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太陽に出会った日


 幼い時、ちょうど児童書から背伸びをして一般文芸を読み始めた頃、文章の中に出てきたまだ知らない単語は、前後の言葉から「こんな意味かな?」と想像しながら読み進めていた。あの時出会った言葉たちは、器だったように思う。
 意味という中身の入っていない空っぽの器。そこに自分で予想した意味を入れて、そして後でその本当の意味を知って上から注ぎ足して、初めてその言葉の器が完成する。だとしたら、私が「愛」という言葉の器を本当の意味で完成させることができたのは、きっと彼らに出会ってからだと思う。



 2022年は私にとって転機の年だった。
 3月に転勤の辞令が出て、あれよあれよという間にその2週間後には引っ越しをし、大学卒業以来初めての一人暮らしをスタートさせることになった。もともと大学進学で一度県外に出たものの、やっぱり地元がいいと思って卒業後Uターンで就職し実家に戻っていたので、まさかもう一度県外に行くことになるとは夢にも思っていなくて、青天の霹靂とはこのことかと思ったのをよく覚えている。
 大学在学中の一人暮らしはホームシックが酷くてかなり悩まされたので、今回は大丈夫かなと引っ越し前は心配していたものの、いざ始まってみれば、引っ越しの片付けと仕事、日々の家事で寂しさを感じる暇もないほど慌ただしく、あっという間に4月が終わり5月が終わり、気がつけば転勤後初めての夏を迎えていた。



 推しているグループのライブビューイングに一緒に行きませんか?

 あるフォロワーさんからのそのお誘いをもらったのは、ちょうどそんな夏のはじめのことだった。
 それまで私は、生身の三次元のアイドルから二次元のアイドルまで、男女さまざまなアイドルが好きだったものの、それはすべて日本国内の話で、いきなり他国の、知っている曲も全くないアイドルのライブビューイングに行って楽しめるのだろうか、と話をもらってすぐは思った。けれど、前に会った時に、フォロワーさんがとても楽しそうにその推しのグループのお話をしていたのがすごく印象的で、不安よりももっと知りたい気持ちが勝って、ドキドキしながらも行ってみることに決めた。



 8月21日。忘れもしないその日、私は梅田の映画館でフォロワーさんと一緒にいた。
 上映開始が間近に迫った映画館のロビーは、大勢のファンで賑わっていた。フォロワーさんから、そのグループのファンのことをCARATと呼ぶのだということを教えてもらいながら、上映されるシアターの中に入る。席に座って始まるまでの間、フォロワーさんが持って来ていたペンライトを見せてもらった。

 魔法少女のステッキみたい。

 バッグから出てきたペンライトを見た瞬間、そう思った。
 持ち手のところは角度によって色がピンクや水色に変わって、その先にはラメが散りばめられた透明のドームが被せられていた。そして、そのドームの中には、水色の大きなダイヤモンドが閉じ込められていて、スイッチを押すとそのダイヤモンドが光り輝くようになっていた。
 かわいいと綺麗のかけらを丁寧に一つひとつ集めて、ギュッと形にしたようなそれは、見慣れた映画館の中で魔法のように輝いていて、こんなに綺麗なグッズが世界にはあるのかと驚いたのを今でも鮮明に覚えている。

 ペンライトのあまりのかわいさに感動しているうちにあっという間に時間は経ち、気づけば上映開始の時間を迎えていた。
 普段、映画が始まる時のようにシアターの中が暗くなっていく。いよいよ始まる。そう思うと、緊張が否が応でも大きくなっていくのを感じた。大丈夫かな。楽しめるかな。周りの空気に置いていかれないかな。そんな不安と期待が渦巻く中、目の前の大きなスクリーンに映し出されたのは、大きな太陽だった。
 暗いステージの上には、黒く赤い太陽が昇っていた。炎のように赤く光る太陽は実際に昼間見る太陽とは全然違っていて、けれどその分よりたっぷりと力強さと人を惹きつける引力に溢れていて、目を離すことができなかった。
 体の芯から揺り動かすような重低音とともに、ステージの上に並んだすらりとした長い人影がゆっくりとこちらを振り返る。多いな!?と思ったのと同時に、暗闇を切り裂くような歌声が弾けて、一瞬でステージ全体にスポットライトが当たった。やっぱり多い……!!と改めてその人数の多さに驚いている間に、ステージの上では綺麗でかっこいいアイドルくんたちが、一糸乱れぬパフォーマンスを繰り広げ始める。そこからの時間はあまりにも怒涛の勢いで過ぎて、けれどあまりにも濃密で、一瞬のような永遠のような不思議な時間だった。

