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【俺ガイル考察】「待たなくていい」が意味するものとは?

「いつかもっとうまくやれるようになる。 こんな言葉や理屈をこねくり回さ なくても、ちゃんと伝えられて、ちゃんと受け止められるように、たぶんそのうちなると思う」(中略) 「……けど、お前はそれを待たなくていい」

©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.4363-4367). 株式会社小学館.

原作14巻、およびアニメ完11話前半の八幡から結衣へのセリフだ。
この場面で八幡は雪乃への好意を示し、結衣をフった。というシーンと解釈される。大筋としてまちがってはいないように思える。
しかしながら、このセリフについて少し考えてみたい。

なお今回の考察は、以前私がTwitterで連分投下した下記のツイートから多少増補しているが、概ねの論旨は同じものである。

背景

私は、「お前はそれを待たなくていい」発言は、結衣に好意がないことを意図するものではなく、近づいて来ることを受け入れる発言なのではないか
と考えている。
なぜか。
このセリフを思い出してほしい。

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©渡航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続

「でも、待っててもどうしようもない人は待たない」 (中略)「待たない で、……こっちから行くの」
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.2877-2884).

原作6巻及び、アニメ1期11話の結衣から八幡へのセリフである。
このセリフを踏まえて、「待たなくていい」の意味を解釈すると、
結衣に対して「そっちから来い/来ていいよ」という意味になってしまう。
好意がない、フるための発言だとすると些か不適切ではないだろうか。

上記の結衣の台詞を受けて八幡は、

どくりと、心臓が跳ねた。 内側から食い破りそうなくらいに痛い。
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.2884-2885)

と感じている。
それでいて、「待たなくていい」の発言の頃にそれを綺麗さっぱり忘れているとは考えにくいのではないか。
では、なぜ八幡は「待たなくていい」という言葉を選んだのか?
原作最終巻読了後からずっと私の頭の中でモヤモヤとしていた謎であった。

仮説

アニメ完11話をリアルタイムで視聴し、該当シーンで無事に心が抉られた後、改めてこの問題を考えた際、
素直に「そっちから来ていいよ」の意味と解釈すると、その後の展開と整合性が取れる
つまり先に述べたとおり「待たなくていい」は近づいて来ることを受け入れる発言と言えるのではないか?ということに気がついた。
いくつかのポイントについて述べていこう。

論拠ポイント1:結衣のお願いを叶えなかった八幡

雪乃との勝負の結果、約束することになった「由比ヶ浜さんのお願いを叶えてあげて」。それに対して、結衣の最後のお願いは

「…… 全部 欲しい」(中略)「だから、こんななんでもない放課後にゆきのんがいて欲しい。ヒッキーとゆきのんがいるところにあたしもいたいって思う」
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.4322-4325). 株式会社小学館.

である。このお願いを八幡は叶えていない。ヒッキーとゆきのんのいる所に結衣を居させるために何かをしている描写はない。
雪乃との陸橋のシーンで引き合いには出しているが、ただそれだけである。

論拠ポイント2:自分から近づいた結衣

最後に奉仕部が再始動する際、その最初の依頼人として結衣は部室を訪れ、依頼内容を告げる。

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©渡航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

「あたしの好きな人にね、彼女みたいな感じの人がいるんだけど、それがあたしの一番大事な友達で……。……でも、これからもずっと仲良くしたいの。 どうしたらいいかな?」
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.6677-6678). 株式会社小学館.

あんなのほとんど告白だ。結衣は最後に自ら近づいているといえる。
その結果最後の願い(3人でいること)を自身の手で叶えるとともに、自らの思いを伝えることも成し遂げている。

論拠ポイント3:それを受け入れた八幡

原作最終巻およびアニメ最終話はこのシーンで終わる。
その後発売されたアンソロジー4において、その後の奉仕部が描かれており、そこにはある意味普通のラブコメをする奉仕部の面々がいる(と、私は解釈している)。
現在BD/DVDの特典として続刊中の新を見ても、八幡は近づいた結衣を少なくとも拒まなかったと言えるだろう。

これらから、俺ガイルの結末およびその後の展開は、仮説の意図する通りのものになっていると言えるのではないか。

interlude

(この章は本題と関係がないので読み飛ばしていただいて構わない)
アイデアの3Bという言葉がある。
アイデアが産まれやすい3つの場所を示したもので、具体的には
Bath, Bed, Bus を指している。
問題に集中した後、一旦そこから離れることで潜在的な意識がこれまで思いつかなかった観点を弾き出してくれる、というような趣旨の言葉と理解しているが、
私は長いもやもやの解になるかもしれないこの説にベッドの上で辿り着いた。
先人の言葉は偉大だと感じた瞬間だった。

反証:ならば結衣はなぜ泣いたのか

ここで反証を試みる。
もし、結衣をフる意図がなかったとしたら、なぜ結衣は泣いたのだ?という疑問が出るだろう。それについては、以下のように考えている。

「待たなくていい」の前の

だから、 このまま関わることを諦めたら、たぶん そのまま。…… それは、ちょっと納得いかなくてな」
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.4292-4293). 株式会社小学館.
「一言程度で伝わるかよ」
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.4347). 株式会社小学館.

