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ライブに予習なんて要らない

「OK Google、ラルクの新しい曲かけて」。

白くて丸っこい小さなスピーカーに、私はそう話しかけた。L'Arc~en~Ciel結成30周年ライブを目前にした、ある日のことだ。

私はその昔、彼らの音楽をよく聞いていた。90年代後半から2000年代頭にかけて、つまり結成して最初の10年くらいだ。だけどそのあとは、ちょっとご無沙汰してしまっていた。

だからライブを楽しみに思う反面、少し不安な気持ちもあった。この状態で30周年ライブに行くのは、卒業以来みんなと会ってない小学校の同窓会に、三十路になってひょっこり顔を出すようなものじゃないのか。

高校の部活も、大学の専攻も、社会人になってからのあれやこれやも、私だけ近況がすっぽ抜けてる状態で、仲良しグループの輪に入っていけるのか。


だから私は、「予習」をしていこうと思ったのだ。


***


スピーカーから流れてきた知らない曲を途中で遮って、私は音楽をとめた。

違う。私のお目当てはその曲じゃない。だってこれから会いに行くのは、私の青春時代のアイドルなのだ。



聞き覚えのある曲が聞きたくてチケットを買ったんじゃない。骨身にしみこんだ曲を聞きに行くんだ。

サビまできて初めて「あーこれか!」とわかる曲を聞きに行くんじゃない。イントロ5秒で興奮する曲を聞きに行くんだ。



「バンド名の日本語訳で華麗なる復活を遂げる」というストーリーに萌えた「虹」を、

無謀にも学園祭で演奏しようとしたら私には手数が多すぎて、こっそり音を間引いてそれっぽくごまかした「HONEY」を、

カラオケで流れてきたらもはや条件反射的に「Flash!」とか「Maybe lucky」とか「早く」とか合いの手を入れてしまう「Drivers High」や「STAY AWAY」や「Ready Steady Go」を、

TSUTAYAで借りてきたCDをMDに録音し、授業の合間に歌詞カードを広げてルーズリーフにせっせと書き写した「Blurry eyes」や「Lies and Truth」を、

聴けたなら、知らない曲がどれだけあったっていいじゃないか。



音楽番組「ポップジャム」の公開収録に応募するために往復はがきを10枚くらい買い込んで、抽選の際に少しでも目立つようにと名前や住所をミルキーペンで彩って、だけど当たらなかった20年前のあの時は。

それでもNHKホールに出向き、道端の植え込みにぶらぶら腰掛けながら、かすかに漏れてくる音に一生懸命耳を傾けてたじゃないか。たった1曲のために。


***



だから私は言い直した。いま一番聞きたい曲を聴くために。

「OK Google、ラルクの『True』かけて」


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