 あの時の感動を残しておきたくて、けれど書けば書くほど本当に感じたこと、思ったことからは離れていくような気がして、気づけばこのnoteを書き始めてからびっくりするほどの時間が経っていた(たしか書き始めたのは去年の夏だった気がする)。何度も書いて何度も消して、また何度も書いて……そうやって繰り返していたので、もうもはや感情を濾過しすぎて補正がかかってしまっているのでは……?とも思わなくもないのだけれど、でもそうしたくなるぐらい、あの時間は私にとってかけがえのない宝物のような時間だった。
 知っている曲なんてひとつもない、なんて歌っているのかもわからない。そもそもメンバーの名前すらわからない。そんな、ないない尽くしの状態だったけれど、スクリーンに映った、時差14時間の遠い異国の地で歌い、踊り、笑い、はしゃぐ彼らはあまりにも眩しくて、瞬きをするのすら惜しくて、一瞬たりとも目を離すことができなかった(今思えば、韓国のアイドルなのに初めて見たのがアメリカの公演というのも何だか不思議だなあと思う)。
 パフォーマンス中は、機械ですか!?と思ってしまうぐらい13人全員がぴたりと揃った見事なキレのあるダンスと、曲に合わせて印象の全く変わる綺麗な歌声、どこを切り取っても絵になる計算されつくした表情で圧倒されてしまうのに、いざMCやアンコールの時間が始まると、メンバー同士でわちゃわちゃして騒がしいくらいとってもよく笑って、ステージの上を走り回って飛び跳ねてする姿が可愛くて、本当に同一人物なんだろうかと思ってしまうぐらいのギャップに、映画館を出る頃にはすっかり彼らのことが気になって堪らなくなっていた。

 無事にライブビューイングを終え、少し遅めのお昼ご飯を食べながら、フォロワーさんから彼らのことを少しずつ教えてもらった。
 グループの中に3つのチームがあること。SEVENTEENというグループ名は、13人のメンバーと3つのチームが集まって1つのグループになるからなこと。2015年にデビューしたこと。日本でも盛んに活動してくれていて、日本語の曲もたくさん出してくれていること。
 そうやって少しずつ知識が増えていく中でふと、どの子が気になりましたか?とフォロワーさんが聞いてくれた。
 どの子だろう。そう思った瞬間、ぱっと頭の中に1人のメンバーが浮かんだ。チーム別で歌っていた時の青い衣装がとってもよく似合っていた、ぷっくりとした涙袋が目を引く、バンビちゃんみたいな可愛くて綺麗な人。メンバーが喋っている時、話す人の方を毎回しっかり見るから、きょろきょろ首が一番忙しそうに動いていた人。アンコールの時、ヘアバンドを付けているのが夏のスポーツ少年みたいで愛らしかった人。ぱっちりした目が笑うとしゅーっと細くなって、とっても優しい笑顔を見せる人。思いつく情報を伝えて、フォロワーさんから名前を教えてもらった。耳慣れない異国の名前は、なのに不思議と一度でしっかりと覚えられて、その時生まれて初めて外国の推しができた。


 それからは、暇があれば(なくても頑張って作って)彼らのコンテンツに触れる毎日だった。驚いたことにYouTubeには、フルサイズのMVどころか音楽番組のパフォーマンス、彼らが自分たちで作っているバラエティコンテンツや、ライブや日常、仕事中の裏側を撮影したVlogなど多種多様なコンテンツがアップされていて、「本当にこれが無料でいいんですか!?」と心配になってしまうほどだった。私が出会った時点ですでに8年目のアイドルだった彼らには、全部見ることなんてできないんじゃないかと思うほどたくさんのコンテンツがあって、その海のように広がるコンテンツたちを思うたび、これまでの彼らを知らずにいたことへの少しの悔しさと、今出会えたことへのたくさんの喜びでいっぱいになった。

