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漆工の布を探しに、大麻博物館へ 

大麻布に興味がある
カラムシとの違い

栃木県那須町にある大麻博物館に行きました。
なぜ大麻に興味があるかというと、漆工の下地に麻布を使うからです。

私の作る漆器には「布着せ」を施しているものが多く、木地に糊漆で布を貼り、器を割れにくくしています。

布着せをするだけでも高級品、手間が掛かっていると言われるけれど、
布は麻か木綿(多くは寒冷紗)かランクがあり、
更に麻っていろいろ…
漆下地の布着せの素材なんぞ、いちいち話題にしていられない、ニッチ過ぎて殆ど消費者に届けられない情報のひとつ。

品質表示で布着せに触れ、表示しようとしても「麻」

品質表示での「麻」はリネンかラミーのことと決まっている。

ラミーはカラムシ(苧麻)。
カラムシ布は漆工芸用にも販売されています。

『カラムシこそが日本の昔ながらの麻』
として認識してる漆の人多いのでは?

(↑自分のこと🥹カラムシも縄文時代には使われていたから。個人的には縄文も意識して製作しているので漆畑でカラムシも育ててみている。というか勝手に生えてくる。畑のカラムシも何かに使いたいけどまだ使えていない。)

しかし大麻博物館の館長さんによると、昔の人がアサといえば大麻で、カラムシはカラムシを指すそう。

アサとカラムシはけっこう違う植物。

カラムシはイラクサ科→苧麻、ラミー
アサはアサ科→大麻、ヘンプ
リネンになるのはアマ科のアマ→亜麻、リネン

生えてる時に葉っぱを見てもだいぶ違う。

そして肝心の布になってからの性質も割と違う。
触り心地も違う。
大麻の繊維は一度濡らして形を作ると、そのままの形状を保つ。繊維はストロー状になっているのが特徴。


現代の漆工の布着せでは「麻」が何かは細かく問われないけど、古くは「大麻」が使われていたそう。
江戸時代の漆工を施された文化財などでみても布着せの布は大麻という事は調査でわかっている。

長い歴史の中で大麻布が選ばれてきたのなら、それなりの理由があるはず。

そんな話を大麻博物館の館長さんから聞く。

漆工芸の場合、布着せの上に漆を塗り重ねると見えなくなるし、素材や工程の違いが出るのは何年も先なので、本当にどう変わるかは確認しづらい事ではある。
けれど、この度大麻博物館で知った大麻の繊維の性質や構造、私が今まで漆で貼ってみた感覚でも、漆工には本当はカラムシ布より大麻布が向いてるのでは?という思いが強くなりました。

(カラムシはハリハリして貼りにくい。貼った後の微妙に縮むのか浮きやすい。
横糸がヘンプ、縦糸がリネンの布を買ってみたら、柔らかくて浮かなかった。めちゃくちゃ貼りやすいじゃん…と思っていた。私の技術の問題の可能性もある)

でも漆工芸に使いたくても国産大麻の布ってなかなか見当たらない。
一点ものを作る漆藝家の人は大麻布を目的に古い麻布を買うとも聞くが、私はもう少し量産系漆器なので、現代の量産品の大麻布を探していた。

国産大麻布は幻の品、見つからないわけ

今、日本で国産大麻で糸を作る人が本当に少ない。
大麻の種蒔きから糸を紡いで布を織るところまでできる人は日本で2人はいないのだそう。

漆掻きもそうだけど、機械化されず手仕事しか残っていない産業は衰退するのだと思います。
戦後GHQによって繊維を取るための大麻すら違法な物として取り締まりをうけ、栽培すら難しい状況で機械化されるわけがない。

なので、大衆向けの量産国産大麻布は存在しない。
大麻布は手仕事で本当にごく僅か存在する状況。

大麻博物館の館長さんに貴重な国産大麻布を触らせて貰った。
しっとりと柔らかい。この質感は本当に意外でした。

外国産のヘンプ糸を元にした布は、同じ植物である大麻でも、育てられ方、糸になるまでの工程が違うので、やはり昔ながらの国産大麻布と同じ物にはならないそうです。

日常使いの漆器の布にあまり希少な物は使えないけど、使ってて気持ちの良いものを選びたい。
今は無理でも、性能を考えると漆器の布着せ下地に大麻布という選択肢が将来あったら良いなと思います。

文化財で大麻布を残してほしい

ところで、現在の文化財の修復では大麻じゃない麻布使ってるそうなので、そこは大麻布で頑張るとこではないのか?とちょっと疑問に思います。
文化財修復は条例で漆は上質な中国産を許さず国産に拘る。そのくせに、下地の布は全く違う素材でもOKなのは筋が通ってないように思う。

文化財修復に国産漆を使う事が決まってから、それまで廃れるしか無かった国産漆を再び増やす事や増やす為の技術にお金が注がれるようになった。
栃木県に残る貴重な大麻、麻薬用じゃなく、繊維を取るための大麻が先人達の苦労で辛うじて残されたのに、糸と布を作る技術は消えそうな現状。
漆と同じように文化財修復に使う流れにはならないんでしょうか?

何でも国産が良い、外国産はダメという話ではなく、大麻は1万年を超える細かい工夫と技術の積み重ねで、日本の気候にジャストフィットな布が作られてきたのがすごい事で残すべき事だと思います。

漆も元々は国産も中国産も同じ植物で同じような塗料の材料なんだけど、流通経路がシンプルな国産漆ならではの多様な品質あって、そういうところに個人的にも面白みを感じています。

大麻も漆も日本で何千年も伝わったきたからこその形がある。
漆工芸を生業としている自分としては、そういう物が今後ものこると良いなと思いました。

ちなみに古い蚊帳でも緑色の物は、大麻ではなかったり、今ではNGな発ガン性のある殺虫剤が使われているから使わない方が良いそうです。
漆の人、布着せ用に買う時は気をつけて。


おしまい


今回ただちょっと展示を覗くだけのつもりが、その場の流れで館長さんに紡錘車で糸を紡ぐ方法を教えて頂きました☺️
実は随分前に買った国産精麻の扱い方が分からず持て余していました。

繊維の裂き方、紡ぐ時の方向、繊維の向きの揃え方などなど。
手仕事していると、経験の伝承と積み重ねでぐっと作業が捗るのを実感します。

漆工芸に欠かせない麻について、いろいろ勉強に勉強になりました。
大麻博物館長様ありがとうございました。

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