あたりで既に八幡は雪乃への好意を示唆しており、そこから悟ったのだろうと考えている。
(アニメでは描写されていないが、原作ではここで結衣が放心したようなリアクションをしている)

つまりあのシーン全体を通しての八幡→結衣へのメッセージは
「俺は雪乃が好き(関わりが~/一言程度で)、それでも来るぶんには拒まないよ(待たなくて~)」
という2つの要素を含んでおり、結衣は失恋を悟り号泣するに至ったのではないだろうか。

「待たなくていい」に関する他の説

「待たなくていい」の意味するところについては、他の方々も非常に精緻な考察をされている。
そこで提示されているのが「結衣を開放する言葉である」というものだ。
奉仕部はこれまで結衣に依存して成立していた面があり、依存状態から開放し、自由にするという意図を持っているということだ。
私も正直非常に納得していて、その要素も含んでいるのではないかと思っている。
仮にそうであっても、
「(俺は雪乃が好きだけど)もう依存しないから、待たないで来てもいい」
となるので、矛盾するものではないと言える。

傍証:なぜ「不明を恥じ」たのか?

原作において「待たなくていい」発言の後、「なにそれ、待たないよ」と返す結衣に対して、

俺も自身の不明を恥じ、軽く笑ってごまかした。
©渡航. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14 (ガガガ文庫) (Kindle の位置No.4370-4371). 株式会社小学館.

とある。なぜ八幡は「自らの不明を恥じ」たのかを考えてみると、今回の説の傍証になると考えている。

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©渡航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

そもそも、「不明を恥じる」とは、
物事を見極める能力や資質がないことを恥じる 」ことなので、
この場合、「結衣なら理解してくれると思った”待たなくていい”発言を、理解してくれなかった」と思ったから、理解してくれると思った自身の不明を恥じたのではないだろうか。(たしかに、結衣は理解してないような言い回しをしたので、それを八幡は額面通り捉えた可能性がある。)
だとすると、八幡は自分の意図が伝わらなかったと思っていると考えられる。

すると、この後のシーンで疑問が生じる。
ダミープロム実現のための手伝いを募るシーンで、八幡は結衣に声をかけないでいようとする。

もし「待たなくていい」が「結衣に好意がないことを伝える」意図で、結衣にそれが伝わらなかったと解釈すると、雪乃をつなぎとめることに成功した今、声をかけることをためらう理由がない

一方で「来るなら拒まない」が意図だとすると、自分からは行かないので、声をかけるのをためらうのは納得でき、依存卒業説を加味しても、もう頼らないと言っておきながら、速攻で頼るのは気が引けると思うことは自然といえる。

さらに、その後打ち合わせに結衣が遅れてやってくる前、原作ではこのようなモノローグがある。

彼女が、断っていい理由はいくらでもある。断ってくれて構わないのだ。これ以上、俺のわがままにつきあわせるのは忍びない。そうやって、俺は自分に言い訳をしていた。
©渡航.やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14(ガガガ文庫)(Kindleの位置No.5546-5547).株式会社小学館.

これは「本当は手伝ってほしいが、断られても仕方ないだろう
と思っているということと解釈できる。

好意がないことが伝わらなかったと思うならば、断られても仕方ないと考えたとは思いづらく、
好意がないことは伝えた上で、来るなら拒まないと言ったことが伝わらなかったと思うならば、断るだろうな、と思うことは自然だ。

いずれにせよ、「待たなくていい」=「結衣に好意がないことを意図する」説を否定する傍証にはなるかもしれないと考えている。

備考

なお、この「待たなくていい」のシーンに関して、由比ヶ浜結衣役・東山奈央さんが完全公式ガイドブックおよびメガミマガジン2020年12月号内のインタビューで言及している。
これを演者の解釈と捉えるか、公式見解と捉えるかによって本論にも大きな影響があるのだが、一旦は前者と捉えこの記事を書いている。

おわりに

以上、「待たなくていい」は結衣が近づいてくることを受け入れる意図を持った発言である、という仮説について考察を行った。
真相は作者のみぞ知るところとは思うが、もし意見やコメントがあれば是非頂きたい。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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