 そうして見れば見るほど、聴けば聴くほど、知れば知るほど、どんどん彼らのことが好きになった私は、生まれて初めてファンクラブに入会した。ライブビューイングから1週間と少しが経った夏の終わり、8月31日のことだった。
 慣れないことばかりで、一体どこから申し込めばいいのか、会費はどこから払えばいいのか、一つひとつ確認しながら登録を進めて、無事会員番号が発行された時の喜びを今でも覚えている。これで自分もCARATだ。そう思うと嬉しくて堪らなくて、スマホを片手に小躍りしたくなった。メンバーたちが心底愛おしそうに「CARATちゃん」と呼ぶ先に自分もいるのだと思うと、気恥ずかしいような嬉しいようなくすぐったい気持ちになったし、そう呼ばれるに足る自分でいようと背筋が伸びる思いがした。いつか、「この人たちが私の好きなアイドルです」そう誰かに言った時、こんなに素敵な人が好きなグループってどんなグループなんだろう、そう思ってもらえるような人になりたい。それが私の夢のひとつになった。


 私が見たライブビューイングは、彼らのワールドツアー中の公演のひとつで、実は日本でもツアーが開催されることをフォロワーさんから教えてもらった。ちょうどそれは彼らの初めてのドームツアーで、11月19日の京セラドームから始まり、東京ドーム、バンテリンドームで行われ、今からでもまだ応募するチャンスはある。そのことを知った私は、ぜひ行きたい!と思って申し込むことに決めた。まだ好きになって間もないのに、念願のドーム公演にこんな新参者がお邪魔してもいいのだろうかと悩む気持ちもあったけれど、それよりもスクリーン越しに見たあのステージを生で見たい、あの全身が震えるほどの熱気を体感したいと思う気持ちが勝った。周りにアイドルを好きな友人がいなくて、一人で行くのは怖くて今までアイドルのライブには行ったことがなかったけれど、今回は大好きなフォロワーさんと一緒に行ける。そう思うととっても心強くて楽しみで、どうしても当たりたい気持ちがますます大きくなった。
 この時点で残っていた応募のチャンスは、携帯会員の指定席先行受付と、ファンクラブ・携帯会員それぞれの注釈付き指定席の受付だった。残念ながら指定席の先行には落選してしまったけれど、幸いにもファンクラブの注釈付き指定席で見事当選することができた。それも、ドームツアー全体を通しての初日である、11月19日の京セラドームに。


 待ちに待ったライブ当日、朝4時半に起きて会場へと向かった。というのも、コロナがあってから2年半ぶりに開催される日本のライブツアーの初日ということもあり、グッズの物販がかなり争奪戦になるという噂を聞きつけたからだった。この時私はまだペンライトが入手できていない状態で、何としてでもペンライトだけでも手に入れたい……!!と思って、7時前には会場に着くように出発した。

 初めて間近で見る京セラドームは、想像よりずっと大きかった。ドームの周りにはメンバーの顔写真をプリントしたフラッグが飾り付けられていて、話だけで聞いていたそれを実際に自分の目で見た感動で胸がいっぱいになった。それと同時に、早朝にもかかわらず列をなす大勢の人に驚いた。並びすぎて、もはやどこが列の最初で、どこにグッズ売り場があるのかすらわからない状態に、とりあえず列の最後尾らしきところに並ぶ。こんなに多いものなのかと慄きつつフォロワーさんと話をしながら並んでいると、時間が経つにつれ後ろにも次々人が増えていった。
 そうは言っても2時間くらいで買えるだろうなんて思いながら、何を買おうかグッズ一覧の画像と睨めっこをする。これまで田舎に住んでいた私にとって、ライブは夢のまた夢、自分とは縁のない場所だと思っていたので、今までライブグッズを真剣に見たことはなかった。見てもどうせ行けないし。買えないし。ずっとそう思っていたけれど、今は何だって買える!と思うと、何を買うか悩む時間すら楽しくて、ライブって始まる前からこんなに楽しいものなのかと思った。

