私が断捨離して後悔しているもの
SOPHIAというバンドをご存知ですか。90年代後半のバンドブームの一角を担っていたアーティストで、30代後半以上の方なら「街」や「黒いブーツ」といった代表曲を覚えていらっしゃるかもしれません。
彼らは2013年以降活動を休止していましたが、今年になって再開を発表。邦楽ロックと共に青春時代を過ごしたアラフォーの間で、ちょっとしたニュースになりました。
私は中高生の頃、このバンドが大好きでした。
CDを買い集め。
ボーカル松岡充さんがMCをつとめるラジオ番組を毎週欠かさず聴き。
「友達の友達がチケットを余らせている」と聞きつけ、初対面の人と一緒にライブに行ったこともあります。
当時私の手元には、雑誌の切り抜きを集めた分厚いファイルがありました。
「パチパチ」や「バックステージパス」といった音楽雑誌で彼らが表紙を飾っているのを見つければ、600円の値札とお小遣いを見比べながら本屋さんの芸能コーナーを何十分もウロウロし。
やっと購入を決めたら、インタビューを繰り返し読み込み、ページを切り抜き。
2穴ファイルにおさまるように、写真やインタビューの文字にかぶらないよう、最新の注意をはらってパンチで穴をあける。
そうやって手間暇かけて作り上げた切り抜きコレクションは、私の宝物でした。
あれから20年以上経った今でも、印象的なインタビューは覚えていたりします。
「切ないという言葉を直接使わずに、切なさを表現したい」とか。
「これまで『君を』という曲ばかりだったけれど、初めて『君と』という歌詞をかけた」とか。
亡くなった親友を想って作ったにもかかわらず、妙にポップで感情表現が控えめな曲についての、「こんな曲調、こんな歌詞でなければ僕は歌えなかった」とか。
過去記事で少し触れたことがありましたが、「読書」という趣味に対するある種のコンプレックスが消えたきっかけも、松岡充さんが愛読書を紹介していた記事でした。確か『チーズはどこへ消えた』だったかな?
そうやって、多感な時期の私に並々ならぬ影響を与えてくれたのがSOPHIAでした。
時は流れ、未来世紀。
私は、断捨離にハマっていました。
「毎日1つずつ捨てる」などと決めて不用品を探し回ってみたり、学期が終わるそばからテキストやノートを処分してみたり。「服を捨てすぎて服を買いに行く服がない」状態に陥ったこともありました。
ホコリを被った切り抜きファイルが目に留まったのは恐らく、「今日は何を処分しようかな」と家中を徘徊していた時だったのでしょう。
それは、バイト代と見比べる対象が飲み会や旅行にかわり、毎週同じ時間にラジオの前に座る時間もなくなった、大学時代だったかも知れません。
あるいは、本屋さんやCDがKindleやYouTubeにかわり、紙媒体で誰かの想いをきく機会もラジオをきく機器もなくなった、社会人期だったかも知れません。
その時のことは、全く覚えていません。
大人になってふと「あの切り抜きどうなったっけ?また見てみたいな」と思った時にはもう、ファイルはどこにも見当たりませんでした。
「大切に抱えてたものは、どこに置いたっけ?」
人生のある時期に本気ではまっていたものって、20年経っても30年経っても好きだったりするんですよね。当時と同じ熱量なんて持っておらず、すでに「卒業」したものだったとしても、心の奥の特別な場所に大事にしまわれていて、ふとした瞬間に蘇ってくる。
それは10年近く活動休止していたバンドが再開を発表した瞬間かもしれないし、
再開記念にカラオケに行って「本人映像」の曲を選んだら、当時のライブ映像が流れてきた瞬間かもしれないし、
ブックオフの永田さんが壊れた楽器で演奏している懐メロを見つけた瞬間かもしれないけれど、
真空パックに入れて冷凍保存していた気持ちが、何かの拍子に溶け出して、熱を帯びることがある。
そしてまた懐かしくなるんですよね、あの切り抜きが。
だからね、もう卒業してだいぶ経ったしとか、何年も触ってないしとか、「あの頃よりも少しは大人だろ?」とか思ったとしても。時間と手間と思い出がつまった宝物は、取っておけば良かったなと思うのです。
あの頃よりどれだけ大人になって、誰かの親にもなっても、そしてやがて土になる日まできっと、私にとって彼らは特別な存在なのだから。
SOPHIAに関する他の記事
音楽に関する他の記事
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?