池ノ上美波

池ノ上に住む美波といいます、私小説、駄文、散文等書いております。

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最近の記事

サヨナラ日本①〜2度目の成人式〜

2度目の成人式をむかえた40歳の冬、わたしはアムステルダム〜ベルリンの旅に出ていました。 元々、ヨーロッパの文化が好きで個人主義やリベラルな思想が自分に合っていて、移住を考えていたのでした。 アムステルダムは毎年夏に訪れていて、大好きな野外フェスティバルがあったので、8月はアムステルダムで過ごすのがここ数年のお決まりでした。 わたしは90年代に青春を過ごしたので、日本のクラブカルチャーがまだ海外に引けを取らない、むしろ世界中から東京が憧れられていた時代に、東京で毎晩踊りあ

    • 「ロングノーズ」

      「私の受け持ってるクラスにロングノーズってよばれている子がいるんだよね」  雨降りの朝、小さなベッドの中でユカコが吐息を吐くくらいの大きさの声で語り始めた。  彼女は保育園の先生歴七年目、ベテランとは言わないが中堅どこになってきて時々仕事の話をする。 「ロングノーズ?最近の子供のあだ名は横文字か、洒落てんな」  ボクは大抵彼女がこの手の話をする時、適当に合いの手を入れる、まったく返事もしないと彼女も気持ちが良くないだろう、ユカコにはいつも機嫌よく居てほしかった。 「なんでロ

      • 「WALK」

         今年、五度目の青い月が昇った夜、行きつけの麻布のバーで六杯のバーボンと四つのピスタチオを口にした、その二時間後、バーから三つ目の交差点で乗車拒否されたタクシーのテールランプを横目に二度嘔吐した、嘔吐しながら四粒ほどの涙を流した、胸の中心のあたりに空洞があるのを感じた、そんな夜だった…。  バーの名前はSAMMYS BARといったが、店主の名前は花岡という五十近い白髪交じりのジェントルマン風の男で、店によく来ていた常連と二度結婚し二度離婚した婚歴を持っていた。  彼が昔飼って

        • 「ピースライトストーリー」

           三杯目のジャマイカンラムのロックを飲み終えたとこで彼女と出会った。  ショートボブのよく似合う、ハッキリとした目鼻立ちの如何にも利発そうな苦手なタイプだった、ルーツ・レゲエが流れるような東京の店によくいそうなタイプだった。  女性の好みは?と聞かれてよく迷うことがある、大人しくて清潔そうでボンヤリとしたタイプの女性がボクは好きだったけど、ボク自身がボンヤリとした人間だったのでボンヤリとした女性とは長く付き合うことができなかった。  人は誰かを好きになる時、自分と同じ部分

          「噛む女、噛まれる男」

           彼女は噛む女、肩でも上腕二頭筋のあたりでも、指や耳、唇にうなじを噛む、とにかくところ構わず噛む。  噛むにはそれなりの理由がある。だいたい噛む時はきまって求めている時だ、肉体関係を求める時、その合図として彼女はきまってボクを噛む。  噛む女は往々にして愛情不足なので、日常或いはその過去に問題を抱えていることが多い。  彼女、美潮(みしお)にはどんな問題があるのだろう?その理由を聞くことからボクは逃げていた、というか、かわしていた。その理由を聞いてしまえば、もう二度と戻れない

          「噛む女、噛まれる男」

          「スープの季節」

          「お腹減った…」  ベッドの中で子猫のような甘ったるい声がする。  去年の夏のフェスで知り合ったミホはたまに、ふいに連絡をくれる、だいたい連絡がくる時は発情している時だ。  ボクも嫌じゃないから彼女を受け入れる、別に彼女もボクも特定の恋人がいるわけじゃないけど何となく会って、なんとなくセックスして、何となくそのまま、付き合うわけでもなく、離れていくわけでもなく、そういう微妙でアンバランスな関係を一年くらい続けている。  彼女の夢はお嫁さん、二十九歳、西新宿勤務の一般職OLさん

          「スープの季節」