 さすがに2時間くらいで買えるだろうなんて予想は甘々すぎるほど列は長く、最終的にグッズが買えたのは並び始めてから4時間が経った時のことだった。USJでもこんなに並んだことないんですが!?と途中から思い始めたし、ちょうど待機列がドームで影になるところだったのでびっくりするぐらい寒かったけれど、欲しかったグッズが無事に買えた時はあまりに嬉しくて、疲れも寒さもどこかに吹き飛んでしまった。
 ペンライトにうちわ、トレーディングカードにピンバッジ。どれも生まれて初めて手にするものばかりで、その一つひとつが愛おしくて宝物に思えてならなかった。特に念願のペンライトは箱からしてとっても豪華で、銀色で箔押しされた「SEVENTEEN」の文字も、傾きに合わせて輝く虹色の表面も驚くほど綺麗で、開ける前からわくわくが止まらなかった。

 無事にグッズを手に入れた後は、梅田に戻りお昼ご飯を食べた。そしてその足でヨドバシカメラで双眼鏡を買い、またドームへと戻った。
 開場が始まったドームの周辺は、たくさんの人で溢れかえっていた。ここにいる一人ひとりがCARATちゃんなんだ。これから一緒にライブを見に行くんだ。そう思うと嬉しくて、一緒に思いっきり楽しみましょうね!と心の中で声をかけたくなった。
 全く勝手がわからない私は、フォロワーさんに案内されるまま指定されているゲートに並び、手荷物検査を受け、チケットを見せてドームの中へと入った。KPOPのライブではスローガンイベントと呼ばれるものがあって、ファンから募集したメンバーへのメッセージが印刷されたフェイスタオルぐらいの大きさの厚紙が入場口で配られ、それをアンコールの時にステージに向かって広げ、メンバーに見せるのだけれど、あの日受け取ったスローガンの言葉を、今でも一言一句違わず覚えている。



 私たちは今日世界で一番幸せな物語の主人公



 客席についてほっと一息ついて、やっとスローガンを広げその言葉を目にした時の、嬉しくて、幸せで、あまりに幸せすぎて泣きたくなるくらいの感情が、あの日からずっと心の奥に焼きついている。好きなアイドルのライブに行く。誰かにとっては簡単で、ごく当たり前のことかもしれないけれど、私にとってはひどく遠くて、夢のまた夢だったこと。それが今こうして叶えられている。それもドームで。そう思うと、まだライブが始まってもいないのに、終わってほしくないなと思った。いっそのこと始まらなかったらいいのに。そうしたらずっと終わらないのに。なんて本末転倒なことを思ってしまうぐらい、今こうしてドームの席に座れていること自体が幸せで堪らなかった。

 モニターに流れていたMVが最新曲に変わる。いよいよだ。そう思うと、自分がステージに立つわけでもないのに緊張がどんどん大きくなった。公開される瞬間を初めてリアルタイムで見た、初めて発売当日に買って聴いた大事な、大好きな特別な曲。その最後の一音がドームに響いて、何度も繰り返し見たMVの映像が終わる。次々立ち上がり始める周りに合わせて自分も立ち上がった時、あの夏の日耳にした、体の芯から揺り動かすような重低音が響き出した。
 まだこの時はコロナが収束しきってはいない頃で、ライブ中もマスク着用・声出し禁止が義務付けられていた。それでも、ステージの上にメンバーの姿が見えた時、抑えきれなかった歓声があちこちから漏れ聞こえてきた。ステージの上でスポットライトを浴びる13人は、こんなに眩しい存在がこの世にいるのかと思うほど輝いていて、世界中の綺麗なもの、光るものを全部集めて、今この空間にぎゅっと閉じ込めたみたいだと思った。
 夢みたい。楽しい。幸せ。ライブの間中、ずっとそんなことばかり思っていた。もちろん、かっこいいも可愛いも綺麗もたくさんたくさん思ったけれど、ずっと絶えることなく心の一番前にいた感情はそれだった。
 大好きだよ。楽しいよ。ありがとう。その気持ちを伝えたくて、声が出せない代わりに思いっきり手を叩いた(叩きすぎて、終わってから見ると青あざができていたくらい)。ライブでペンライトが灯っている光景をよく「光の海」と表現するけれど、この日、生まれて初めて肉眼で見た光の海は、綺麗なんて言葉では到底足りないほど綺麗で、その海の一部に自分がいると思うと嬉しくて堪らなかった。曲に合わせ、瞬く間に色鮮やかに変わる光の海を、それを眩しそうに見つめるメンバーの姿を、きっとこの先、生涯忘れないだろうと思う。




