助けて!
助けて!
私は叫んだ。
十数キロ先まで届くほど叫んだ。
自分の声で自分の鼓膜が破れた。
助けて!
私は叫んだ。
しかし唇は閉じたままであった。
音が空気を振動させることはなかった。
助けて!
私は叫んだ。
誰にもその声が届くことはなかった。
身体の奥深く、真っ暗な心臓の中で
何回も何回も響き続けるだけであった。
助けて!
私はナイフを掴み、心臓を縦に切り裂いた。
助けて!助けて!助けて!助けて!
叫び声が溢れ出し、津波のように
十数キロ先までを覆った。
私の手は血に塗れてはいなかった。
私の胸は傷ひとつなかった。
ただ無慈悲に
心臓がぼん、ぼん、と鳴った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?