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新型コロナで会社が潰れかけたので転職したらまんがタイムきららのお姉さんキャラになっていた話 第6話

オシャレなパワポは作れるようになったけれど

 諸君

 新年度あけましておめでとうございます。

 きらら先輩である。

 わが社は絶賛、新入社員歓迎月間である。わが社というか、わが総務部総務課ですね。はい。

 きらら先輩ももちろん、新歓に駆り出される毎日だ。しかもですよ、ちょっと聞いてくださいよ奥さん。私まだ転職してきて四ヶ月経過しただけなのに、猫課長に「新入社員向けの総務課の紹介お願いしますね」なんていきなり言われて。

「私、まだここに来て四ヶ月ですけど、良いんですか?」
「あれ? そうだっけ?」
「そうですよ」
「もうずっと前からいるような気がしてました」

 そういうことを、あっけらかんと言うな。

 まるで私の態度がでかいみたいじゃないか。

 でかいけど。

 うん。でかいけど。

 そんなわけで、じゃあこれ使ってくださいと送られてきたパワポのファイルを開いたきらら先輩は、ばったりと倒れた。

 風が語りかけます。ダサい。ダサすぎる。

 いや、あそこまで突き抜けてしまえばまた別なんだけどね。何でわざわざ韓国語だか中国語だかのフォント使ってるんですか? 何でカタカナだけ半角なんですか? わからない。全てがわからない。

 これは許せない。私がこんなものを作ったなんて勘違いされたらどうするの。

 この、このダサいパワポをこの世から抹消する。

 そう決意して1時間。フォントを定番のメイリオで統一して、スマートアートを適当に入れて全面的に作り直したパワポを猫課長に見せたらどうなったと思う?

「これは良いわ! これは良い!」

 猫課長が大声を出すもんだから、他の総務課の社員さんたちも私の席の周りに集まってきて、私は内心ドキドキだった。いや、だってこんなの別に……普通。普通じゃないですか。

 ところが普通じゃなかったのだ。くみちゃんまで一緒になって私のパワポを褒めだして、私はもう穴があったら入りたかったよ。何でや。わからんけど。きらら先輩は褒められるのが苦手なのだ。

 この件で確信したのだが、弊社は古式ゆかしいB2B企業なので、デザインというものへの感度がとんでもなく低いらしい。きらら先輩の前職は長年文系学生就職人気ランキングのトップ3に入り続けていたようなところなので、やはりデザインについてはそれなりに、それなりだったのだな。今思えば。

 繰り返しになるが、きらら先輩は前職ではお荷物キャラだったのだよ。パワポの作り方だって、私よりも遥かにオシャレなものを作れる先輩がいた。いっぱいいた。でも、どうやってオシャレなパワポを作るかは教えてくれなかったので、しまいには半泣きになりながらパワポを作り直してはダメ出しされて、また作り直して、最後は「じゃあもうこれで良いから」なんて言われて落ち込んでいたものだ。結局、パワポを褒められたことは前職では一度も無かったなあ。

 それがだよ。

 その、10年前の文系学生就職人気ランキング1位か2位か3位のところから転職してきたら、給料はバーンと上がるし、みんなエクセルのショートカット使わないし、前のところではさっぱり評価してもらえなかったパワポまでべた褒めされる始末。

 おかしい。何かがおかしい。

 何でこうなるの?

 思い余ったきらら先輩は、その日の夜、またしてもソラちゃんにメッセージを送ってしまった。以前はこういう時にメッセージを送るのは天ケ谷リクだったのだが、最近はリクをすっ飛ばしてソラちゃんということが増えている。ソラちゃんは良くも悪くも人たらしなんだな。

 例によって返信は早かった。

「それは簡単です。前の会社は新卒の就活の人気企業だった、つまり入りたい人がいっぱいいたわけですよね」
「ですね」
「ということは、給料を低めに抑えても入社希望の学生集めには困らなかったということです」
「なるほど」
「別の言い方をすると、仕事で要求されるレベルに対して他社より低い給料しか払われていなかったということでもあります。どんな犠牲を払ってでもその会社、その業界で働きたいという人が掃いて捨てるほどいる場合には、こういう買い叩きが起こりがちです。総合職の正社員だけ高給で、一般職やパートやアルバイトは薄給というパターン」

 きらら先輩はやっと理解した。

 前職で私がお荷物キャラだった理由。

 要求水準が高すぎたんだ! そうだそうだ!

 ちなみにその人気の会社、実は実は特にあこがれがあって入ったわけじゃないんだよね。新卒の就活の時の私は節操無く金融もSIerもHRも受けていて、たまたま内定が出たのがその会社だったという……。

 他にも港区某所に本社がある人材紹介会社の内定をもらっていたんだが、内定が出たあとにそこの社長だか役員だかとサシの食事というのに呼び出されて、付き合ってる男はいるのかとか、これまでにどんな男とつきあったのかとか根掘り葉掘り聞かれて、「これってセクハラだよね?」と天ケ谷リクにメッセージしたら、「セクハラだね」と返ってきたので、翌日アサイチで内定お断りの電話を差し上げたのでした。

 その会社はまだあるみたいだけれど、まあ誰に聞いても微妙な顔をする会社なので、入らなくて良かったと思っている。

「あそこかあ(失笑)」

 みたいな。どういう会社やねん。

 あとは損保会社で八回も面接に呼び出されて、八回目が最終面接だと聞いていたのに、何故か九回目の面接というのがあって、その挙げ句にお祈りされたこともあったぞ。あの会社の保険にだけは絶対に入らないと決めたきらら先輩は、今もその誓いを守っているぞ。その後、前職で第○生命のセールスレディがあまりにもしつこかったので、生保は○一生命だけは入らんと決めている。

 ……ええっと、何の話だっけ。

 そうそう、前職は無駄に学生人気が高かったのでよくわからない苦労をしたという話でした。

 でも、前職で(薄給で)鍛えられたお陰で転職したら一気にデキ女キャラになったんだから、運が良かったのかもしれない。

 さて。

 で、そのパワポを使った新入社員向けのガイダンスの結果もお知らせしよう。

 盛大にスベりました。

 はい。

 きらら先輩はパワポとエクセルはそれなりに使えるが、プレゼンは正直、それほどでもない。それほどでもというよりは、全くもって下手である。淡々としすぎちゃうのだ。話していて自分でも悲しくなったよ。何で私こんなに淡々としゃべってるんだって。TEDみたいにしゃべれたら良いのに。

 そんなわけで今日もグダグダで終了。次回はTEDxきらら先輩でお会いしましょう(嘘)

 第7話ではついにくみちゃんに泣かれちゃった話をするぞ。



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