父の夢のマイホーム
実家は、私が小学1年生の時に父が建てたものだ。
父は大工や建築士なりたかったが、それがかなわず、土木の技師になった。だから自分の家を建てる時の熱の入れようはすごかった。自分でいくつも図面を描き、模型も何種類か製作していた。ああだこうだ言いながら、父の従兄弟の大工さんと家のかたちを決めていった。
一緒にTOTOなどのショールームへ行き、見本のタイルを借りてきて、お風呂はどの色にしようか? なんて家で並べていた。
今思い出しても、あの時は、家族みんなわくわく楽しくて、子供の目から見ても、父は少年のように目をキラキラさせて家づくりに打ち込んでいた。
だからもう、竣工した時には嬉しくて嬉しくて、父は何回も自宅と一緒に写真を撮っていたし、親戚友人を招いて盛大なホームパーティーも開いた。
引っ越したばかりは、今までは残業で帰りが遅かった父が、毎日、夕方6時に飛んで帰ってきた。そして、自慢の夕焼けが見えるお風呂に入ったり、茜色の空を見ながら家族で夕食を食べる。
そんな時に父が集めていた間取り本が実家に残っていたので、ちょっと開いてみた。表紙は色褪せているが、中の写真は綺麗なままだ。
この『一流住宅』徳間書店(昭和55年)という雑誌は、家政婦が出てきそうな豪邸ばかり載っている。外装も内装も、家具も調度品も高級なものばかり。絵本としてみているだけでも面白い。
そして、もうちょっと庶民的な本『最新マイホーム実例集』津田成一郎編 主婦と生活社 などには、父の貼った付せんがある。
ああ、こうやって一生懸命間取りを考えていたんだなあー。家相の本にもマーカー線が引いてあったりする。
当時のことを思い出して、感慨にふけってしまった夜だった。