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※これはフィクションです。

僕が彼女の部屋を訪れたのは、予定の時間を2時間ほど
過ぎた頃だった。

「いらっしゃい。遅かったのね。」
「遅くなるなら、連絡してくれたら良かったのにー」

「あぁ…ごめん」

「ま、いいわ。さぁ入って」

彼女は、僕が遅れた理由も聞かずに、
『いつも通り』僕を迎えいれた。

彼女とは、もう7年も付き合ってた。
僕も彼女も、ゆくゆくは将来もって思ってた。

「あのさ…」

僕が、おもむろに切り出すと、
彼女はソレを遮るように声を大きくした。

「あのね!今日、ネットでマヨネーズを使って
 簡単にカルボナーラ作るレシピ見つけたのー!」

「ちょっと座ってて!すぐ作るから!」
「あ。夜ご飯まだだよね?」

「…うん。まだだけど…」
「その前に君に…」

「良かった!すぐ作るから!」

僕がそれを切りだそうとする度に、
彼女はそれを遮った。

僕は、彼女の部屋のいつもの場所に座り、
消したままのテレビの画面をじっと見つめながら、
2時間前から考えていた言葉を、
頭のなかで何度も復唱していた。

15分くらいすると、彼女がパスタを誇らしげに持ってきた。

「ほらぁーすごいでしょ?」
「これ、玉子とか使ってないんだよー。」
「でも、見た目も完全にカルボナーラでしょー」
「さぁさぁ!食べてみてー」

「……あぁ。」

話を切り出せなくなった僕は、仕方なく彼女の作ったパスタを口に運ぶ。。

和食好きだった彼女。
ナポリタン以外のパスタや、アヒージョなんて、食べたこともないとか言ってたのを思い出した。

最初の頃は、僕が作り方を教えながら作ってたな。。
今では、もう彼女の方が断然上手になってしまった。

よせばいいのに、こんな時に昔のことを
急に思い出してしまうんだ。。

『これが最後の彼女の手料理になるのか…』

その言葉が頭に浮かんだ瞬間。。

目の前がゆがんだ。

顔中が熱くなり、もう普通の顔をしていられなくなった。

僕は顔をあげて、彼女に悟られないようにと
涙を拭いながら「熱っ!」と、
大袈裟にリアクションしながら涙を拭いた。

「ごめーん!熱かった?」
「でも、どう?おいしいでしょ??」

「うん。おいしいよ…」

「でしょー?でも、これスゴく簡単なんだよー」
「最初にねー、いつも通りパスタ茹でたら~」

だんだんと、彼女の話が遠くに聞こえてきた。

心臓の鼓動が鼓膜を支配し、頭の中に
「早く言わなきゃ」
「早く言うんだ!」
と何度もループする。

「あの…」
「あのさ!!」

「え!?」

パスタの作り方を説明していた彼女が、
僕が普段出さない大声で話したことに驚いた。

「ごめん、でも、あのさ、、」
「今日は君に言わなきゃ…」

「嫌っ!!」
「聞きたくない!!」

今度は彼女が、大きな声で叫んだ。
すでに彼女の目には涙が浮かんでいる。

あぁ、そうか。。
彼女も、気づいていたんだ。

いや、気づかないはずがないんだ。
僕は、その為に今日のことを決めたんだから。

「ごめん。。でも、言わなきゃダメなんだ。」
「言いたくないけど、言わないとダメなんだよ!」

「…ダメなんだよ!!」

彼女の涙につられたのか、
僕の目にも涙が溢れだしてくる。。

「じゃ、言わなきゃいい!」
「お願い言わないで!」

僕は、その言葉を遮るようにきりだした。

「ごめん!僕と別れて欲しい。。」

僕が『別れ』という言葉を放った瞬間彼女の表情は
一変した。

哀しみではなく、怒り、、
いや、妬みや嫉妬なのかもしれない。

とにかく今まで見たこともないような感情で、
僕が次の言葉を放つのをおさえつけた。

「そんなにあの娘がいいの?」

全てを見透かしたかのように今度は、彼女が僕を責めた。
すべてわかった上での、今夜だということは、彼女も
わかっていたのだ。

「いや、そうじゃない。」
「彼女が、原因って訳じゃないんだ。」

「彼女?ふーん。」
「もう、そっちの味方ってわけ?」

「いや、だから違うんだ。
最近、君の実家にも挨拶行ったりして結婚とか
僕もすごい意識してきてたんだ。」

「そしたら…」

「君との結婚を、意識すればするほど、
 僕は、怖くなってきたんだよ。。」

「ほら。前に僕らは、一度別れただろ?」

「っていうか、僕が仕事やめて、次が見つからなくて