 思えば、彼らに出会ってから、たくさんの初めてをもらった。


 初めて、誰かと一緒にライブビューイングに行った。
 初めて、韓国のアイドルのCDを買った。
 初めて、トレーディングカードの存在を知った。
 初めて、韓国のアイドルグループのメンバー全員の名前を覚えた。
 初めて、ファンクラブに入った。
 初めて、ライブの抽選に申し込んだ。
 初めて、チケットの発券をした。
 初めて、CDで全形態を買った。
 初めて、京セラドームに行った。
 初めて、ライブのグッズ列に並んだ。
 初めて、ペンライトを振った。
 初めて、推しのうちわを持った。
 初めて、喋りすぎて終電を逃しそうになった。
 初めて、一人で新幹線に乗った。
 初めて、仕事以外で東京に行った。
 初めて、東京ドームに行った。
 初めて、推しのお誕生日のお祝いをした。
 初めて、掛け声の練習をした。
 初めて、13人の名前を5秒でコールできることを知った。
 初めて、ファンミーティングに行った。
 初めて、ライブで声を出した。
 初めて、機材開放席を勝ち取った。
 初めて、名古屋に行った。
 初めて、バンテリンドームに行った。
 初めて、ライブでたまたま隣になった人と話をした。
 初めて、韓国語のテキストを買った。
 初めて、ハングルを覚えた。
 初めて、自分から外国語を勉強しようとした。


 書き出せばきりがないくらいの初めてが、出会ってから1年半と少しの間に、たくさん私の日常に降り注いでくれた。きっと彼らに出会わなければ私は、自分が一人でライブに行けることも旅行に行けることも知らなかったし、全く歌詞のわからない外国の歌がこんなにも胸を震わせることにも気づけなかった。ペンライトの海があんなにも綺麗なことも、大好きな人たちの名前を大声で呼ぶ喜びも、溢れんばかりの拍手を送る嬉しさも知らなかった。誰かの話す言葉をわかりたいと思うことも、わかろうと努力することもなかった。彼らに出会わなければ知らなかったことが、見られなかった景色が、感じられなかった思いがたくさんある。
 熱しやすく冷めやすい私は、すぐに何にでも興味を持ってやってみるタイプなので、きっともし彼らに出会わなかったとしても、何か別の楽しみを見つけて、楽しい人生を送れたんだろうなとは思う。それでも、彼らに出会えた人生でよかった、そう手放しで心から思う。自分に嫌いなところもたくさんあるし、何でこうなんだろう、何でもっと上手くやれないんだろう、と何もかも嫌になることもある。辛かったこと、悲しかったことだってたくさんあって、これまでの日々が全部花丸満点だなんて到底思えない。だけど、もしも何か一つ、少しでも違っていれば今の自分にはなれていないのなら、もう一度おんなじ道を辿って、ここにいる自分になる方を選ぶ。そして、また彼らを好きになって、CARATになりたい。先のことはわからないから、これから先もずっと好きなんてことは言えないけれど、少なくとも今のこの気持ちだけは混じり気なく本当で、私の中の一番大きな愛だ。



