってばかりだとモテないよ ~」と返事する。

この何気ない会話が、何事にも代えがたい幸せな瞬間だった。

いつものように会話をしていると、バスが来た。
僕は、彼に手を振る。彼も僕に手を振る。
不思議とそんなに寂しさはなかった。
これで終わりなんだな~と思い、僕は、自分の帰るバス停へ向かう。

5分後、バスが来て、バスに乗る。
僕は、イヤホンを耳に着け、amazarashiの「ロストボーイズ」を聞きながら、寂しさをごまかす。

脚の筋肉痛が、彼との思い出を鮮明に映し出していた。

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