 どうしようもなくなってた頃、君から振られただろ?」

「半年後に、再就職先決まって、、」
「そしたら、また、君から連絡あって…」

「あの時、君は僕に言ったよね?」
「別れてる間、次の話はあったけど、僕のことが浮かんで誰とも付き合わなかったって。。」

「僕は、違うんだ。」

「君から別れを告げられた時、
 どうしようもなくなって…
 頭おかしくなりかけて…」

「仕事もない、若くもない、仕舞いには、夜の仕事を
はじめてしまうぐらいドン底だった僕を…」

「あの娘は好きだと言ってくれた。」

「君が、もう耐えられないと別れを切り出した僕を…」

「君と再び付き合う為に、
 僕は、あの娘に別れを告げたんだよ。
 すごく一方的に。。」

「それがずっと心に残ってたんだ。」

「もう、今さらあの娘に戻ろうとしても、 
 たぶん無理だろうけど、、
 こんな気持ち持ったまま
 君と結婚なんてできない。」

「ごめん。」

「ごめんよ。。」

………。

しばらくの沈黙のあと、彼女が再び口を開いた。

「嫌っ!」

「私は、二十歳からあなた付き合ってた。あなただけとよ?」
「私の二十代は、あなたしかいないのよ?」
「ここで、別れるなら、私の二十代返してよ!!」
「私の青春返してよ!!」

「そんな無茶な…」

「じゃ、別れるなんて言わないで!」
「私は、あなたが好きなの!」
「どうしようもないくらいあなたが好きなの。。」

「あなたが仕事を突然辞めて、次がなかなか見つからなかった時、私はみんなから早く別れて違う男探した方がいいって散々言われてたのよ!」

「でも、私はそうしなかった!」
「あなたが好きだったから!」

「でも、結局は別れ話してきたじゃないか?」

「仕方なかったのよ!」
「私だって、もう29よ? 若くないの。」
「結婚だってしたい。。」

「でも君は、あの時、僕は結婚相手に
 ふさわしくないって決めたから、
 僕に別れを切り出したんだろ?」

「だから、違うの!!」
「私は、あなたが好きなの!」

「どこか、よそ見したっていい!」
「なんなら、浮気されたっていい!」

「最後に私の隣にいてくれたら、それでいい!」

「あなたが好きなのよ。。」
「どんなことされたって、嫌いになれないの。。」
「どうしようもなく、あなたが好きなのよ。」

そこまで言うと、彼女は大声で泣き崩れた。

僕は、こんな言葉をかけられたのは、はじめてだった。
困惑し、、罪悪感に苛まれ、、
僕が一方的に悪くて、ひどいヤツに思えてきた。

なんで、僕は、この子のことを好きじゃなくなったんだろう?
僕がずっと彼女を愛してさえいれば、こんなことには
ならなかったのに。

じゃあ、また彼女を心から愛せるようになれるのか?


それができるなら、
こんな話わざわざ切り出したりしない!


僕は、自分がイヤでイヤで仕方なくなった。
最低な人間だ。


彼女も、あの娘も傷つけて、、

僕は、何がしたいんだ。


こんな最低な僕とは、彼女は別れた方がきっと幸せになる!

そうだ。
そうに違いない!!

僕は、自分を正当化する為に、自分が悪魔なのような
最低な男であると思うんだ!

矛盾するような、正論のようなよくわからない感情だ、、

ただ、そうと決めたら、やることは1つだけだった。

「ごめん。」
「僕なんかより、ずっと君を大切にしてくれる人がいるよ」
「だから。。」

「じゃ、、」

いつものように『またね』っと言いかけて、飲み込み…

「さよなら。。」

僕は、逃げ出すように玄関に向かった。
靴を履き、ドアノブを回した瞬間、、


「うわぁーー!!」

振り替えると彼女が、包丁を持って立っていた。

「待て!落ち着け!」
「どうしちゃったんだ!!?」

「許せない…」
「許せないの!!」

「あなたは私のモノなの。」
「私だけのモノなの!あの娘なんかにあげない!!」

「絶対にーー!!!」

「うわーーーー!!!!!!!!」

彼女は、包丁を両手で掴んだまま、私に突っ込んできた。

返り血を浴びた彼女は、安堵の表情すら浮かべてこう言った。

「誰にも渡さないから…」

「これで、もうあなたはずっと、私のモノ。。」

「フフッ…」

※この話は、フィクションです。

実在の人物や団体などとは関係ありません。。

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