Want to seek life
1LDKのマンションの一室のベットルームで一組の男女が互いを求めあっている。このマンションは女性の方が所有するマンションだった。
情事が終わると、男は避妊具を外しティッシュで丸めてゴミ箱に捨てそして女にティッシュケースを渡す。女はそれを受け取り、ティッシュを数枚とってケースを枕元に置きながら自分の下半身を拭き出す。
「この時ちょっとしらけるよな?」
「そう???果てた後だし別にいいんじゃない?」
男は曖昧なよくわからない笑みを浮かべて、またベットに横になった。女は男のお腹を身体でまたぐように男側のベットサイドにあるゴミ箱にティッシュを捨て、男の横に身体を横たわらせる。男は女の首に顔を埋める。
男はこの部屋に泊まっていくことはない。何故なら女には婚約者がいることになっているから。出会いはそれぞれが参加した投資家向けのセミナー。何回か顔を合わせるうちに男女の関係になった。
男は女よりも5つ下。女は一度離婚を経験している。
このマンションは以前元旦那から慰謝料としてもらったものの一つ。元旦那は会社経営者。女性関係が派手で毎回泣かされて、その上ドメスティックバイオレンス。浮気の事で詰め寄ったときに、暴力を振るうようになった。そして時々このマンションを出ていくかもしくは慰めるように元旦那は女を抱いた。そして気に入らないことがあるとその都度、殴られる。ある時は目つきが気に入らない、またある時はお前に投資を教えたのはこの俺だと罵倒されながら抱かれる。女は心の中で思う。あんたをサラリーマンから会社経営者までにさせたのはわたしだと。この時間が早く終わってほしくて、女は想像の中で過去に優しく自分を抱いた男たちを思い出した。自分の身体を知り尽くされている侮辱は快感によって忘却の彼方につれていかれ、残された静かなこの部屋に取り残されたとき、途方もない虚なしさが押し寄せてくる。女は何度となく自分を殺そうと思った。けれど死ねなかった。こんな場所で自殺したら、わたしを育ててくれた両親に申し訳が立たない。両親は田舎で弟夫婦と暮らしている。家族にはこんな生活知られたくない。そんな感情が女を自殺から救っていた。
愛されて育った実家の風景…女は果たしてどこで何をどう間違えたのだろう…。
離婚間近のこの部屋には女が投げて散らばった食器や皿の破片が散らばっていた。女はその破片で足を怪我した。それが原因で警察沙汰になり離婚が決まった。両親に離婚を告げたら、母から
「お姉ちゃんが決めたことなら口出しはしない。離婚なんて今の時代めずらしいことでもないんでしょ?」
「うん。」
「お姉ちゃんのことだから何も心配してないよ、子供ができなかったのが原因?」
「まぁ、そんなとこかな。」
父も母の意見と同様のことを言った。
元夫は無精子症だった。その事実を女の両親には言わないでほしいといわれたので、女が不妊症だということになっている。
*
「そろそろ帰えるよ。時間だろ?11時までの約束だった。今度うち来てよ、泊まってていいからさ。」
「気が向いたらね」」
玄関先まで送ると男は名残おしそうにマンションを出た。女は1時間後に着替えてこのマンションを出て仕事と生活空間のあるマンションへと帰える。
そこでは猫が3匹待っている。猫たちのために女は生活空間のあるマンションに帰るのだ。
丁寧にシャワーをし終えて、少しだけ掃除をする。丁寧な掃除は汚れたシーツと下着と一緒に後で洗濯に来ればいい。明後日またここに泊まりに来る予定になっているし、その時早めに来て掃除をすればいい。明後日はこのマンションのリフォーム後に家具を運んでくれた、引っ越し業者の22歳のフリーター。女はこの22歳の男にはすべてを話している。離婚したことも、元旦那から暴力をうけていたことも、名前も生年月日もそして住居が二つあることも。それからほかに男がいることも。その22歳の男だけはこの部屋に泊まっていく。その日は生活空間のあるマンションには帰れないので3匹の猫たちはペットホテルへお泊りだ。
マンションを出て生活空間のあるマンションへとタクシーに乗って帰る。AM1:30.遅くてもAM1:00に猫たちのために帰る予定だったのに30分の遅刻。水も食事もトイレもすべて自動で賄えるシステムだけれど、寂しい思いをさせてしまった。ご主人様の帰宅を待ちわびた猫たちが玄関まで寄ってくる。3匹はよくこんなにもなつくものだというぐらいに、なついている。
「ごめんね、寂しかった?」
「にゃーん」
一匹の猫が鳴く。
「あらあら、寂しかったのはグリーンだけ?」
女がグリーンと呼ばれる猫を抱きあげて、ほおずりしながら、キッチンへと向かう。他の2匹はあとをつけていく。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。
「部屋着だけどパジャマに着替えるからちょっと待っててね。」
そう3匹の猫に伝える。シャワーで落としたすっぴんがバレないように、深くかぶった帽子を脱いで、クローゼットにしまう。着ていたスウェットの上下をランドリーBOXに入れて、猫たちが戯れる、ベットへともぐり眠りについた。
*
翌日、朝9時に目覚めて、身支度を整えて女は大豆が主成分のヨーグルトに冷凍のラズベリーとブルーベリーをトッピングしたものと、コーヒーで朝食を済ませる。
