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【2024年度】プレ企画-2「世界一幸せな国、デンマークの人づくりとは?」の様子(後半)をお届けします|北欧デンマーク流の探究学習を学び・実践する「なめりかわ未来学校(サマースクール)」

対話×体験で探究力を育むデンマーク流の学習を、異年齢で実践するサマースクール「なめりかわ未来学校」。

今回は2024年5月22日(水)に開催された保護者と企業関係者のみなさまを対象としたプレ企画第二弾「世界一幸せな国、デンマークの人づくりとは?」(オンライン)の後編をお届けします。

▼前編はこちら

針貝有佳(はりかい・ゆか)
早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。著書に「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」

柿沢昌宏(かきざわ・まさひろ)
滑川市副市長。京都大学を卒業後、富山県庁に入り、防災・危機管理課長、地域振興課長、商工労働部次長、総合政策局長などを経て、2021年から議会事務局長。2022年4月、滑川市副市長に就任。いつも市民起点・市民共創の心を忘れず頑張っています!

上田良美(うえだ・よしみ)
滑川市教育長。富山大学を卒業後、教職に就き、小学校教員、滑川市教育委員会、富山県教育委員会の指導主事などを経て、2019年から滑川市立西部小学校校長。2022年4月、滑川市教育委員会教育長に就任。子どもたちが笑顔で学校生活が送れるように奮闘中。

対談セッション

イベントの後半は針貝さんのお話を受けて、滑川市滑川市 柿沢昌宏副市長(以下、柿沢)、上田良美教育長(以下、上田)との対談形式でさらに話を深めていきました。

結局、デンマーク人は「なぜ4時に帰れる」のか?

柿沢:話を聞いていて、疑問に思うことがあったら、次のスライドで紹介されて、「さすがデンマーク流!」と感じました。「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」についてもう少し詳しく教えてください。

針貝:ポイントのひとつは、デンマーク人は「優先順位の付け方」がとても上手だということです。例えば、やることが10くらいあれば、デンマーク人は3くらいしかやらない。全部やろうとせず、仕事をする上で本当に大事なことを選んで仕事をするので、4時に帰れます。それがデンマーク式です。日本人はサービス精神と責任感があるので、なんでもやらないといけないと思ってしまいます。デンマーク人は、どんどん断ります。

柿沢:日本で仕事していて、確かにやらなくてもいいことをやっているような気がします。デンマークでは、やらなくてもいいことを断って、排除しているのですね。

針貝:「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」だけを見ると、デンマーク人はなんて効率よく、テキパキ働いていると思うかもしれません。実際には、すごくのんびり働いて、4時に帰ります。やることを減らしているだけです。

外川(司会):何をした方がいいか、何をすべきかというよりは、何が本当の価値なのかを見極めるマインドが教育で培われているのでしょうか。自分の力は何によって一番発揮されるのかということです。

針貝:デンマーク人は、家や家族を一番大事にしています。まず大事にしているものが最初にあって、残りの時間で仕事をする。その仕事の時間の中でも、大事なところだけをやる。組織では自分のやりたいことだけだと回らないですが、組織としても「何が大事なのか?」という押さえどころを見極めていて、それを集中してやる。それがうまく噛み合わない場合は、キャリアを変えます。組織が大事にするポイントと自分が大事にするポイントが噛み合っていない時に、どんどんキャリアチェンジをします。

最上段左から:株式会社Laere外川、滑川市柿沢副市長、滑川市上田教育長、針貝さん 上から二段目:株式会社Laere坂本共同代表

デンマークの教育現場を掘り下げる

上田:日本の教育もだんだん変わってきていて、子どもたちの主体性も大切にしていく流れになっています。また、デンマークでは「スペルミスを直さない」というお話がありました。日本でも昔は漢字の細かいミスを厳しくしていましたが、これだけAIやICTが浸透してきているので、いまはそれよりも漢字を正しく使えることが大切という時代になってきています。先生たちにも、そのようなことに時間を割かず、本当に何が大切か考えてやっていきましょうと言っています。そうすると保護者の中からは、「先生がきちんと見てくれていない」などという声が出てくる。大切なものが変わってきているということを、教員にも保護者のみなさまにも共通理解をしながら、教育を進めていきたいと思っています。

