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特に上手く料理をする人の話

 仕事柄、色んな場所に行くわけです。旅行も嫌いじゃないのだけれど、仕事のできる環境から長期間(二〜三日だとしても)離れる事になんとなく罪悪感のようなものがあるので、仕事の用を少しでも絡めようとする意気地無しの俺は、結果的に仕事柄、色んな場所に行くわけです。
  名所名跡。世の中には色んな名所名跡があります。でも正直なところ、「ただ見せられるだけ」みたいな場所も多い気がする。格子のかかった荘厳な建造物を前にして、1980円で買った変な柄のハーフパンツなんかを履いている自分との乖離を強く感じたりして、名のある場所を見せてもらうという”セレモニー”をやりましたねっていう気分でその場を後にする事も多いわけで、幻想世界のスタンプラリーでもやっているかのような感じ。もちろん「ここは素晴らしい!!」という事もあるのだけど、そういう場所には今で言う”インタラクティブ的”な感覚を持って立っている気がする。……ちょっとかっこいいと思って”インタラクティブ”って使ってみたけど、何?本当はどういう意味?合ってる? 結果的に移動中の人とのやりとりとか、 行った先で見かけた変な人とか、そういった部分の思い出がどうしても多くなったりするわけですが、その意識の間隙を縫って襲ってくるのが「旨い物との出会い」なのです。
 (結局「旅の醍醐味は食にあり」的なつまんない話になりそうな予感がしているのは、俺も同じく。 でも書きたいのはそんな事じゃありません。)
 旨い物を食べるとどうなるかというと、会話が成立しなくなります。 一時期、打ち合わせをする時にわざわざ「美味しいお店」をセッティングしてもらったりしていたのですが、そういう場所では食事が始まると仕事の話はできなくなります。目の前の食べ物がどれだけ旨いのかという話ばかりに夢中になり、帰り際に「仕事の話の続きは、メッセージでやり取りしましょうか。」みたいな事を言われ、「なんだかすいません。」とうな垂れつつさようならという事になります。打ち合わせはカフェでええ。
 しかし一つ良いところがあって、「旨い旨い!」と大騒ぎしている俺を見かねて、料理人の方が話かけてくれたりするのです。 そうなると俺も聞きたい事がどんどん出てくるので、「なみへい子ども新聞」の取材(ただの質問)が始まることになります。どういう手順で作るのか、日中は何をしているのか…と図々しく取材(ただの質問)を進めるうちに、なんだか仲良くなります。中にはそれが縁でいまだに連絡をとっている人も各地に何人かいらっしゃいます。楽しい。遂には俺に「出汁取り師匠」にされてしまった人もいたり。コロナのこの時期、会いに行けないのが無念でならない。
  そうしている内に良い話も聞かせてもらえたりして、何かある度に思い出す事がかなりあるので、ここにいくつか紹介します。

①千切りが綺麗に早くできるようになるコツは?に対して
「ゆっくりやるんだよ。」

②出汁を上手に取るには?に対して
「材料あげるから、一度遊んでみたら?」

③ いい話してください。に対して
「人間は、『起きて半畳、寝て一畳』だからね。」

 実際はもっとあるのだけど、ひとまず今頭に浮かんだこの三つ。
 ①は、 これ結構大事なことだなと思ったので、普段から色んな局面で思い出します。どうやったら素早くできるのかという問いに対して、逆説的かつ衝撃的かつスマートな一言。スピードを上げるためにはまず丁寧に始めることだと。やってる内に早くなるというわけです。始めからワチャワチャと速さを求めて千切りをしていた当時の俺は千切りが嫌いで、面倒だと思っていました。しかし、丁寧にやるようになると少しずつ速度も上がっていくし、少しずつだけど綺麗にできるようになったわけです。…ひるがえって!日々の暮らしも、音楽に向き合う姿勢も同じだなと。出来の悪いことや苦手なことには、じっくりと丁寧に向き合おうということになるわけです。コツとかじゃなく。コツって得てして良くない事が多い気がする。
 ②については、もう、なんだか良いなと。 あの軽いノリ。しかも、その一言が出る前にもかなりしっかりと材料についてとか分量についてとか詳しく教えてくれていたのに、その上でこれ。おっとこ前。翌日、もらった材料で「遊んで」みた結果、出汁の香りとか旨味が少しだけ分かるようになって、食べる事が面白くなりました。…ひるがえって!おっとこ前っていうのは良いなと。そして、理解が深まると、気付けなかった事に気付けるようになるわけで、面白さってやっぱりその辺りにあるのかもなあと思うに至ったわけです。
 ③については、これは格言ですね。人間なんてものは、起きても半畳、寝ても一畳分のスペースしか使わないサイズなんだから、偉そうにするなと。そういう事です。 しかし実はこの言葉、調べてみるとこれだけではなくて、後ろに「天下取っても二合半」と続くそうなのです。「天下取っても」をあえて省いている事に、なんだか重みを感じます。…ひるがえって!!!調子に乗るなと。特に調子に乗りやすいタイプなので、事あるごとに思い出すようにしています。イイ気になんなと!ライブの内容が良かったからといってすぐに調子乗んなよと!!俺!ちょっとギャラが良かったからといって、調子乗っていらん物買うなよと!すぐ調子乗るからね本当に!

 なんだか、ちゃんとした感じの事を書いてしまったみたいになってつまらない事この上ありませんが、特に旨い物を作る料理人の人は、やはり特に上手く料理をする人なわけで、そういう凄い人の有り様にはグッとくるものがあります。良いものを作る人は、かっこいい。
 この時期、外食の機会も減ってしまいましたが、早く何も気にせず行ける日が来ないものか。話したい事も沢山あるんだ。

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