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海辺の地形と風と波 【2020.06 過去記事】

全国で少しずつ海の時間が戻ってきました。
閉鎖されていた駐車場も開放され始め、ウエットは自粛前よりも薄く軽くなり、気持ちも徐々に晴れやかになってきた方も多いのではないでしょうか。
NSAから [新たな]サーフィンのルールが公表されましたが、一人一人がしっかりとルールを守りながら、新しいスタイルもなかなかいいもんだ、と思える日が来ることを楽しみにしている今日この頃です。

こんにちは。気象予報士の塩田久実です。

さて、今回はわたくし事から入らせていただきます。
まず、波を知りたくて気象予報士を目指そうと思った理由は3つの出来事からなるのですが、そのうちの1つに、顕著な前線通過に遭遇したこと、というのがあります。
まだ天気図もまともに読めなかった20年ほど前のことです。
その日の朝、ガラケーで見た波情報の予想文には、
「お昼前後に前線が通過した後はコンディションを落とすため、午前中に~~」というようなことが書いてあったと記憶しています。
午前中に予定があり、お昼過ぎに東向きのあるポイントで友人と待ち合わせをしました。
青空が広がり、ハラ~ムネsetカタぐらい。沿岸の風はさほど強くもなく、面も整っていました。


「いいじゃん、いいじゃん、入ろう~♪」と、着替えてビーチへ降りて少し歩き進んだ頃、いきなり斜め左前方から突風が!!
目が開けられない、立っていることすら厳しい、オズの魔法使い(古い)のように空に吹っ飛ばされるのではないか、、と、なんとか右手後方に向きを変え、板を抱えて地面にへばりつき1~2分ほどたったでしょうか。
少し風が弱まったように感じ、目を開けて海を見たら、空は濃いグレーで薄暗く、まるで別世界。
きれいに割れていた波はどこにもなく、どチョッピーに。
入っていたサーファー全員が上がるために、こちらへ向かってパドルしていました。

寒冷前線が通過したことで、南西風から北東風へ変わったのです。
そのポイントは、左右に長く海岸線が広がり、また、海の前には建物がなく、少し内陸に入ったところに低い建物が多少ある程度。防風林はあるもののかなり低い、という地理的な要素を持っていました。
そのため、障害物に遮られることがほとんどないまま、前線通過時の気象変化をダイレクトに受けたというわけです。
日頃海に入っていて、風や波、流れが変わることはよくあることですが、ここまでの急変は初体験で、大変な衝撃でした。
それまでは、6時前、12時前、19時前になるとNHKの天気予報を必ず見て波の予想を教えてくれる先輩や、波情報を頼りにしていましたが、波ってなんだ?波の奥を自分でも知りたい!と思った瞬間でした。

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この日のような状況は、春や秋に移動性高気圧と低気圧が日本付近を交互に通過する時期に多いですが、梅雨前線上の低気圧が発達して沿岸を通過する場合にも起こりうることです。

寒冷前線は、寒気(北寄りの風)が暖気(南寄りの風)の下にもぐりこみ、暖気を押し上げて、帯状の悪天候域を作り、雷雨や一時的な強い雨、風向の急変や突風などを伴い、気温も下がります。
寒気と暖気の温度差、その他の細かい条件などで、前線付近の状況も異なります。
また、ご自身がいる付近の地形などの条件が、例えばすぐ前に山が広がっていたり、海岸線沿いにマンションなどが立ち並んでいるなど、うまく風がかわせることで、そこまでの急変にならないところもあるでしょう。

海岸には、広い砂浜が広がっていたり、砂浜に続く防風林や防潮堤が整備されていたり、小さな湾や断崖絶壁など、海岸の地形は多種多様です。
そのため、同じエリアであって、天気予報で表示されている風向きが必ず合っているというわけではなく、それぞれのポイント周辺の地形などによって特有の風が吹くことになります。
また、大きな建物が作られたり、開発によって山が切り崩されたり、海辺やその沖合を吹く風の特性まで変わります。
海側から陸に向かって吹き込む潮風を遮るために作られた防風林が伐採されると、海風が風速もほとんど弱まらずに内陸へ吹き込むようになります。
防風林は、海からの風を防ぐために作られたものですが、陸側からこの林の上を超えたり、林の中を通り抜けて海へ吹く風を弱めたり、風向を変えたりもします。

同じ向きであってとしても、周辺の地形などにより、風をかわせるところ、ダイレクトに受けてしまうところなど、それぞれ異なるポイントごとの特徴を覚えておくと、より快適に海に入ることができると思います。

そして、前線通過時には↑に述べたように、落雷、突風、風向急変、併せて海面状態や流れなどの急変も起こります。

前回も触れましたが、距離を取りながらサーフィンしていても、遭難し救助が必要となった場合にはそこには密が生まれてしまいます。
[新たな]サーフィンのルールをしっかりと守り、また天気予報や波予報も確認した上で、サーファー皆さんが大事な海の時間を過ごせますように願っています。