PCに向かい、仕事を始めた。投資家という仕事がらほとんど家にいて仕事ができるし買い物も全部ネットで済ませられる。投資に関しては今はAIを活用していて大きな金額の投資はできるだけしないから、大きく損をすることが少ない。
午前中に大まかな仕事を済ませて、午後からは、エステに出かける。エステの予約の前に、大学時代の友人とランチをすることになっていたが、子供が熱を出したとかで、ランチがなくなった。
PCから目を離して窓を眺めると、桜の花びらが舞っていることに気付いた。女にとって春は憂鬱な季節である。結婚したのが3月、女の誕生日で、離婚したのが4月だった。あの破綻した夫婦関係を思い出すと、虫唾が走り、治ったはずの痣が痛む。ハッとしてPCの時計に目をやると、そろそろ出かけないといけない時間だった。最近は時間が過ぎるのが早い。
女が持っている、株価の上下の動きに大きな変動は見られず、今日のところはこんなものかな…と独り言をつぶやく。スマホが鳴ると、マッチングアプリで出会った3人目の男からの連絡。今友達と旅行に来てると嘘の返信をした。この男とはホテルでしかあったことがない。
低糖質のカップヌードルを食べて身支度を整えてPM2:00の予約のエステへと向かった。
施術中、少しの時間眠っていたようだ。終わったことを告げられるまで、気づかなかった。
「疲れがたまってるようですね。」
「でも、マッサージしてもらってよくなりました」
女はエステの出口でボディーケア―用のサービス品を受け取り猫たちが待つ自宅へと急ぐ。明日、22歳の男は午後7時にあのマンションに来る。10時に予約してあるペットホテルに猫を預けて洗濯や掃除をして整える。あの人に会える。それだけで今日一日が彩っていく。念入りに自分の身体をケアして、明日が来るのを待っている。女はその日は思いのほかぐっすりと眠った。
翌日、自宅マンションからペットホテルにより猫を預けてあのマンションへ向かう。掃除と洗濯をして、部屋を整える。少し休憩をいれたりして、乾燥機が回っている間に女は、デパ地下へとディナーの買い物に出かける。料理は得意ではないけれど、普段あまり良いものを食べていないだろう22歳の男を思って様々な総菜を選んで買った。22歳の男はお酒は飲まない。女は自分ように白ワインを買い帰りを急いだ。マンションにつくと、乾燥機が終わっていた。洗濯物をクローゼットにしまい、テーブルにお皿を並べてディナーの準備をする。
少しすると、女のスマホが鳴った。22歳の男は早めにこのマンションに来れるらしい。胸が高鳴るのを隠し切れない。普段はほとんど見ないテレビでもつけて、気を紛らわしながら訪れる時間を待った。
チャイムが鳴ると、そそくさと玄関まで走った。22歳の男はドアが閉まると同時に、女を抱き寄せた。
「ちょっと、食事の準備もあるのに」
「そんなの後だっていいじゃん、知らない仲じゃないんだし。」
女は男の求めに答える。寝室までの道のりには脱ぎ散らかされた服が散乱している。果てた後それ拾い集めて男に渡し、自分の服の乱れを直した。
「サホさんの家に来ると毎回美味しい物が食べれる」
それは女も同じだった。一人の食事は毎回適当なもので済ませる。そう思ったけれど、あえて口に出さなかった。
たわいもない話をしながら食事をする。仕事の話、今日はどんな仕事をしたか。この時期は引っ越し業者の仕事が多くなること、親元を離れて生活する若い女の子の話。結婚したての夫婦が新しい新居に移るはなし。楽しそうに話す男の会話に、女は終始ほほ笑んだ。
ふと男のたくましい腕に目をやると、男の腕に貼ってある絆創膏に血がにじんでいた。さっきは気づかなかった。
「腕、どうしたの?血がにじんでる。」
「これ、新しく買った家具組み立ててたら、切っちゃって。」
「この間ここでネット注文してたキャビネット?」
「よく覚えてたね。」
「変えた方が良いよ絆創膏」
「良いよこれぐらい。」
女は席を立って、キッチンの引き出しや棚を漁る。確かこの辺りにしまっておいた。引き出しを探っていると、腕時計が出てきた。これは離婚した夫への誕生日の祝いに贈ったものだ。ここにわたしは、知り合いに頼んで細工して盗聴用の小さいカメラを仕掛けた。離婚するとき、バレたらまずいと思い、返してと詰め寄り返してもらったものだ。こんなところにしまってあったんだ。あぁ、また嫌な記憶がよみがえってきた。離婚した元夫は半年前15歳年下の若い女と結婚した。首を左右に振って嫌な記憶を消した。
「サホさんこれぐらい大丈夫だよ」
なかなか見当たらない絆創膏を探すのに苦戦していると思っていたのか男がそう言った。
「あったよ。」
そういいながら、女は男の腕の絆創膏を取り換えてやった。腕に触れながら女は悪知恵を思いついた。
「ねぇ、頼みがあるの。」
「サホさんの頼みなら、俺にできることなら何なりと」
男は女の手首をつかみ引き寄せる。
「わたしの離婚した元夫の奥さんを誘惑してほしいのよ。報酬は現金であげるわ」
「報酬なんていらないよ。サホさんをくるしめた奴だろ、仕返し協力するよ」
「あんまり泣かせちゃだめよ。」
「わかってるよ。」
「計画を立てましょう。」
「その前に…」
その時に鈍い音を立ててテーブルに置いてあった男のスマホが落ちた。
「あぁ、画面が割れたかもしれない」
「待ってやめないで…買ってあげるからお願い」
そう女は男の耳元でささやいた。
ーおわりー
この物語はフィクションです。
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