針貝:私も子どもが小学校に入学して、保護者会に出席していなかったら、子どもに「これ間違っているよ」と絶対に言っていたと思います。学校でも、「昔はこうでしたが、いまはこのようなことを大切にしています、このような理由です」と説明されると、保護者の方は納得されると思います。共通認識は大事ですよね。

上田:昨年の「なめりかわ未来学校」に参加した子どもたちに「何が楽しかった?」と聞いてみたんです。「自分の意見をたくさん、思いっきり言えて楽しかった」と言ったんですね。授業の中でもたくさん話してもらっているはずなのになと思ったのですが、どうしても受け身の授業が多いのかなと考えました。
ところで、デンマークでは宿題はたくさん出ますか?

針貝:あまりないです。小学校低学年では、「読むことに慣れる」目的で、時々読み物があります。学校や先生によってスタイルはあると思いますが、私の子どもの学校は強制ではなく、あくまで推奨です。それから、週に1〜2回、プリントを数枚持ち帰ってきて取り組んでいます。ただ、日本は、ひらがな、カタカナ、それからものすごい数の漢字。覚えることが多いので、そこの前提は大きく違います。

上田:では、子どもたちは家に帰ってから、何をして過ごしていますか?

針貝:基本的に全く勉強はしていません。学校が終わってから、学童やクラブに行って、多様なアクティビティをしています。家では創作をしたり、ゲームをしています。それから学校の友達を家に呼んで、遊んでいます。習い事は、体を動かすものが多いです。サッカー、体操、ダンス、合唱などが多いですね。

上田:授業参観はありますか?

針貝:授業参観はないです。ただ、「学校でイベントをやるので保護者も参加してください」ということがとても多いです。例えば、リサイクルの勉強をしていて、リサイクルイベントをやるので、子どもの工作を見に行きました。それからスポーツ観戦もあります。ホッケーの試合を見に行ったことがあります。

外川:そもそもデンマークでは学校生活に先生だけでなく、ペタゴー(※1)という対人支援専門の先生もいますよね。また、保護者と先生の間に対話があったり、子どもは地域で育てるという意識もありそうです。ここは「なめりかわ未来学校」で目指していることにも近いです。

針貝:学校ではPTAのようなものがありますが、そこが中心になって、保護者が宿泊体験を企画することもあります。子どもも大人も一緒に行きます。ただし、参加は任意です。強制ではありません。

※1 ペタゴー
デンマークにおける教育や福祉を支える対人支援職。「生活指導員」とも呼ばれる。子どもたち一人ひとりの個性や興味に寄り添い、安心して学び、遊び、自己表現できる環境を整えることで、社会的・感情的な発達を促す役割。

デンマークの小学校での授業風景(参考、外川提供)

「寄り道」や「余白」に肯定的なデンマーク

柿沢:国民学校を卒業した後に、エフタスコーレ(※2)などの全寮制の社会教育機関に入ることもあるとお聞きしましたが、その辺りも教えてください。

針貝:社会教育機関は、成績に関わらず行くことができます。ただし、エフタスコーレは有償になるので、学費等を用意する必要があります。それを用意できれば、寮に入って、学ぶことができます。デンマークの教育システムのいいところは、寄り道に肯定的であるところです。日本だとネガティブな印象もあると思いますが、デンマークでは一年あえて休む、違うことをするということを積極的にしています。