 こんなに好きになる予定じゃなかったんですけどね。
 フォロワーさんと会った時に、よくそんなことを話す。
 本当にこんなに好きになる予定じゃ全然なかった。フォロワーさんがそんなに好きなら私も気になるなあ。ライブビューイングに行ったのもそんな軽い気持ちで、前知識なんてほとんどなかった(今考えると申し訳なかったと思う)。なのに、本当にまさかで、自分でも自分にびっくりしている。びっくりしているからこそ、「なんでこんなに好きなんだろう」とよく考える。でも、考えても考えても、しっくりくる、はっきりとした答えにはいつも辿り着けなくて、まあ好きはどうやったって好きだもんね!よしよし今日も好きだったな!なんて納得させて終わる。

 たぶん、ここが好きとあげるのは簡単なような気がする。
 13人全員がびっくりするくらい仲が良いところ。自主制作アイドルであることに誇りを持っているところ。どんなに大変で忙しくても、パフォーマンスに一切妥協しないところ。謙虚で驕ることを知らなくて、どんなに大きな賞を受賞しても、真っ先にCARATのおかげと言ってくれるところ。ファンよりも彼ら自身が一番楽しんでるんじゃないかと思うくらい、ライブのたびに心底楽しそうに眩しい笑顔で笑ってくれるところ。客席の端の端、上の上まで気を配って、誰のことも置いていかないところ。毎回アルバムを出すたびに、こちらの期待を何倍も超えてくれるところ。ファン一人ひとりにそれぞれの生活があって、人生があることをわかっていて、いつも心を寄せてくれるところ。どんなことも当たり前にせず、たくさん感謝を伝えてくれるところ。言葉を惜しまないところ。誰よりもメンバー自身が13人であることにこだわっているところ。
 すぐにぱっと思いつくだけ書いてみてもこれだけあって、もっと細かく、時間をかけて書き出せばどこまでだって続いていくと思う。でも、どれだけ言葉を重ねても、たくさん書き連ねても、結局自分の中にある好きを全部形にすることはできない気がする。それがもどかしくもあり、けれど同時に嬉しくもある。言葉にできないということは誰にも伝えられないということで、でもそれは翻せば、自分の中にしかないということだ。

 ここが好きと言うことは、私にとって少し怖いことでもある。言葉にしてしまえば、そこから少しでも外れてしまうことを許せなくなってしまうような、彼らをそこに縛り付けてしまうような、そんな気がしてしまう(ただの一ファンにそんな力なんてないとわかってはいるけれど)。だけど、ここが好きということはそうあって欲しい、変わらないで欲しいということではなくて、もしもたとえ変わってしまったとしても、その変わるまでの過程や日々も姿も全部含めて丸ごと愛しくなるのだろうなと思う。そうやってこれから先、数え切れないくらいの日々を積み重ねて、どんどん進んでいく彼らの姿をずっと見続けていたい。



 気がつけば初めての夏が終わり、初めての秋がきて、冬がきて、春がきた。そうして2回目の夏がきて、秋がきて、冬がきて、今もうじき、2回目の春が終わろうとしている。
 1年目はどの季節も初めて彼らと迎える季節ばかりでとっても楽しかったけれど、同時に長くから応援している他の人たちのように共有できる思い出がなくて少し寂しくもあった。けれど今は、あの夏はこうだったね、秋はああだったね、そう振り返られる思い出があることが堪らなく嬉しい。

 これからまた、3回目の夏がくる。その先には3回目の秋がきて、冬がきて、春がきて、その次はまた4回目の夏がくるだろう。そうやって何度も何度も季節を重ねて、数え切れないくらいの思い出をたくさん残していきたい。




 あの夏の日出会った、大切な、世界で一番眩しい太陽たち。

 アイドルになってくれて、アイドルの道を選び続けてくれてありがとう。KPOPに縁のなかった、住んでいる国も違う、こんな田舎の私のところにまで届くほど、眩しく輝いてくれてありがとう。出会ってくれて、私の毎日にたくさん色をつけてくれてありがとう。

 あなたたちがその花道を駆け抜けきるその日まで、どうかどこまでも一緒に歩ませてください。