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「時間の流れ」を描くのがうまいバンドの、9年ぶり復活ライブはやっぱりエモかった〜SOPHIA日本武道館公演

その日、日本武道館の周りは、季節外れのヒマワリを持った人たちで溢れていました。

お目当ては、SOPHIAの9年ぶり復活ライブ。

「風に揺れるひまわり あの時のままだね」 - そんなファーストシングルの歌詞にあわせて揺れる客席のヒマワリが、昔から彼らのライブの定番でした。

だけど、月7500円のお小遣いをやりくりしてチケット代を捻出していたかつての私には、そんなアイテムは無縁で。

初めての屋外ライブにドギマギした『獅子に翼』にも、友達の友達がチケットを余らせていると聞いて服の色を頼りにハチ公前で待ち合わせた『beautiful man』にも、ただただチケットだけを握りしめて向かったのを覚えています。


それから23年後。


武道館の2階席で彼らの登場を待つ私の手元には、ヒマワリやロゴ入りタオルに加え、1回500円のガチャまで回して手に入れた、使い所のよくわからないアイテム。

使えるお金も増え、当時のメンバーの年齢も追い越し、私も大人になったなぁと。

だけど開演が近づくにつれて膨らんでくワクワク感はあの頃と同じだなぁと、そんなことを考えながら、暗転していくステージを見つめていました。



SOPHIA。

90年代ビジュアル系ブームに乗る形でブレイクし、「街」「黒いブーツ」などのヒットを残したバンドです。

一般的には「ビジュアル系」とくくられつつも、王道V系とは違う切なげな曲の数々に、当時中高生だった私ものめりこみました。

しかしその勢いは、2000年代に入って失速。

ボーカル松岡充さんがMCで語った言葉を借りれば、「空回り」ののち「空中分解」するように活動休止してしまいます。日本武道館での公演を最後に、「前に進んでいたらいつかまたどこかで会える」という言葉を残して。2013年のことでした。




あの頃私はどうしてSOPHIAにはまったんだろう。20年を経て改めて振り返ったとき、浮かんできたのは「時間」というキーワードでした。



彼らはとにかく、「時間の流れを描く」のがうまかった。


たとえば2000年前後に「世紀」にまつわる曲を出したアーティストは決して少なくなかったとは思うのですが。

「Good morning, hello 21 century 
ほんとかね?はやくね?これが未来ですね?」
(2001年 進化論)

「時はながれ 未来世紀」(2002年 ROCK STAR)

「誰も22世紀にはいない」(2004年 Yes, attention)

と、3曲も使って世紀を語ってしまうアーティストは、なかなか珍しかったのではと思います。


それからたとえば、広い部屋に引っ越したあと、1番Aメロの頃に住んでた六畳一間をなつかしむ『ゴキゲン鳥』とか。

「未来」の意味が途中で種明かしされる『せめて未来だけは』とか。

人の親になってから土に還るまでが10秒くらいしかないThank you』とか。

あの頃教室の窓から見えた誰かが、実は今の自分だったりする『happy end』とか。

ずっと過去形で淡々と思い出を語ってたのに、最後の大サビ前で突然現在形で呼びかけてくる『黒いブーツ』とか。

いつも暗い夜がこわくてママのベッドに潜り込んでた少年が大きくなり、泣かずに逃げずに生きていこうとする『サーカス』とか。

あの頃よりも少しは大人なはずなのに、過ぎたことばかりが眩しく見える『beautiful』とか。

キラキラの舞台の真ん中から、ふてくされてたあの頃の自分にマイクで叫ぶ『』とか。

ベストアルバムのタイトルだって、『Young』『Young Adult』『Adult』だし。



成長過程で失ったもの、見えたもの、変わらないもの。生まれてきたこと、大人になること、死にゆくこと。限りある人生、繰り返す季節、諸行無常。

そんなテーマを時にはコミカルに、時にはセンチメンタルに描くのがとにかく上手くて。私の心はぎゅっとつかまれてしまった。



そんな「時の流れ」の扱いに長けたアーティストの、9年ぶり復活ライブ。しかも会場は、活動休止前にラストを飾った約束の地、日本武道館。

エモくなる要素しかない。

というか、選曲、映像、演出、MCすべてを、「エモ」に全振りしたステージでした。

ステージ中継にまざって映し出される、懐かしのライブ映像やミュージックビデオ。  

メンバーの癌闘病など、これまでの出来事を黒背景白文字で振り返る静かな時間。

さんざん笑いをとったあと、「正直苦しかった」「もう戻れないと思った」と、休止中の心境を吐露する松岡充さんのMC。

静と動、笑いとしんみりのメリハリはさすがです。

それから、来場者全員に配られた光る腕輪。

よく、ライブガチ勢がペンライトを会場に持ち込んだりするじゃないですか。それで自分が推すメンバーの色に光らせたりするじゃないですか。そんな飛び道具なんかない人は、とりあえず携帯のバックライトつけたりするじゃないですか。

そんな自然発生的な光も良いと思うんですが、今回のライブはそういうんじゃなくて。

全ての客席で、計算されたタイミングで同じ色に光るんですよね。その時々の演出と連動しながら。それがまた圧巻で。音楽を聞きに行って、照明に感動したのは初めてでした。


そして、セットリスト。

セトリはもう豪華というか何というか、ファンが聞きたがる曲の全部のせでした。「復活ライブ」に期待されるような曲は、一曲残らずやってくれたと思います。

海鮮丼でいえば、イクラとウニと伊勢エビとカニと大トロを食べてたら、鰻重も出てきた感じ。

ミュージックステーションでいえば、2000年の新春スペシャルみたいな。

実家のCDコンポで繰り返し聴いてた、懐かしい曲ばかり。ぼこぼこの机に歌詞カードを並べてルーズリーフに書き写してた、思い出の曲ばかり。

大事にしまっていたタイムカプセルを開けたような、楽しい夜でした。



さて。復活後の彼らはどんな顔をみせてくれるんでしょう。

「どんな形をとるのかはわからない」とは、松岡充さんもMCで語っていました。これからも全盛期の曲さえ演奏し続けてくれればそれでいい、そう思うファンもいるかも知れません。


だけどやっぱり私は、新曲を聞きたい。

だってね、

「一度はスターの座に上ったけれど、それでめでたしじゃなかった」
「空回り、そして空中分解のような活動停止」
「その間の苦しい日々」
「前に進んでいたらいつかまたどこかで会える」
「からの、約束の場所での復活」

みたいなテーマを音楽に昇華させるの、彼らめちゃくちゃ得意なはずなんですよ。


だから。

見せて欲しいんです。
俺たちを今も突き動かす夢を。

聞かせて欲しいんです。
俺よりぶっとんだお前の言葉を。

期待してるんです。
アウトロが終わったら繰り返したくなる曲を。
今でも。

One more please!


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