ここで娘が15歳からデンマークで暮らし、教育を受けている株式会社Laere坂本共同代表(以下、坂本)が飛び入り参加で現地情報を共有しました。

坂本:娘もエフタスコーレに通っていました。高校進学前のギャップイヤーとして、高校で何を学んでいいかわからない時などに活用できます。子どもたち同士が対話を通して、思春期の難しい問題を解決していくことを学んでいます。また、寮生活の中で集団の中で自分を知っていくことに活用することもできます。
日本人もたくさん通っているフォルケホイスコーレ(※3)もありますが、こちらは国内に70校ほど。数から見てもデンマーク人はエフタスコーレで民主主義の基本を学ぶと言っても過言ではないと思います。
その後、高校に関しては、入試がないので行きたいところに行くのですが、3年間の学びの後の卒業試験があります。日本と同じように一発の試験ではあるのですが、マークシート形式でなく、口述試験と記述試験が中心です。1教科3時間くらいかけて行います。この成績をもとに行ける大学が決まってきます。ただし、一年目で行けなくても、加算方式なので、次年度にまたトライができます。卒業した後にいつ大学に行ってもいいので、ここでもギャップイヤーを挟みます。なので、大学一年生は19歳や20歳くらい。結果的に日本よりも社会に出るのが遅い傾向にあります。

※2 エフタスコーレ
14歳から18歳の若者を対象とした私立の全寮制寄宿学校。国内に240校程度に約3万人の生徒が在籍し、国民学校9年生(注:日本の中学3年生に当たる)の3割程度の数とも言われている。エフタスコーレは、国民学校9年生に置き換えることもできるし、高校進学前の10年生として通うこともできる。費用は親の所得に応じて決定される。
※3 フォルケホイスコーレ
17.5歳以上の青少年、大人を対象にした全寮制の成人教育機関。試験や成績が一切ないことが特徴。学びは対話・実践を中心に行われ、人生を照らすための知的好奇心を満たし、民主主義的思考を満たすことを目的にしている。

針貝:デンマーク人は、入学・卒業が何年か遅れることをネガティブに感じず、「別の経験をした」と捉えています。日本だと一緒に学年が上がっていきますが、デンマークは自分のペースに合わせて、教育期間を作っていきます。

坂本:娘が大学に入学したのが22歳くらい。いまは30歳で既に子どももいますが、やっと大学院を卒業します。デンマーク社会のひとつの特徴は、自分の目指す職業観が確立してから卒業して社会に出ていくことです。自分らしい人生を生きていくことが非常に重要。もうひとつは、デンマーク社会では「よき納税者になっていくこと」が非常に重要なので、自分の得意なところで力を発揮していくことが社会では重視されます。

全寮制フォルケホイスコーレの食堂の様子(参考、外川提供)

「なめりかわ未来学校」に向けたエール・意気込み

外川:最後に「なめりかわ未来学校」でデンマーク教育のどういったいいところを取り入れられるのか? について一言お願いします。

針貝:思いっきり遊ぶのがいいと思います!
日本の学校の中で学ぶことはみなさん身についていると思うので、全てを忘れて楽しむ時間になるといいと思います。日常生活だと「先生」「大人」という立場がありますが、「なめりかわ未来学校」に参加している仲間として、フラットに話せるといいですね。授業でなかなか言えないことも言えるといいかもしれないですね。

上田:「私たちは自由である」というところは「なめりかわ未来学校」で大切にしている部分です。さまざまな体験をして、子どもたちが「こんなこと思ったよ!」ということをたくさん表現する場にしたいです。今年はさらにパワーアップしていきます。

柿沢:「なめりかわ未来学校」はスモールスタートで、試行的にスタートし、2024年は2年目になります。今年は滑川市内の企業の方にも多く周知している中で、とてもいい取り組みで応援したいと言っていただいています。2024年は秋頃に「こどもサミット」でも発表の場を設けるので、こどもたちが思いっきり遊んで、遊びながら気づいたことを表現する場を企業のみなさんや保護者のみなさんにも聞いていただきたいです。

「なめりかわ未来学校」に向けたエール・意気込みを語る
針貝さん、柿沢副市長、上田教育長
今後の「なめりかわ未来学校」もパワーアップしていきます!
(実際の2024年サマースクールの様子)

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レポートはここまでになります。
2024年サマースクールの様子もこちらのnoteに更新していきます。お楽しみに!
また、「なめりかわ未来学校」にご協力いただける大人、企業のみなさまも募集しています。

<2023年サマースクールの様子はこちら>

<2024年プレ企画第一弾はこちら>

テキスト:なめりかわ未来学校協議会 /
     株式会社Laere 外川綾音


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